レクサスGS430(6AT)【海外試乗記(後編)】
新しい神話への幕開け(後編) 2005.04.16 試乗記 レクサスGS430(6AT) 「トヨタ・アリスト」の後継たるスポーティサルーン「レクサスGS」の国際試乗会が、南仏で開かれた。日本への凱旋を目前に控えたニューモデルに、大川悠が早速試乗! その印象を報告する。リファインされているがドラマに欠けるエンジン
(前編からの続き)
実は乗った感覚も、外観から受けた印象と共通していた。今回試乗できたのは4.3リッターV8の「GS430」だけである。ヨーロッパには3リッターV6も用意されるが、日本用はより新しい3.6になるため、試乗車はイメージリーダーの430に絞られた。
LS、つまりセルシオと同じこのV8は、最高出力283ps/5600rpm、最大トルクは42.5kgm/3500rpmで、アイシン製6段ATと組み合わされる。パワーはさておき、やはり最大の価値はスムーズネスと静かさである。特に静かなことにおいては、多分世界一のV8だろう。オートルートを200km/h近くで走っても、風切り音やロードノイズは多少あるが、エンジンの音はほとんど聞き取れない。
その反面、強烈なパンチやドンッと立ち上がる強大なトルクを誇るタイプではないから、ドラマ性には欠ける。だから目一杯回しても別にエキサイティングにはならない。6ATの洗練されたプログラムと相まって、あくまでもスムーズな走行感覚が最大のセリングポイントだろう。ただし低回転域でのトルクはたっぷりあるし、そこからのピックアップもいいから、そこそこ速く走りながら、かなりいい燃費も稼げそうだ。
フラット感とスタビリティ
同じことは乗りごこち、ステアリングフィールやハンドリングにもいえる。基本的に乗りごこちはフラットで、適度に締め上げられているが、段差などで瞬間的に強い入力が入ったときは、予想以上にタイヤの反発を感じることがある。サイズは245/40-18でダンロップのSPスポーツとヨコハマのアドバンだったが、タイヤの差よりもテスト車の仕上げの差の方が大きく思えた。
ステアリングは比較的重いが相応にクイックで、レスポンスはいい。初期応答になんとなく重いというか粘っこさを感じるが、もっともこれはすぐになれた。高速でのスタビリティは基本的にかなり良好。ヨーロッパのライバルにもほとんど劣らないが、これもクルマによって差があったことを付け加えておこう。2日目、ミストラルによる横風の影響があったにせよ、この日に乗ったクルマの方が直進安定性や高速でのレーンチェンジにやや不安感を示した。
もっとも、こういう個体差は発売前の試乗会ではごく頻繁に見られるもので、ヨーロッパ車の場合はもっとひどいことがある。しかも2週間以上にわたって各国のプレスにいじめられた後だから、この辺は余り咎めないことにしておこう。
ドラマは始まったばかり
強い主張はないが、平均以上にまとまったアッパークラスのサルーンとして、GSはそれなりに要求を満たしている。だが、それがレクサスというブランドを、世界的にアピールできるかとなると、多少の疑問は残る。全方位的にかなり良くできたクルマであるということは、形がちょっと違ったトヨタ車に他ならず、全く違ったブランドとしてのメッセージが希薄だからだ。
デザインは新しい言語で構成されていても、インテリア・デザインもその全体の発想も、単に凡庸なだけでなく、むしろ時代遅れに感じる。そしてハンドリングや乗りごこちも、強い印象を与えるものではない。アリストの呪縛から解放されたことでリファインされたと同時に、良くも悪くも、あの特有の毒の強さを失ってしまった。
だが、これはレクサスの出発点である。この後により小さな「IS」(アルテッツア)も、大きな「LS」も、スポーティ・パーソナルカーの「SC」(ソアラ)も、そしてひょっとしたらスーパースポーツも控えている。さらにはテクノロジーの切り札としてはトヨタが世界をリードしているハイブリッド版もすぐに用意される。
そしてなによりも大切なのは、これらのレクサス・イメージや商品メッセージを訴える共通言語がすでに開発されたことだ。だから“L−finess”の力をこのGSだけで解釈してしまうのは早計である。まだ大きなドラマの幕が、ほんの少しだけ開いたに過ぎないのだ。
(文=大川悠/写真=トヨタ自動車/2005年4月)
・レクサスGS430 (前編)
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000016598.html

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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