マツダ・ロードスターターボ(6MT)【試乗記】
薄まったとはいえ…… 2005.07.11 試乗記 マツダ・ロードスターターボ(6MT) 3代目のデビューを目前に控えた今、現行型、通称「NB」の2代目にターボを載せた「ロードスターターボ」に乗った。汗くさくなった2代目
1998年のデビュー以来、約7年間に渡って現役だった現行ロードスター“NB”型にも、いよいよフェードアウトの時が来た。実は初代とこの2代目の車体の基本骨格はほぼ同じもの。よってロードスターは、単一のモデルで16年もの歳月を生き抜いてきたと言い換えることもできるわけだ。そう考えると感慨深いものはあるものの、だとすれば尚更、この2世代目が果して成功だったのかと言えば、少なくともここ日本では“Yes!”とは言えない。クルマ好きの目からはともかく、一般的に見れば、ロードスターの存在感は間違いなく薄まってしまったからだ。
2代目ロードスターは、初代が持っていた世界の広がりが希薄になってしまった。それこそが低迷した原因ではないだろうか。初代がスポーツカーとしてだけでなく、様々なシーンを想起させるものがあったのは、シンプルでクリーンなそのスタイリングに力があったからだ。見る人によってイマっぽくもクラシカルにも、スポーティにもキュートにも、英国調にもアメリカンにも解釈できる、真っ白なキャンバスのように無垢で、けれど無味無臭ではなく確かな力を宿したスタイルは、2代目でアメリカを意識したに違いない肉感的なものへと姿を変えた。
走りの進化と合わせて、それはスポーツカーとしてはアリだったのかもしれない。けれど、たとえばカジュアルなスニーカーとして、または自分のセンスを投影させてファッショナブルに楽しむ素材としては、違和感を生んでしまった。ちょっと頑張り過ぎた感じがするというか、汗くさくなってしまったかのようなロードスターは、初代の人気を盛り上げた、特にクルマ好きでもない言わば浮動票の人々の支持を失ってしまったのである。
色あせない魅力
走りっぷりは、「とにかくよく曲がるクルマだ」というのが登場当初の印象だ。ステアリングできっかけを与えるだけで、すぐにテールがスライドし、そのコントロール性も抜群。とてもイージーに楽しさを満喫できるのだが、逆に繊細な操作でスウィートスポットを引き出す歓びのようなものは更に後退してしまった。
それでもマイナーチェンジで熟成を重ねるうちに、スタビリティが高まり、挙動の軽薄さも薄まって、その走りがどんどん洗練されていったのも事実だ。実は今回の撮影車は限定で販売された「ロードスターターボ」だったが、大幅に増えたパワー&トルクを、そのシャシーはしっかり受け止める。それだけでなくハンドリングには乗りこなすのにアレコレ工夫することを楽しめる奥深さのようなものすら感じられて、ひさびさに乗って改めて感心させられた。また、そんな風にドライビングに没頭するためマシンとしては、実に手頃なサイズであることも再確認した次第だ。
何度もいうように、クルマに無関心な人どころか、たまたま街で出会っただけの人をも一目で魅了する“ワクワクさせる魅力”は薄まったが、総じて走りのキャラクターはより際立ち、実力も高まったというのが、この2代目ロードスターであった。逆に、走りをなによりも優先するユーザーにとっては、まさしく進化だったと言うこともできよう。
新型ロードスターは、できるかぎりコンパクトに、できるかぎり軽くと涙ぐましいまでに努力したという。とはいっても、やはり大きく重く、そして排気量アップとワイドタイヤによって絶対的な速さも増したはずの新型ではきっと得られない世界が、そこには厳然と存在しているのである。それは新型が出ても、当分、色褪せることはないに違いない。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2005年7月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
NEW
MTBのトップライダーが語る「ディフェンダー130」の魅力
2025.10.14DEFENDER 130×永田隼也 共鳴する挑戦者の魂<AD>日本が誇るマウンテンバイク競技のトッププレイヤーである永田隼也選手。練習に大会にと、全国を遠征する彼の活動を支えるのが「ディフェンダー130」だ。圧倒的なタフネスと積載性を併せ持つクロスカントリーモデルの魅力を、一線で活躍する競技者が語る。 -
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。