アウディTTクーペ 3.2 クワトロ(4WD/2ペダル6MT)【ブリーフテスト】
アウディTTクーペ 3.2 クワトロ(4WD/2ペダル6MT) 2007.02.03 試乗記 ……607.0万円総合評価……★★★★
アウディの新型「TTクーペ」は、とかく先代と比べてデザイン面での「後退」がうんぬんされる。当初の「幻滅感」からそろそろ自由になった今、スペシャルティカーとしての資質を上位モデルに探ってみた。
アウディ日和に真価がわかる
最初に「シングルフレームグリル」を目の当たりにしたのは、ミラノで開かれた「A6」の国際試乗会だったと思う。イタリアいちのオシャレ都市を背景にして、その威容は魁偉にも映ったけれど、最近ではすっかり慣れてしまった。
しかし、新しい「TT」が登場すると、押し出しの利いた意匠はこのモデルのためにあったのだな、と思えてくる。セダンやワゴンにもそれなりにマッチはするものの、今のところシングルフレームグリルが似合うモデルナンバーワンがTTなのだと思う(「R8」登場までの期間限定)。初代に比べて個性がなくなったという声をよく聞くが、このグリルの存在感を考慮に入れれば、なかなか頑張っているともいえる。
試乗した日は朝方は晴れていたものの、午後になると季節外れの強風と豪雨に見舞われた。しかし、そういう荒天こそが、「アウディ日和」なのである。まわりのクルマがおっかなびっくりでゆるゆる進んでいるわきを堂々といつものペースで走っていられるのは、アウディの誇るクワトロシステムの信頼感のおかげなのだ。その挙動のどっしり落ち着いた様がドライバーに与える心強さは計り知れないものがある。
余裕たっぷりのV6エンジンに安楽にもスポーティにも扱えるSトロニックを組み合わせ、盤石のクワトロが足元に控える。内装はクール&アーティスティクなアウディお得意の設えだ。574万円という価格は、お買い得にも思えてくる。ひと昔前なら最強のデートカー(死語)になったはずだが、このジャンルが全体としてシュリンクしていることが、このモデルにとっての不幸だ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1998年に初代TTがデビューし、いわゆる「バウハウスデザイン」による斬新な造形が大きく注目された。ピュアなスポーツカーではなく、スポーティなクーペという位置づけで、特にATモデルが登場してからはお洒落グルマとしても人気を博した。
8年余の間に約26万台を販売するヒット作となり、満を持して2006年に2代目が登場した。日本での展開はFFの2リッター直噴ターボを搭載した2.0TFSIと、3.2リッターV6エンジンにクワトロシステムを組み合わせた3.2 quattroの2モデルとなる。ともにトランスミッションは、2ペダルMTの6段Sトロニック。2007年夏にロードスターモデルの導入が予定されている。
(グレード概要)
250psを発生する3.2リッターV6エンジンを搭載し、フルタイム四輪駆動のクワトロシステムを与えられたモデル。左右2本出しのエギゾーストパイプを備え、245/40R18タイヤが標準となる。2.0TFSIとの価格差は、134万円。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
コクピットに収まった時の充実感はアウディ全般の大きなアドバンテージだが、TTはさらに適度にタイトな空間がスポーティな雰囲気を盛り上げてドライバーのプライドを満足させる。
小ぶりな楕円のメーターパネルの中には大きなリングのスピードメーターと回転計があり、視認性とスポーツカー的雰囲気を両立させている。小さなリングの水温計と燃料計、そして中くらいのリングのエアコン吹き出し口が水平に並んで心地よいリズムを生み出している。
仕上げのよさは他社がベンチマークにするほどの水準だから、文句のつけようがない。いわゆる「プレミアム感」を演出するノウハウでは、まだまだ一歩先を行っている。
異形のステアリングホイールは好き嫌いがあるかもしれないが、これもスポーティさを強調しているのだろう。カップホルダーに芸がないなどと難癖をつけるのは、あまり品のいいことではないだろう。
(前席)……★★★★
明快な曲線で区切られたシートはモダンを追求するあまり掛け心地が悪くなっているのではと懸念してしまうが、それは杞憂。少々乗り込みづらさはあるが、それもサイドサポートを優先させてのこと。
和む、寛ぐというヤワな感覚は徹底的に排除されていて、あくまでクールでスタイリッシュということが目指されている。センターコンソールが高い壁て囲まれているせいで閉塞感が強くなり、掃除もしにくそうだ。この空間では、そんなことは極めて優先順位の低い事項である。一貫した美意識に共感できる人のための設えなのだ。
(後席)……★
大人が座るのは、ごく短時間でも拷問に等しい。頭はつかえるし、極端な猫背の姿勢を強いられる。小学生でも文句を言うだろう。完全に、荷物置き場。
(荷室)……★★★
もちろんそのままではたいしたスペースではないが、後席シートバックを倒すと結構な空間が現れる。ちゃんとフラットにもなるし、高さのあるものでなければ収納できる。どうせ後席には人を乗せられないのだから、この状態を標準と考えてもいいわけで、だとすればフェアレディZ並みの広さは確保していると言える。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
アウディの3.2リッターV6エンジンの実力はこれまでにもさまざまなモデルで試して知っていたが、このモデルとの相性はまた格別である。ASF(アウディ・スペース・フレーム)と名付けられた軽量なアルミボディにとっては、250psのパワーユニットは過剰なほどの力の源泉だ。3.2〜3.5リッターのV6エンジンは各社が力を入れていて有力なライバルがひしめいているが、このV6の長所は低回転域からのトルク感に優れるところだろう。機械的に緻密に仕上げられているという感覚が、如実に伝わってくる。
DSG改めSトロニックが組み合わされることで、さらに印象が良くなる。このトランスミッションの変速の素早さとスムーズさは何度も感心しているのだが、乗るたびにまた新たな感興を覚えてしまうのだ。どう考えても自分がMTで操るよりもはるかに上手なシフトを行うから、何度乗っても新鮮さを感じてしまうのだ。
このエンジンとトランスミッションのスムーズさが合わさることにより、スピード感というものは確実に失われることになる。爽快さは、これも緻密さを体現したかのような隙のないサウンドの高まりから感じるだけにするのが無難だ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
フラット感、安定感に優れるのは、やはりこのクルマの良き部分なのだろう。小さなコーナーでも思いのほか身軽な動きを見せるのだが、高速道路での落ち着いた身振りは圧巻だ。多少の無茶には動じない落ち着きぶりは、安心を通り越してある種の威圧感さえ漂う。軽快な動作を望むのなら、別の選択肢があるかもしれない。
雨中の高速道路は、このクルマの実力を余すところなく発揮するステージだ。悪天候の中で長距離移動を強いられるならば、これほど頼れるものはない。
乗り心地も、重厚で堂々としている。無粋な突き上げでプレミアム感が損なわれる事態は、ごくたまにしか起こらない。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:鈴木真人(別冊単行本編集室)
テスト日:2006年12月26日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年型
テスト車の走行距離:7664km
タイヤ:(前)245/40R18(後)同じ
オプション装備:レザーパッケージ1=13万円/アウディマグネティックライド=20万円
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(8)
テスト距離:193.5km
使用燃料:27リッター
参考燃費:7.16km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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