ホンダ・エレメント(4AT)【短評(後編)】
若い国から来たクルマ(後編) 2003.04.27 試乗記 ホンダ・エレメント(4AT) ……287.5万円 「ホンダCR-V」のコンポーネンツを活用して、アメリカで開発された「エレメント」。観音開きのサイドドアをもつ輸入SUVは、乗るとどうなのか? 『webCG』記者によるエレメント試乗報告、後編。
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新しい“嫌がらせ”
翌日、ホテルのエントラントで試乗車を受け取る。5色用意されるうちの、「ガラパゴスグリーン・メタリック」と呼ばれる比較的地味な色合い。人気の「サンセットオレンジ・パール」は、希望する他媒体とのジャンケンで負けて、借りられなかったのだ。
エレメントのボディサイズは、全長×全幅×全高=4300×1815×1790mm。当然ながら、「5ナンバー/3ナンバー枠」を気にしないアメリカンサイズである。ベースとなった「CR-V」よりやや短くなった全長を反映してか、ホイールベースは45mm短い2575mm。
マッチョなルックスを得るためタイヤサイズは16インチ。そのことに対応して、フロントはマクファーソンストラットのAアームを延長、リアはサブフレームを変更することによって、トレッドが前後とも広げられた。
実車を前にすると、ボディ周囲を取り巻く無塗装の樹脂パーツが、いかにもタフだ。スリ傷を気にしないで惜しげなく使える気がする。実際はともかく。
さて、エレメントに乗り込むにあたり、サイドアクセスドアは「前→後」と順序立てて開けないといけない。閉めるときは、その逆。「後→前」と順序立てて閉めないといけない。フロントドアのキャッチャーがリアドアに付いているため、先にフロントドアを閉めると、「ボヨーン」と跳ね返る。ちゃんと、ドアとボディの樹脂類があたって、金属同士は触れないようになっている。さらに、フロントドアに続いてリアドアを閉めようとしても、やはりリアドアのシートベルト基部の樹脂部分がフロントドアにあたるので、塗装に傷が付きにくい。
唯一の心配は降車時。前席の乗員がシートベルトをしたままドアを開けた瞬間、せっかちな後席乗員が勢いよくリアドアを開けると、前席用シートベルトがリアドアに付いているので、ギュッと前のヒトの体がベルトで締め付けられる。新種の“嫌がらせ”としては面白いが、実害はないという(特に妊婦に害がないよう、検討が加えられた)。
前席シートベルトを後席に設置したのは、「せっかくBピラーを取り払ったのに、(ベルト類が視界に入ることで)開放感をそぎたくなかったから」(エレメントの開発をとりまとめた松嶋稔郎主任研究員)。
サイドアクセスドアの苦労バナシ
日本では珍しい(というか懐かしい?)“観音開き”のサイドドアだが、アメリカではダブルキャビンのピックアップトラックなどで多用されているため、意外とユーザー間に違和感はないのだという。
わが国より先行して、2002年12月から発売された彼の地では、年間5万台を予定していたところ、クルマの性格上不利な冬からのスタートにもかかわらず、年間7万台を超えそうな好調な出足を見せている。3月単体では、なんと6500台が販売された。
ボディ構造上不利で、使い勝手もいいとは言えない「サイドアクセスドア」を採用したのは、エレメントを、単なるCR-Vの“着せ替えモデル”にしたくなかったから。Bピラーレスの観音開き実現のため、開口部は頑強な構造材でグルリと囲まれる。サイドシルは大口径化され、5枚のバルクヘッド(隔壁)が入れられた。左右を結ぶ床下のクロスメンバーも強化。エレメントのアイデンティティたる“開放感”は、約70kg相当の補強とのバーターで成り立っているわけだ。
試乗の後にお話をうかがった松嶋稔郎主任研究員が、笑いながら教えてくれた。
エレメントの開発にあたって、ボディ剛性確保に悲鳴を上げるエンジニアには、「オープンカーだって、ちゃんと走っているじゃないか」と叱責し、観音開きによる使用上の不便さに危惧の念を抱く商品企画担当者には、「ちょっと変わった2ドアクーペと考えてください。リアのドアは、ドアというより荷物を入れる際に使うゲイトなんです」と説得した、と。新奇なクルマに疑惑(?)の目を向けるユーザーへの説明としても、これらのロジックは有効だろう。
新しいホンダらしさ
自動車専門誌『NAVI』のスズキ編集長ドライブのもと、リアシートに座る。フロアはフロントより高く設定され、当然、座面も高い。スライド機構を活かしていちばん後にセットすれば、足もとは広い。
本国アメリカ版エレメントは、「実質2人用」のコンセプトに忠実に、不要なリアシートを取り外すこともできるが、日本では「外したシートの置き場に困る」ことから、左右への跳ね上げ式が採用された。外せないかわりに(?)スライドできる。
前後席をつなげてベッドがわりにする「ブルフラット」への配慮か、リアシートの座面は短く、座り心地も平板。まあ、この場所は、サーフボードや自転車、スポーツバックの置き場なのである。
目を床に転ずれば、大きなドットが並ぶフロアがステキに殺風景だ。工事現場に敷かれる黒いゴムシートのようなソレは、表面にウレタンコートが施され、サーフボードやスノーボードなどでビショ濡れになっても簡単に拭ける。名づけて「ワイパブル・フロア」。ズボラな人にはありがたい。リポーターは魅力を感じた。
フロントに移って、ステアリングホイールを握る。ショルダーラインが高いため、サイドドアを開けたときの開放感とは対照的に、運転中は囲まれ感が強い。
2.4リッター直4「i-VTEC」(160ps、22.2kgm)は、もともとハイパワーユニットのための「可変バルブタイミング&リフト」技術を、エミッション低減、燃費向上に活用したもの。4段ATと組み合わされる。
アメリカンSUVらしく、エレメントのドライブにことさらエクサイティングな要素はない。ルックス重視の16インチホイールには、グッドイヤーの「M+S(オールシーズン)」タイヤ。足もとチト重め。舗装の状態によっては路面からの入力を隠しきれない場面も見られるが、「乗り心地に関して目くじらを立てるクルマでもあるまい」と、おおらかに乗る。キャラクターのあるクルマは得だ。
ステアリングフィールも(タイヤの影響も大きかろうが)「シャープ」より「ダル」に針が振られたもの。エレメントのドライブフィールは、全体にモサモサしたものである。
でもまあ、いいか。重箱の隅をツツく“インプレッション”は、おしまい、おしまい。……そんな気にさせるエレメントは、ああ、アメリカ車。
窓の外には沖縄の、文字通りエメラルドグリーンの海が広がる。出版社のサラリーマンをして、「ああ、遊びに行きたい」と胸の奥をヒリヒリさせるニューSUV。日本市場の販売目標「月1000台」は、ちょっと少ないんじゃないか。
エレメントは、ホンダらしい方法でアプローチしたアメリカ車。名実ともに、心身ともに、アメリカ車。そういえば、ホンダが日本より彼の地で多くのクルマを売り、利益をあげる会社になってから、ずいぶんになる。
(文=webCGアオキ/写真=河野敦樹/2003年4月)
ホンダ・エレメント(4AT)【短評(前編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000013170.html

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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