ホンダ・オデッセイL(FF/CVT)&アブソルート(FF/5AT)【試乗記】
冒険と戦略 2003.11.11 試乗記 ホンダ・オデッセイL(FF/CVT)&アブソルート(FF/5AT) ……340.0万円/326.0万円 ミニバンにあるまじき1550mmの低いボディで、世間を驚かせた3代目オデッセイ。ホンダのドル箱は、いったいどうしたのか? 自動車ジャーナリストの河村康彦が分析する。メーカー“等身大”のクルマ
1994年にデビューした初代「オデッセイ」がなければ、“ミニバン”というカテゴリーは今のように日本には定着しなかったかもしれない。
他メーカーが“多人数乗用車”をかつての1BOX(バン)から手がけたのに対し、そもそもが乗用車メーカーであるホンダは、セダンベースでつくらざるを得なかった。生産設備、特に高さの制約が厳しい塗装ブースも既存(乗用車)のものを流用するとなれば、あまり大きく背の高いモデルを流すわけにいかなかった。こうして、初代からオデッセイというクルマは、ミニバンとしては「背が低いこと」がひとつの特徴だったワケだ。
しかし、世のなか何が幸いするか分からない。メーカー“等身大”のデザインが、セダンからミニバンに乗換える人のハートをガッチリと掴んだからだ。となると、当然ライバルも後に続く。
1999年のフルモデルチェンジを挟んで、誕生以来はや9年。他メーカーから様々な「オデッセイもどき」が押し寄せるのを受けて、ホンダは再び考えた。「このまま、そうしたクルマたちに埋没するワケにはいかない……」と。選んだのは、従来型のキャビン空間はそのままに、大幅な低全高化を狙う戦法である。
数えて3代目となる新しいオデッセイは、かくして、“ミニバン”と呼ぶに抵抗があるほど低い全高を最大の特徴とするクルマに生まれ変わった。燃料タンクやリアサスペンション周りに“扁平デザイン”を採用し、新型オデッセイは実に100mmに及ぶフロア位置のダウンと、1550mmの「タワーパーキングに入れる全高」を実現した。
言語道断の大胆さ
実際目にすると、新型オデッセイは想像以上に大胆なスタイリングの持ち主だ。全長と全幅は従来型と同等なのに、全高だけが減ったから長さ感が増した。プロポーション的には、ミニバンというより「長いステーションワゴン」という印象が強い。スポーツカーばりに傾斜を増したフロントウインドウや、開発責任者をして「一週間も見ていれば慣れてしまう」と豪語(!)する“目つきの悪さ”も、ファミリーユースを前提とした常識的なミニバンのデザインからすれば、言語道断と思えるほどの大胆さである。
キャビンに乗り込んでも驚きは続く。ダッシュボードまわりのデザインが何とも“ミニバン離れ”したものだからだ。立体的なデザインのメーターやガングリップタイプのATセレクター、「プログレッシブコマンダー」と名付けられたナビゲーションシステムの操作スイッチ類など、すべてが大胆でアグレッシブなデザイン。
ただし、そのナビゲーションシステムの操作系が、人間工学に基づいてデザインされた極めて扱いやすいものであることに感心した。大きなダイヤルとジョイスティック、やはり大きなプッシュスイッチが、なんとも上手くレイアウトされている。操作に対する画面表示がわずかに遅れることがあるのがちょっと惜しいが、プログレッシブコマンダーはホンダ車の新しい財産になると感じた。
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従来型を確実に凌ぐ
低くなった新型オデッセイは、スポーティな「アブソルート」をイメージリーダーにおいた。でも、走りに好感が持てたのは、160psエンジンにホンダ車初のトルコン付きCVTを組み合わせ、16インチのシューズを履く“標準車”だ。
もちろん、200psエンジンに5段ATを組み合わせ、17インチを履くアブソルートはよく走る。しかし“標準車”に乗り換えると、40psの差があるとは思えないほどに不満なく加速するし、3列シート車とは思えないほど意のままに曲がってくれる。先代も、ミニバンとしては世界トップの運動性能の持ち主であったが、今回も、特に“標準車”は圧倒的ともいえるしなやかさとフラット感を保ちつつ、様々な路面の上を駆け抜けた。乗り心地は、従来型を確実に凌ぐ。
「低全高=低重心化」を進めて増した運動性能の向上分を、乗り心地に振り分けた理屈だ。背の高いミニバンの弱点となる挙動の不安定さを、足まわりを硬めて補う必要がなくなるからだ。新型オデッセイは、そんなロジックが実感できる。さらに、前面投影面積が減るため、放っておいても(?)高速時の燃費は向上するはずだ。
確かな戦略
先代を凌ぐ性能のオデッセイだが、きっと「このルックスはちっともミニバンらしくない。低いアイポイントも、せっかくのミニバンのよさをスポイルしている」なんて、ネガティブな声も挙がるだろう。そんな人のために、ホンダはすでに次なる手を用意した。第37回東京モーターショー(2003年10月25日〜11月6日)に展示されたコンセプトモデル「ASM」の市販バージョンが、04年春にもデビューする予定なのだ(http://www.webcg.net/WEBCG/news/000014240.html)。こちらのスリーサイズは、全長×全幅×全高=4840×1830×1780mm。日産「エルグランド」、トヨタ「アルファード」級の大物である。
そう、新型オデッセイの大胆な冒険は、「ASM」の市販化という前提があったからこそ、成立しているのだ。なかなかしたたかな戦略が隠されている。
(文=河村康彦/写真=高橋信宏/2003年11月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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