フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(FF/2ペダル6MT)【ブリーフテスト】
フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(FF/2ペダル6MT) 2007.01.22 試乗記 ……330万2000円総合評価……★★★★
フォルクスワーゲン「ゴルフ」に世界初を謳う“直噴ツインチャージャーエンジン”を搭載するモデル「GT TSI」が登場した。ターボとスーパーチャージャーを併せ持つ「TSI」エンジンは、どのような走りをみせるのか。新型モデルに試乗した。
1.4リッターエンジン搭載のホットモデル(?)
実に面白いクルマが日本導入となった。その名は「ゴルフGT TSI」。本国では2006年に導入されており、日本ではGTの後継となるモデルだ。
さらりとその内容を説明すれば、現行ゴルフVのボディに170PSのTSIエンジンを搭載したモデルなのだが、このTSIというのが「ターボチャージャー」と「スーパーチャージャー」を組み合わせた方式なのである。そこだけ聞くと「ゴルフGTI」をも上回るホットモデルなの!? と思うかも知れないが、これに搭載されるのはなんと1.4リッターの小排気量直噴エンジンなのであった。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
コンパクトカーの代名詞的存在であるゴルフは、2004年5月に5世代目が日本に導入された。「アウディA3」とプラットフォームを共用しているが、ゴルフ自体でも広いバリエーションを展開している。エンジンラインナップは、1.6リッターFSI(116ps)、2リッターNA(150ps)、2リッターターボ(200ps)、3.2リッターV6(250ps)の4種。2007年2月6日、2リッターNAモデルの「ゴルフGT」にかわり、1.4リッター“直噴ツインチャージャーエンジン”を搭載する新型「ゴルフGT TSI」が発売された。
トランスミッションはティプトロニック付き6段AT、6段MT、6段DSGの3種がある。
(グレード概要)
これまで2リッターFSI(直噴)エンジンを搭載していたゴルフGTの後継車種。テスト車の外観上の変更点は、ボディと同色になったGT専用のフロントバンパー&ラジエターグリル、クロームツインエキゾーストパイプ、7J×17のアルミホイールがあげられる。
インテリアは“Brick”(ブリック)という専用パターンを持つスポーツシート、“Black Onyx”(ブラック・オニキス)カラーで統一されるインパネ、スーパーチャージャー及びターボ用のブーストメーター。トランスミッションは2ペダル6段MT(DSG)となる。
その他に安全装備では8エアバッグやESP、快適装備ではデュアルゾーン式フルオートエアコンディショナー、走りの面ではバイキセノンヘッドライトとスポーツサスペンション(GLi比マイナス20mm)、225/45R17タイヤが標準装備。ボディカラーはリフレックスシルバー/ブラックマジック/キャンディホワイト/トルネードレッドの標準色と、ブルーグラファイト/シャドーブルー/ユナイテッドグレーの受注色で合計7色が用意される。
【車内と荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
室内空間はいたってゴルフV。ただしレザーパッケージではなくファブリックがメインとなるために、意外と質素に感じる。とはいえ、インパネをブラックオニキスとして、その他のパネルも同色系でまとめているから、チープな感じはない。普通に普通のゴルフに乗っている感じ、とでも言えばよいだろうか。
ステアリングにちょこんと付けられたDSG用のパドルシフトはやはり嬉しい。これまでの6ATに不満があったわけではなく、むしろ細かいことを言えば6ATの方がラクチンなのであるが、フォルクスワーゲンと言えばDSGでしょ! という刷り込みが頭に入ってしまっているのだろう。
そのDSG用インジケーターの下あたり、ガソリンメーターの横にあるのはブーストメーター。小さいメーターながらも運転中は針が活発に上下するので、見ている分にはこれも楽しい。通常「ターボが効いている=ガソリンの無駄遣い」的イメージがあるが、むしろこのモデルの場合は過給器ががんばって仕事をしてくれている的乗り物だから、安心して見ていられるのもマル。
(前席)……★★★★
シートがファブリックとなっているので、チョイ乗り一見さんのボクもふっかりと着座させてもらえた。レザーシートだとその使い方によってシートのクセが出てくるから、こうはいかない。
着座感は座面が掘ってある感じで、低めにすっぽりと座らせてくれるのが良い。その分サイドサポートが効いて、スポーティな雰囲気が適度に味わえた。低めのポジションが好きな人には良いだろう。
(後席)……★★★
これもいたってゴルフV。いまやハッチバックといえど大柄となったボディの恩恵で、頭上もレッグスペースも充分。着座位置が低めに感じられるが、これは実際に走り出したときには有効。重心が高くならないから、揺れに対しても酔わずに座っていられるはずだ。
(荷室)……★★★
シートバック可倒式(ノンダブルフォールディング)のバックレスト、トランク容量ともに従来通り。十分な容量が確保されている。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
1.4リッター直列4気筒DOHCインタークーラー付きエンジンに組み合わされるのはルーツ式スーパーチャージャーとターボチャージャー。
クランクの回転出力によって動くスーパーチャージャーを使用し吸入エアを圧送。その間に排圧によってターボチャージャーを回転させておく。約3500rpmになったら、もう1本の吸気パイプにあるコントロールフラップが開き、スーパーチャージャーはお役御免。そこからはより高回転まで追従するタービンブレードが回りだし、さらに多くの吸入エアを圧送する。つまり、低回転域でスーパーチャージャーが、高回転域ではターボチャージャーが働くことによって、たった1.4リッターのDOHCエンジンが170ps/6000rpm、24.5kgm/1500〜4750rpmという高出力を発揮するのだ。数値的にも従来の2.0リッター(150ps/20.5kgm)を大きく上回っている。
実際のフィールはVWの喧伝通り(最高出力は2.3リッターNA車なみ、最大トルクは2.4リッターNA車なみ)大した物で、2リッターのロープレッシャーターボ車と言われても「そうなんだ!」と納得してしまうフィールであった。
ちなみにブースト圧は低回転域が2.5barと最も高く、徐々に低下してゆくという。ターボラグもなければ高回転域での根詰まり感もない。かつ本体が1.4リッターというイメージによって技術力の高さばかりが目に付き、思わずニマニマと頬が緩む。これで燃費もよい(10・15モードで14.0km/リッター)というのだから、なんだかTVショッピングのようだ。もちろんプリウスなどと比べてはいけないのだろうが。
これにシフト反応速度の速いDSGが組み合わさるのであるから、オーナーは「VWちょっと無敵!?」としばらくはしゃげるであろう。ただしDSGのプログラミングは「R32」などと比べるとソフトな感じで(特にシフトダウン)、このクルマが純粋なスポーツモデルではないことを意識させられる場面も。
しかし、通常ユースを考えれば非常にバランスが良いモデルであるというのが総論。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
エンジンの話題がメインのGT TSIであるが、少し気になった部分もある。それはシャシー、主にフロントサスペンションの操舵である。
個体差があるやもしれないが、225/45R17と出力に応じてタイヤサイズがアップされたにもかかわらず、大きな荷重がフロントにかかった際にステア方向とは逆に慣性重量が働く場面が見受けられた。重たくなった車重(1390kg→1410kg)に対してタイヤグリップが不足しアンダーステアを誘発した、という感じではない。タイヤ剛性が不足して逆方向に一瞬ステアしてしまう感じだ。45扁平タイヤのサイドウォールが捻れるとは思い難いが、通常の驚くほどコンフォートな乗り味を実現する上でここに無理が来たのだろうか。フロントアクスル部分の剛性不足という感じもないし、もしかしたらブッシュコンプライアンスが柔らかいのかもしれない。
よって通常路での乗り心地は十二分に合格点。タービンがおりなす爽やかなエンジンフィールにマッチした、17インチタイヤながら柔らかいNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)性能を得られている。
ちなみに下りで大きな荷重移動が起こった際の、リアアクスル(マルチリンク式)の落ち着き具合は従来通り優秀。
GT TSIというグレードでダウンヒルを全開で攻める! ことは少ないとは思うが、これだけ気持ちの良いエンジンとDSGミッションを持たせているということを考慮すると、やはりこの領域まで挙動を管理してもらいたいと感じた。それだけ、今回のGT TSIは走れてしまうクルマなのである。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:山田弘樹
テスト日:2007年1月10日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2007年型
テスト車の走行距離:5116km
タイヤ:(前)225/45R17 91W(後)同じ(いずれもコンチネンタル スポーツコンタクト2)
オプション装備:VWマルチメディアステーション(25万2000円)
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1):高速道路(6):山岳路(3)
テスト距離:239.3km
使用燃料:23リッター
参考燃費:10.4km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
プジョー408 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2025.9.19 プジョーのクーペSUV「408」に1.2リッター直3ターボエンジンを核とするマイルドハイブリッド車(MHEV)が追加された。ステランティスが搭載を推進する最新のパワーユニットと、スタイリッシュなフレンチクロスオーバーが織りなす走りを確かめた。
-
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】 2025.9.17 最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。
-
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.16 人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ランボルギーニ・ウルスSE(前編)
2025.9.21思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「ランボルギーニ・ウルスSE」に試乗。時代の要請を受け、ブランド史上最大のヒットモデルをプラグインハイブリッド車に仕立て直した最新モデルだ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT ABS(6AT)【レビュー】
2025.9.20試乗記日本のモーターサイクルのなかでも、屈指のハイテクマシンである「ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT」に試乗。高度な運転支援システムに、電子制御トランスミッション「Y-AMT」まで備えた先進のスポーツツアラーは、ライダーを旅へといざなう一台に仕上がっていた。 -
あの多田哲哉の自動車放談――ポルシェ911カレラGTS編
2025.9.19webCG Moviesトヨタ在籍時から、「ポルシェ911」には敬意を持って接してきたというエンジニアの多田哲哉さん。では、ハイブリッド化した911にどんなことを思ったか? 試乗した印象を存分に語ってもらった。 -
メルセデス・マイバッハS680エディションノーザンライツ
2025.9.19画像・写真2025年9月19日に国内での受注が始まった「メルセデス・マイバッハS680エディションノーザンライツ」は、販売台数5台限定、価格は5700万円という高級サルーン。その特別仕立ての外装・内装を写真で紹介する。 -
「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」…… メイド・イン・チャイナの日本車は日本に来るのか?
2025.9.19デイリーコラム中国でふたたび攻勢に出る日本の自動車メーカーだが、「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」と、その主役は開発、部品調達、製造のすべてが中国で行われる車種だ。驚きのコストパフォーマンスを誇るこれらのモデルが、日本に来ることはあるのだろうか? -
プジョー408 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2025.9.19試乗記プジョーのクーペSUV「408」に1.2リッター直3ターボエンジンを核とするマイルドハイブリッド車(MHEV)が追加された。ステランティスが搭載を推進する最新のパワーユニットと、スタイリッシュなフレンチクロスオーバーが織りなす走りを確かめた。