ポルシェ 911GT3(RR/6MT)【海外試乗記(前編)】
想像を超えた“予想通り”(前編) 2006.04.15 試乗記 ポルシェ 911GT3(RR/6MT) 911のハイパフォーマンスNAモデル「GT3」は、サーキットも公道もこなす911のスペシャルモデル。まずは新型の車両概要について説明する。
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機能美を実践するデザイン
「目指した性能は3.6リッターのままで十分に発揮が可能。それゆえ、今回も排気量を変えるつもりはなかった」――そんな理由から「排気量据え置き」で登場した新しいGT3の国際試乗会は、イタリア北部の街、ヴェローナの郊外を基点に開催された。
ちなみに、“特別速いポルシェ車”の国際試乗会は、こうしてイタリアやスペインといった地で催されることが多い。“原則として”速度無制限のアウトバーンを擁する自国ではなくこうして他国へと遠征して行くことが多いのは、どうやら速度取り締まりの頻度などとも、密接な関係があるような気もするのだが……。
そんな事情はともかく、新しいGT3はご覧のようにいかにも「サーキットに近いモデル」という雰囲気をタップリと漂わせるルックスの持ち主だ。「コアはRRに較べて強靭、かつ大型燃料タンクを搭載できるカレラ4がベース。エクステリアはスリムなカレラ用をベースとした」とポルシェ自らが語るボディには様々な空力パーツが与えられ、GT3独自の外観を構築する。
フロントフード先端に設けられたエアダクトは「センターラジエターからの排気の役割を担う」と同時に、下から上へという空気流を作り出すことで「フロントアクスルにかかるリフト力を抑える効果」も期待できるという。派手なボックス型のリアスポイラーや開口部が目立つ新造形のフロントバンパーなどによる空力チューニングは、「全速度域でダウンフォースを生み出しつつ、Cd値0.29というカレラと同じ空気抵抗係数を達成した」というのも特筆モノだ。“デザインは機能に追従する”、いかにもドイツらしいフレーズを身をもって実践するのが、この新型GT3というわけだ。
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世界最高峰のNAユニット
とは言うものの、GT3とくればそのハードウェアとして肝心要なのは、やはりエンジンといえる。冒頭で紹介したように3.6リッターという排気量に据え置かれたパワーユニットは、1998年のル・マン24時間レース優勝マシン「GT1」のそれに端を発する、現在のカレラシリーズ用とは構造的に“別モノ”のユニットだ。
具体的には、「ねじり剛性をより高めるためにブロック、ヘッド、カムシャフトハウジングを1つのユニットとしてまとめ」、さらに「モータースポーツ参戦時の排気量クラス分けに素早く対応すべく、ブロックとクランクケースのハーフパーツを分離した」という、手の込んだ構造である。簡単に説明すると、エンジンの上側と下側は別体で、それぞれを長いスタッドボルトでガッチリ締めて構成される、というワケだ。
そうした基本構造を従来型から受け継ぎつつ、圧縮比を11.7:1から12.0:1にアップ。吸排気系の高効率化や、ピストンとコンロッド(チタン製)、クランクシャフトなど可動部分の軽量化によってポテンシャルを大幅にアップした。その結果、1リッターあたりの出力は115.3psと「オンロード車両用自然吸気エンジンとしては世界最高レベル」を実現し、最高出力は415ps、最大トルクも41.3kgmに達した。
組み合わされるトランスミッションも、“普通の”911とは異なる。エンジンとのマッチングを顧慮して、カレラシリーズが用いるアイシン製ではなく、やはり従来型同様のゲトラグ製を搭載する。
すなわち、同じ911でも、かくもカレラシリーズとは大きく異なるパワーパックの持ち主がGT3なのである。
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スパルタン、だけじゃない
GT3のコクピットへと乗り込むと、キャビンのデザインは基本的にカレラシリーズのそれと変わらないが、そこはGT3。最大の相違点として、リアシートが省略されていることが挙げられる。
とはいえ、単にスパルタンなスポーツモデルではない。カレラシリーズにも劣らない高級感の演出も狙うGT3の場合、標準採用されるのは、見た目にもなかなか豪華なスポーツシートだ。同時に、希望とあらばスポーツシートに較べて重量が半分ほど、わずか10.4kgに留まる、「カレラGT」譲りのカーボンファイバー製軽量バケットシートもオプション選択可能だ。ちなみに、フロントフードやドアパネルはアルミニウム製とし、「まったく新規に開発した」樹脂製のリア・エンジンフードの採用により軽量化に取り組んだGT3の車両重量は、DIN規格で1395kgである。(後編に続く)
(文=河村康彦/写真=ポルシェ・ジャパン/2006年4月)
・ポルシェ 911GT3(RR/6MT)(後編)
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000018062.html

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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