トヨタ・ウィッシュZ(CVT)【ブリーフテスト】
トヨタ・ウィッシュZ(CVT) 2006.01.26 試乗記 ……307万3350円 総合評価……★★★ トヨタの3列シート7人乗りピープルムーバー「ウィッシュ」がマイナーチェンジされた。CVTのマニュアルモードが6段から7段になった最上級グレード「Z」に試乗。
![]() |
みんなの願いよりも、私の願い
ガソリンスタンドで、「これ、どこが変わったんですか?」と聞かれた。マイチェンしたばかりなのに、違いに気づいてもらえないようである。しかし、よく見るとずいぶん顔つきが変わっているのだ。
目がぱっちりとして、陰影のある表情になった。比べてしまうと、前の顔はむっちりと平板で、相撲取りに憧れる凡庸な肥満児のように見えてくる。頬骨が立ち、アゴの線が出て、立体感のある面構えになった。フェイスリフトとしては、うまくいったのだと思う。
ミニバンとはいっても、このあたりのコンパクトなクラスは、むしろパーソナルユースが大きな意味を持つ。一人か二人で乗る機会が相当に多いだろう。実際に運転してみても、後ろにたくさん人を乗せている状況よりも、一人で乗っていることを重視して作られているのでは、と思えてしまった。
「みんなの願い」をのせることもあるが、それで自分の気持ちよさが犠牲になるようなクルマではない。自己チューな人でも、それなりに満足ができるのが今どきのミニバンの条件なのだ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2003年1月20日デビュー。中型セダン「プレミオ/アリオン」のプラットフォームに“スタイリッシュ”を謳うモノフォルムボディを被せた、3列シート7人乗りのピープルムーバーだ。
エンジンは2種類の直4で、1.8リッター(132ps、17.3kgm)搭載の「X」と、のちに追加設定された2リッター直噴(155ps、19.6kgm)を載せた「Z」「G」をラインナップ。1.8リッターでのみ4WDが選べる(4WDはパワー7ps、トルク0.9kgmそれぞれデチューンされる)。トランスミッションは1.8リッターにコンベンショナルな4段AT(FFにはシーケンシャルシフトマチック装着)、2リッターには無段変速機CVT(Zは7段シーケンシャルシフトマチック付き)を組み合わせる。
(グレード概要)
Zは2リッターエンジンを積み、7段シーケンシャルモード付きのCVTを装備する最上級グレード。17インチホイールの採用に伴って前後にオーバーフェンダーが装着され、全幅が他のモデルよりも50ミリ広くなっている。ヒーター付きカラード電動ドアミラー、赤外線カットガラスなどの豪華装備も標準となる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
赤いリングで縁取られた2連メーターが、まず目を惹く点だ。最近ではブルーで彩られるものが多いので、かなり新鮮に映る。カーボン調のインパネクラスターとあいまって、過激なホットバージョンのような雰囲気を醸し出す。全域レッドゾーン、といったイメージか。
もちろん実用車なのであって、小物入れなどの収納は充実しているし、オーディオやエアコンのスイッチもトヨタらしく使いやすい。バックモニターが装備されているのは、この種のクルマには本当にありがたい。
(前席)……★★★
シートの表皮はざっくりとしたダブルラッセル素材で、適度な凹凸があるので滑りにくく、通気性もいいので特に夏は気持ちがよさそうだ。見た目も、妙な幾何学模様をつけるよりもずっとクールだ。座面、背面ともにかなり硬めで、ロングドライブにはこのぐらいのほうがいいのかもしれない。
(2列目シート)……★★★★
ミニバンの特等席は2列目というのが常識で、しかもこのグレードは独立シート2人がけだからなおさらである。ゆったりすわれるし、豪華オプションが付いているから天井には大型ディスプレイがあってテレビも見られる。運転席よりは乗り心地はよくないが、気になるほどではない。シートが取り付けられているところが一段高くなっていて、足を投げ出すのにちょうどよい。ただ、体格のいい人は、ヘッドレストを最大限伸ばしても寸法が足りなくなるかもしれない。
(3列目シート)……★★★
コンパクトミニバンの例に漏れず、この席はエマージェンシーと考えるべき。天井に頭がつきそうだし、シート位置が低いので足のやり場もない。折り畳み機構を持つことを考えれば、まともに座れるだけでも優秀だ。2列目が2人がけなので真ん中に空間があって、それほど閉塞感ももたずに済む。荷室が空いていればちゃんとリクライニングもできるのはありがたい。
(荷室)……★★★★
もちろんフル乗車で積める荷物はたかが知れているが、3列目シートを畳み込む機構はよく工夫されていて、ワンタッチで広大なスペースを出現させられる。後端からフラットな面が広がり、積み降ろしも楽にできそうだ。
【ドライブフィール】 運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
2リッターエンジンはパワフルというほどではないのだが、CVTとの組み合わせはとても相性がよく、不足を感じることはない。アクセルを踏み込めばそれなりにうるさいが、急加速をする場面は一般にはそれほど多くないはずだ。シーケンシャルモードは6段から7段になり、スポーティな感覚を味わうためのツールとしては有効に機能する。ただ、どうせなら「ラクティス」のようにパドルシフトがあるといいな、と思ってしまうのは贅沢だろうか。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
過大なロールもなく、コーナーでの不安感が払拭されているのは、少し前まではこの種のクルマでは考えられないことだった。一人乗車で運転していて、高速コーナリングが結構気持ちがいいことには感心する。軽い状態でも、バタバタして乗り心地が悪くなるわけでもない。むしろ、5人で乗ったときにはステアリング操作に対しての反応の遅れや、ブレーキの利きの悪さが気になった。6人乗りのクルマではあるが、現実には一人か二人で乗ることが多いわけで、実情にあわせたセッティングなのかもしれない。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:NAVI編集委員・鈴木真人
テスト日:2005年10月19〜20日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2005年型
テスト車の走行距離:937km
タイヤ:(前)215/50R17 91V(後)同じ(ダンロップSPORT 9000M)
オプション装備:ホワイトパール塗装(3万1500円)/HDDナビゲーションシステム+ウィッシュ・ライブサウンドシステム+後席9型液晶ワイドディスプレイ(57万1200円)/前席SRSサイドエアバッグ&前後席SRSカーテンシールドエアバッグ+盗難防止システム(7万8750円)/ETC車載器(1万900円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行形態:市街地(6):高速道路(4):山岳路(0)
テスト距離:196km
使用燃料:26.0リッター
参考燃費:7.5km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】 2025.9.6 空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
NEW
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(前編)
2025.9.7ミスター・スバル 辰己英治の目利き「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のなかでも、走りのパフォーマンスを突き詰めたモデルとなるのが「ゴルフR」だ。かつて自身が鍛えた「スバルWRX」と同じく、高出力の4気筒ターボエンジンと4WDを組み合わせたこのマシンを、辰己英治氏はどう見るか? -
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。