第10回:ガンバレ、アメ車たち!(前編)〜アメ車が売れない現実
2007.02.28 アメ車に明日はあるのか?第10回:ガンバレ、アメ車たち!(前編)〜アメ車が売れない現実
■日本車好調、アメ車伸び悩み
2007年に入り、私だけではなく、世界中の自動車関係者たちがこう言い出した。「アメ車に明日はあるのか?」。アメ車たちはいま、彼らの社史上で最大のターニングポイントに差しかかっている。
私は2007年1月上旬にデトロイトショー(北米国際自動車ショー)、そして2月上旬にシカゴ国際オートショーの現地にいた。日米欧のメーカー関係者やメディア関係者と直接会って、アメ車の実情、そして未来像について、感じたままを語りあった。結論を言うと「このままでは、アメ車に未来はない」。「アメ車は根本的に大きく変わらなければならない」。それが私を含めて多くの人の意見だった。
2007年1月、米国内自動車販売台数データで、日本車シェアは史上最高の37.5%に達した。これに押され、アメ車シェアは史上最低水準に落ち込んだ。
アメリカでは通常、どのメーカーでも3月(半期末商戦)、8月(年次モデル発売前の在庫処分&年次新車効果)、12月(クリスマス&年末商戦)に販売台数が伸びる。対する1月は年間を通じて、クルマが売れない月といわれる。つまり1月は、売れるクルマと売れないクルマの差が大きく出る月。すなわち、純粋な人気を見る限り、アメ車は落ち込んできているといえるだろう。
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■商品も商人も改善必要
アメ車が売れない理由を少々乱暴に2つ挙げてみる。
(1)売れるクルマが少ない
お客の声をしっかりと反映させた外観/内装デザインでないのは明白。新車価格を安く設定することで、「安かろう、悪かろう」的な品質レベルになってしまう。さらに燃費で日本車に負けている。大幅ディスカウントをしてもらって購入していても、ここ数年に実施された超大型大ディスカウントが中古車市場を破壊しているため、リセールバリュー(下取り価格)が極端に落ちる。
商品企画戦略、デザインセンス、ブランド構築戦略、販売戦略において、自動車メーカーとしての根本に関わることが多い。
(2)売る気がない
私は日頃から、市場調査を目的として地元テキサスはもとより、アメリカ各地のカーディーラーに立ち寄るようにしている。
すると米ビッグ3系のディーラーマンたちは、そろいもそろって活気が感じられないのだ。対してトヨタ、ホンダなどでは、ディーラーマンたちがウルサイくらいに積極的で、米ビッグ3との差は明らかに大きい。
売れないから売る気にならない→また売れない→売る気にならない……の悪循環。コミッション(販売に応じた手数料収入)の度合いが大きいカーディーラーマンたちにとって、アメ車は美味しい商売ではないのだ。
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■売れなければ撤退
こうした状況下、米ビッグ3に多大なる危機感があるのは事実。
各社とも最近、大規模なリストラ戦略を打ち出している。大量解雇、工場閉鎖が相次いでいるのがそれである。
「いったん、引けぇー!」との大号令とともに、最前線から撤退しているのだ。米国式ビジネスの常套手段、「売れないから、規模縮小」という単純明快な方針を貫いている。
もちろん、米ビッグ3各社は現状打開策&未来事業図もシッカリ考え、示している。それを見る限り可能性を秘めた新車たちもたくさんあるのだが……。
米ビッグ3各社の出直し戦略、果たしてうまくいくのだろうか?
(つづく)

桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
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第11回:ガンバレ、アメ車たち!(後編)〜ビッグ3にエールを 2007.3.1 「アメ車に明日はあるのか?」というエッセイの締めくくりとして、米ビッグ3それぞれを分析しようと思う。今までの取材に加え、ここ1ヶ月ほどの取材で痛感したことも多い。
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第9回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(後編) 2006.12.29 ■古い設計でも十分と考えるフォードGMに続き、フォードの試乗エリアに来てみると、ウェイティングの人があとを絶たない。そう、皆、「シェルビーGT500」(5.4リッターV8、500ps)にどうしても乗りたいのだ。それほど“シェルビー効果”は、典型的なアメリカ人に有効なのだ。その乗り味を一言で表現すると「意外と、普通」。エンジンONでV8がドロドロすることもないし、低速走行でサスがガシガシ、ゴツゴツもしない。「なんだか拍子抜けしちゃう」ほど、普段のドライブに向いている。アクセル全開で、イートン製ルーツ式3枚歯スーパーチャージャーが「ウギュワァーン!」と叫ぶ。だが、遮音性が意外と高く、うるさいと思う音量・音質ではない。直線でフルスロットル。リアサスがじーんわりと沈みこみ、ズッシーンと加速する。コーナーに進入。トラクションコントロールをONにしたまま、この手のクルマとしては中程度の重さとなるパワステを切る。ステアリングを切ったぶんだけクルマ全体が曲がるような安心感があるのだが、ステアリングギア比が意外とスローで、結構な角度まで切りたす必要があった。ロール量は、乗り心地と比例して大きいが、「この先、どっかにブッ飛っンでいっちゃうのか!?」というような不安はない。ちなみにトラクションコントロールOFFで同じコーナーを攻めてみると、意外や意外、コントローラブルだった。このボディスタイルからすると、スナップオーバー(いきなりグワーンとリアが振り回される現象)を想像してしまうのだが……。日系自動車メーカー開発者たちはよく「こんな古い基本設計のリアサスでいいのか?」といっている。しかし、シェルビーGT500の目指す「大パワーを万人向きに楽しく&乗りやすく」は、十分満たされている。なお、系統は違うが、期待のミドサイズSUV「エッジ」でも同様に、マイルド系ズッシリ乗り味は表現されていた。
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第8回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(前編) 2006.12.28 毎年恒例、米国メディア団体のMPG(Motor Press Guild)主催のトラックデー。日米欧韓各自動車メーカーが最新型車両を持ち込み、サーキットと一般路で走行体験をさせてくれるビッグイベントだ。今回集まったのはおよそ130台。アメ車たちは他国モデルのなかに埋もれず、個性を出していたのだろうか?■アメ車の個性をハイパフォーマンスモデルで試す皆さんはこんなことを思ったことはないだろうか。「クルマの技術って、メーカーによってそんなに違いがあるの? どのメーカーだって、最新コンピュータ技術を導入しているし、生産技術は上がっているし、他社関連の情報だってウェブ上に溢れかえっている。だいたい、比較車両としてどのメーカーも競合車は購入してバラバラにして詳細解析しているのだから、同じ価格帯のクルマならどこのメーカーも似たようなクルマになるでしょ……」確かに一理ある。ところが、現実には各社モデルには技術的な差がある。その差を背景として、各車の“味”も変わってくる。特に、乗り味、走り味の差は大きい。その原因は、購買コスト&製造コストとの兼ね合い、開発責任者のこだわりやエゴ、実験担当部署の重鎮との社内的なしがらみ、開発担当役員の“鶴の一声”……など様々だ。ではそうした差は、アメ車と日欧韓車、いかに違うのか。今回の「トラックデー」で、約50台のステアリングホイールを握ったが、そのなかでも各社が力を入れ、アメ車の色が濃く出ているハイパフォーマンスモデルに絞って、乗り味、走り味を比較してみたい。場所はウイロースプリングス・ロングコース(1周約3km)。ここでは200km/hオーバーの高速コーナリングから、ハードブレーキングまでチェックできるほか、近場の一般道でも乗り心地などを試すことができる。
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第7回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(後編)(桃田健史) 2006.11.15 ■会場はレトロな雰囲気スターがいない。これが、今年のSEMAショー全体を見ての率直な感想だ。SEMAショーではここ数年、「ハマーH2」「クライスラー300C」や、ホンダ系プライベーター主導のジャパニーズ暴走族、などアメリカの社会背景を映し出してきたクルマたちが華やいでいた。だが今回は、次世代のスターの姿が全く見えてこなかった。毎年キャッチコピーや『Car/Truck of the Show』というテーマを祭り上げて、ショー全体の雰囲気作りを行っているSEMAショーの今年のテーマは『American Musclecar』。会場正面玄関には歴代の「フォード・マスタング」「ダッジ・チャージャー/チャレンジャー」「シボレー・カマロ/コルベット」など、V8ドロドロなアメリカン魂たちがレッドカーペットの上で整然と構えていた。ということで、会場内のあちこちにも60年代のレトロな雰囲気が蔓延していた。アメリカングラフィティ世代の初老のカーファンたちは「いやー、昔のアメリカはほんと、楽しかったわいなぁ……」とノンビリとした足取り。
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第6回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(前編)(桃田健史) 2006.11.13 ■プレスなのに取材拒否?「今すぐ、ここから出て行って下さい!」。強面のセキュリティにすごまれた。ここは、米ネバダ州ラスベガス。毎年11月の恒例イベント、世界最大級の自動車アフターマーケット見本市であるSEMA(Specialty Equipment Market Association)ショーの取材に来た。問題が発生したのは開催2日目の昼、ラグジィ系大手ホイールメーカーのブースでのことだ。雑誌掲載用に、まずは手持ちデジカメでパチパチと撮影。そして、タイヤサイズなどをメモしようとカバンからノートを取り出した瞬間、セキュリティが飛んできたのだ。彼は「商品について、筆記することはお断りします」と言う。私は首からぶら下げたSEMA発行のプレスクレデンシャルを見せて、「いや、私はプレス。取材ですから」とさりげなく言うと、「ですから、商品についてここで書くことは一切できません。写真は構いませんが」と、相手はより強い口調で返してきた。「あなたの言う意味がよく分かりません。つじつまが合わないので、SEMA事務局に後で聞いてみます」と言った瞬間、相手は「今すぐ、ここから出て行って下さい!」と血相を変えた。埒(らち)が明かないと思った私は渋々そのブースを出た。するとあのセキュリティは私の後ろ姿を指差し、ブース入り口のキャンギャルに「アイツを、2度とここに入れるな!」と“用心棒”のような捨て台詞を残した。こうしてつまみ出された私。まるで、間違えて入ってしまった新宿歌舞伎町の非合法な飲み屋から叩き出されたような気分になった。
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