第7回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(後編)(桃田健史)
2006.11.15 アメ車に明日はあるのか?第7回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(後編)
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■会場はレトロな雰囲気
スターがいない。これが、今年のSEMAショー全体を見ての率直な感想だ。
SEMAショーではここ数年、「ハマーH2」「クライスラー300C」や、ホンダ系プライベーター主導のジャパニーズ暴走族、などアメリカの社会背景を映し出してきたクルマたちが華やいでいた。だが今回は、次世代のスターの姿が全く見えてこなかった。
毎年キャッチコピーや『Car/Truck of the Show』というテーマを祭り上げて、ショー全体の雰囲気作りを行っているSEMAショーの今年のテーマは『American Musclecar』。会場正面玄関には歴代の「フォード・マスタング」「ダッジ・チャージャー/チャレンジャー」「シボレー・カマロ/コルベット」など、V8ドロドロなアメリカン魂たちがレッドカーペットの上で整然と構えていた。
ということで、会場内のあちこちにも60年代のレトロな雰囲気が蔓延していた。アメリカングラフィティ世代の初老のカーファンたちは「いやー、昔のアメリカはほんと、楽しかったわいなぁ……」とノンビリとした足取り。
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■SEMAショー全体が“落ち着いてしまった”
私はSEMAショーを過去20数年間程見てきている。そして今回、こんな風に思った。「なんだか、昔のSEMAショーっぽいなぁ」。これはテーマがマッスルカーだからではなく、SEMAショー全体が“落ち着いてしまった”からだ。
初期ネットバブルが起こった1995年あたりから今年初頭あたりまで、アメリカ庶民は景気の良さを実感し、その波にSEMAショーも同調してきた。ビッグ3の出展ブースは大型化、それを日系、韓国メーカーが後追いし、俗称“スポコン”のジャパニーズ暴走族たちが氾濫して……、SEMAショー全体の展示規模も拡張の一途をたどった。
アメリカ経済全体の失速感があらわになってきた昨今の状況を反映するかのように、そうした“新しい何か”が今回のSEMAショーにはなくなってしまったのだ。
ようするにネタの打ち止め。SEMA側は、展示者やユーザーをあおるが、ショー会場全体の雰囲気は普通の展示会然として、すっかり落ち着いてしまった。
ビッグ3も日系韓国系メーカーも、最初はオドオドおっかなビックリとアフターマーケットを覗きにきて、「ちょっとオイシソウかな?」と思って仕掛けを作り、昨年あたりまででマーケットデータは十分に取れた、という感じだろうか。
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■ビッグ3各社の動き
その傾向はビッグ3に特に強く見られ、出展車両のラインアップも昨年とカブッているケースがほとんどだ。
フォードは「マスタング一本に絞る=マスタングしかアフターでは金にならない」と明言。昨年登場させた「フュージョン/ファイブハンドレッド」、今年登場の「エッジ」には「(アフターについて)まったく期待はしていない」という。
SUV、ピックアップトラック用品はまだオイシイ商売なのでキープするも、新規のリスクは負わずのスタンスだ。
GMは、“実にGMらしく”毎年方針がコロコロ変わり、アフターでもまったく狙いが定まらない。「シボレーHHR」やら、「ポンティアックGXP」シリーズやら、過去に仕掛けた連中は撃沈状態。SUV、ピックアップトラック用品に、ただただしがみ付こうとしている。
ダイムラー・クライスラーも冴えない。ハイリスクなビジネスモデル、正規ディーラーでのチューニングプログラム「Speed Shop」は安定成長のようだが、とにかく本業の屋台骨が揺らいでいる。
さらにドイツのメディアが、「ダイムラー・クライスラーとVWが提携を検討、クライスラー部門を分離か?」とニュース配信したため、経済記者たちがMOPAR(クライスラーのアフター系ブランド)の発表会でダイムラー・クライスラー幹部たちを質問攻めに。こんな時期、四半期(3ヶ月)単位でモノを見るアメリカ人ビジネスマンにとって、「アフタービジネスどころではない」というのが本音ではなかろうか。
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■「フォーカス」「シビック」はどこへ?
とまあ、いろいろあってもビッグ3は「アフター系、これからは俺たちの時代」と思っているに違いない。「シボレー・カマロ」「ダッジ・チャレンジャー」など、今回のテーマである『American Musclecar』なヤツラが復活するからだ。
マスタングだってまだまだ売れ続けると思っているから、メーカー完全保証のチューニングパーツを続々と売り出すという強気の作戦も展開している。
クルマのダウンサイジングが叫ばれる昨今でも、「マッスルカー需要は、別腹だ」と楽観的な態度を見せつけている。
ただちょっと不安なのは、過去SEMAショーの『Car of the Show』としてメーカー側が大プッシュした「フォード・フォーカス」や新型「シビックSiクーペ」は、アフター系ではまったく火がついていないこと。アフターマーケットにおいてもビッグ3は、マッスルカーとフルサイズピックアップ/SUVに頼るのみが実情だ。
「ダウンサイジングがさらに深刻になったら……」なんていうイヤな話、SEMAショーでニコニコ楽しくしているアメリカ人たちは、聞きたくないのだ。
(文=桃田健史(IPN)/2006年11月)

桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
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第9回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(後編) 2006.12.29 ■古い設計でも十分と考えるフォードGMに続き、フォードの試乗エリアに来てみると、ウェイティングの人があとを絶たない。そう、皆、「シェルビーGT500」(5.4リッターV8、500ps)にどうしても乗りたいのだ。それほど“シェルビー効果”は、典型的なアメリカ人に有効なのだ。その乗り味を一言で表現すると「意外と、普通」。エンジンONでV8がドロドロすることもないし、低速走行でサスがガシガシ、ゴツゴツもしない。「なんだか拍子抜けしちゃう」ほど、普段のドライブに向いている。アクセル全開で、イートン製ルーツ式3枚歯スーパーチャージャーが「ウギュワァーン!」と叫ぶ。だが、遮音性が意外と高く、うるさいと思う音量・音質ではない。直線でフルスロットル。リアサスがじーんわりと沈みこみ、ズッシーンと加速する。コーナーに進入。トラクションコントロールをONにしたまま、この手のクルマとしては中程度の重さとなるパワステを切る。ステアリングを切ったぶんだけクルマ全体が曲がるような安心感があるのだが、ステアリングギア比が意外とスローで、結構な角度まで切りたす必要があった。ロール量は、乗り心地と比例して大きいが、「この先、どっかにブッ飛っンでいっちゃうのか!?」というような不安はない。ちなみにトラクションコントロールOFFで同じコーナーを攻めてみると、意外や意外、コントローラブルだった。このボディスタイルからすると、スナップオーバー(いきなりグワーンとリアが振り回される現象)を想像してしまうのだが……。日系自動車メーカー開発者たちはよく「こんな古い基本設計のリアサスでいいのか?」といっている。しかし、シェルビーGT500の目指す「大パワーを万人向きに楽しく&乗りやすく」は、十分満たされている。なお、系統は違うが、期待のミドサイズSUV「エッジ」でも同様に、マイルド系ズッシリ乗り味は表現されていた。
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第8回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(前編) 2006.12.28 毎年恒例、米国メディア団体のMPG(Motor Press Guild)主催のトラックデー。日米欧韓各自動車メーカーが最新型車両を持ち込み、サーキットと一般路で走行体験をさせてくれるビッグイベントだ。今回集まったのはおよそ130台。アメ車たちは他国モデルのなかに埋もれず、個性を出していたのだろうか?■アメ車の個性をハイパフォーマンスモデルで試す皆さんはこんなことを思ったことはないだろうか。「クルマの技術って、メーカーによってそんなに違いがあるの? どのメーカーだって、最新コンピュータ技術を導入しているし、生産技術は上がっているし、他社関連の情報だってウェブ上に溢れかえっている。だいたい、比較車両としてどのメーカーも競合車は購入してバラバラにして詳細解析しているのだから、同じ価格帯のクルマならどこのメーカーも似たようなクルマになるでしょ……」確かに一理ある。ところが、現実には各社モデルには技術的な差がある。その差を背景として、各車の“味”も変わってくる。特に、乗り味、走り味の差は大きい。その原因は、購買コスト&製造コストとの兼ね合い、開発責任者のこだわりやエゴ、実験担当部署の重鎮との社内的なしがらみ、開発担当役員の“鶴の一声”……など様々だ。ではそうした差は、アメ車と日欧韓車、いかに違うのか。今回の「トラックデー」で、約50台のステアリングホイールを握ったが、そのなかでも各社が力を入れ、アメ車の色が濃く出ているハイパフォーマンスモデルに絞って、乗り味、走り味を比較してみたい。場所はウイロースプリングス・ロングコース(1周約3km)。ここでは200km/hオーバーの高速コーナリングから、ハードブレーキングまでチェックできるほか、近場の一般道でも乗り心地などを試すことができる。
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第6回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(前編)(桃田健史) 2006.11.13 ■プレスなのに取材拒否?「今すぐ、ここから出て行って下さい!」。強面のセキュリティにすごまれた。ここは、米ネバダ州ラスベガス。毎年11月の恒例イベント、世界最大級の自動車アフターマーケット見本市であるSEMA(Specialty Equipment Market Association)ショーの取材に来た。問題が発生したのは開催2日目の昼、ラグジィ系大手ホイールメーカーのブースでのことだ。雑誌掲載用に、まずは手持ちデジカメでパチパチと撮影。そして、タイヤサイズなどをメモしようとカバンからノートを取り出した瞬間、セキュリティが飛んできたのだ。彼は「商品について、筆記することはお断りします」と言う。私は首からぶら下げたSEMA発行のプレスクレデンシャルを見せて、「いや、私はプレス。取材ですから」とさりげなく言うと、「ですから、商品についてここで書くことは一切できません。写真は構いませんが」と、相手はより強い口調で返してきた。「あなたの言う意味がよく分かりません。つじつまが合わないので、SEMA事務局に後で聞いてみます」と言った瞬間、相手は「今すぐ、ここから出て行って下さい!」と血相を変えた。埒(らち)が明かないと思った私は渋々そのブースを出た。するとあのセキュリティは私の後ろ姿を指差し、ブース入り口のキャンギャルに「アイツを、2度とここに入れるな!」と“用心棒”のような捨て台詞を残した。こうしてつまみ出された私。まるで、間違えて入ってしまった新宿歌舞伎町の非合法な飲み屋から叩き出されたような気分になった。
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