メルセデス・ベンツSLK 55 AMG(FR/7AT)【試乗記】
硬派に開放感はいらない 2005.06.15 試乗記 メルセデス・ベンツSLK 55 AMG(FR/7AT) ……962万6190円 「SLK」に5.5リッターのV8エンジンを搭載したハイパフォーマンスモデルが「AMG 55」。開放感より走りを優先する硬派オープンカーに、自動車ジャーナリストの島下泰久が乗った。乗り手を選びそうな雰囲気
対面した瞬間、思わず唾を飲み込み、身構えた。そもそも「SLK」自体、F1マシン風のノーズを戴いたり、身なりは相当イカツい雰囲気なのに、「AMG」はそれに輪をかけた凄みを効かせている。カタマリ感に満ちたそのフォルムの前、横、後ろ、隙間なく装着されたエアロパーツやあちこちの開口部など、“てんこもり”のディテールは、何だか超合金っぽいというか乗り手を選びそう。ヤング・アット・ハートじゃないと、うまく着こなすのは難しそうないでたちは、なるほど「SL」のAMGとは、やはり違う世界観だ。
まずはトップを閉めたままドライバーズシートに滑り込むと、そこは運転席というよりコクピットと呼びたくなるタイトな空間である。質感はなかなか高いが、眼前に無数のボタンが並ぶ様は、外観同様ちょっと煩雑というかエレガンスを欠く。まあしかし、ヤル気になるというか気構えを新たにする空間であるのも、また確か。なにしろ、これからアクセルを踏み込もうとしているのは、生半可な気持ちじゃ操れないクルマだ。このぐらいの演出は、あって然りだろう。
意識的に初期の反応を鈍くしてあるスロットルペダルを、意を決して深く踏み込んでやると、360psものパワーを発生する5.5リッターV8は、リアを一瞬ぐっと沈ませたあと、猛然と加速を開始する。トップエンドまで回っては、7段AT「7G-TRONIC」が矢継ぎ早にシフトアップを繰り返していくが、何速だろうと加速感に差はなく、気付くと恐ろしいほどの速度に到達している。まるでワープしているようなこの感覚は病みつきになりそうで、しばらくは面白がって、前が空くたびに全開を繰り返してしまった。
妙に疲れる
けれど、楽しい時間はそうは続かない。18インチの大径タイヤをぶら下げたサスペンションはおそろしくハードで、目地段差に差し掛かるたびにビシバシと強烈に突き上げる。オープンカーとは思えないガッチリと剛性感のあるボディは、それをミシリとも言わずに受け止めて、それはそれで大したものなのだが、その逃げのない衝撃に加えて段差などにさしかかるたびに全身で身構えてしまうせいで、乗っているうちに妙に疲れてしまうのだ。
スロットルだけでなく操作系すべての反応が今ひとつリニアじゃないことも、ストレスの一因かもしれない。性能が高いだけに、あまり俊敏に反応させては危ないという配慮なのかもしれないが、反応が芳しくないからとつい操作が荒っぽくなり、その瞬間にドーンと大きな反応が返ってくるようでは、かえって危ない気もするし、それを修正するのにいちいち切って戻して踏んで離してとしていると、とっても疲れる。降りた時には正直ホッとしてしまった。
ルーズな姿勢は許さない
あまり構えて走ると疲れるから、もっとリラックスしようとトップを開けることにする。操作は簡単、センターコンソールにあるスイッチを手前に引くだけだ。さすがメルセデスらしいなと思わせるのは、走行中には操作を受け付けてくれないことだが、窓の開閉まで含めて所要時間は20秒ほどだから、信号待ちでも時間は十分足りる。
けれどオープンにしても、実は開放感はそれほど高くはない。フロントウインドウの傾斜こそさほどキツくないものの、インストルメンツパネルやドアトリムもドライバーを取り囲むように迫ってくるし、スポーツシートもガッチリしたサイドサポートがルーズな姿勢を許してくれない。これが安心感に繋がるとも言えるが、せっかくのオープンなのだから、もっと開かれた感覚があってもいいのではという気もする。
つまりSLK55AMGは、オープンかどうかということはあまり関係なく、その走りと真摯に向き合いたいという人向けのオープンカーだと言える。強大なトルクとガチガチの足に歯を食いしばっていたら、極端に言えばルーフが開いているか閉まっているかなんて、どうでもよくなってしまうのだ。もっとリラックスしてオープンエアクルージングを楽しみたいなら、こちらも十分以上に速く、そして快適性では明らかに上回るSLK350を選んだ方がいいのではないだろうか。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2005年6月)月刊『webCG』セレクション/オープンカー特集
「星空のために幌を開けよう!〜カジュアル・オープンカーライフのススメ」

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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