トヨタiQ GRMN スーパーチャージャー(FF/6MT)【試乗記】
やんちゃに見えても大人向け 2013.02.04 試乗記 トヨタiQ GRMN スーパーチャージャー(FF/6MT)……355万円
「トヨタiQ」をベースに台数限定で開発された、コンプリートカーの「iQ GRMN スーパーチャージャー」。その実力を高速道路やワインディングロードで試した。
値段も仕立てもすっかり別モノ
「トヨタiQ GRMN スーパーチャージャー」については、すでにこのページで報告したことがある。でもあの時はプロトタイプで、今度は正式の市販モデル。舞台も当時はサーキット(富士スピードウェイのショートコース)だったが、今度は公道。やはりナンバー付きのクルマは、いつも走る道路で語り合ってこそ本当のインプレッションというわけで、再出演してもらった。
もっとも、市販モデルと言いながら、実はもう買えない悔しいクルマでもある。355万円もの値札なのに、12年7月上旬にネットで予約を受け付け開始と同時に問い合わせが殺到、9月末に発売されるや限定100台はアッという間に完売してしまったのだ。スーパーチャージャー仕様になる前のiQ GRMN第一期モデルも、限定100台で瞬時に完売だった。こんなに親しみやすく楽しさ満々のiQ、なんで限定生産なんだよ(怒&涙)。
全体の輪郭を駆け足で紹介すると、ベースはiQの「130G」。その4気筒1.3リッターエンジンにスーパーチャージャーで活を入れ、94psから122ps(プロトタイプは130ps)に強化、6段MTは各ギアの変速比をクロスさせ、瞬間ダッシュを重視してファイナルも4.562(ノーマルは3.736)に落としてある。サスペンションは30mmもローダウン、それに16インチの専用軽量アルミホイールと太いタイヤ(ブリヂストン・ポテンザRE050Aの195/55R16)という組み合わせは、大人の靴を履いた子供みたいで、迫力もあるがほほ笑ましくも見える。
チューニングのバランスが絶妙
ボディー関係では大きなエアロバンパー(これで全長は3000mmから3140mmに増大)などが目立つが、実はサイドパネル丸ごと専用で、張り出したタイヤを覆うためブリスターフェンダー化し、さらにリップまで追加。見えない部分も本格的で、スポット増し打ちにブレース追加、さらに“魔法のつえ”パフォーマンスダンパーまで仕込んである。
ここまでやるとホットどころかホッテストを想像するが、そこはトヨタだけあって、危なげなくバランスが取れているところが印象的。エンジン音もドスが効いているのに、喧(やかま)しくもなければ、耳障りでもない。
クラッチの踏力は軽く、つながりもスムーズだから、発進にも神経を使う必要はなく、一寸刻みの渋滞も平気。サーキットでの走行会やジムカーナも楽しめるスポーツチューンでありながら、そこはスーパーチャージャーの御利益で、低回転でも有効なトルクが出ているから、あまり踏まず次々シフトアップして、いかにも小市民を装って走れる。
もちろん、乗り心地は硬い。しかしキャッツアイを踏んだ瞬間ガツンと突き上げるのとは違う。一瞬グッとこらえてから強靱(きょうじん)に踏ん張る感じ。単なるhardではなくfirmで、いわば大人のチューニング。せかせか煽(あお)るピッチングではなく、水平のまま上がったり下がったりだ。それでもタイヤが確実に接地し、進路が乱されない完成度は立派だ。
あきれるほどの安定感
だから、スポーツカーマニアの日常の足として十分に役立つが、やはり本当の舞台はワインディングロード。水を得た魚とはこのことか、実にすばしこく駆け回れてアドレナリン全開また全開。低回転でも粘りながら、3500rpmを超えた途端、まるで呼吸が楽になったかのように鋭く吹け上がり、中〜高回転域さえ保てば、踏んだり放したりのアクセル操作にも時間差ゼロで応える。
シャシーも絶妙。ペースを上げるほどに深いフラット感が増し、荒れた舗装面など強引に踏みつぶす。ステアリングを切り込んだ瞬間フロントから巌(いわお)のごとき踏ん張り感が返って来るのも快感だ。大きく切ったまま低いギアで全開をくれても、まるで鼻先が横っ飛びするように持っていかれ、だらしないアンダーステアなど出ない。
コーナリング中の安定性も抜群。攻め込みながら急にアクセルを戻しても、ノーズが大きく巻き込んだりテールを張り出したりする、FF高性能車の悪癖を見せない。もしかすると、熟練したドライバーにとっては物足りなすぎるほどの安定感で、もう少しタイヤが細い方が、あれこれ工夫する余地があって楽しめるかも。
さらにぜいたくを言わせてもらうなら、せっかく超クロスレシオに仕立ててくれた6段MTと低いファイナルだが、結果として低すぎるケースが多く、かなり鋭いヘアピンでも2速まで落とさず行けてしまうし、加速中も瞬く間に6000rpmのリミッターだから、広いトルクバンドを実感しにくい。ノーマルのファイナルと組み合わせれば、もっと伸びを活用できるかも……。それなら、100km/h 巡航の回転数を2600rpmから2200rpm程度に抑え、遠出の燃費も16km/リッター以上は期待できそうだ(今回のテストでは常に13km/リッター前後)。
………と、乗りながら多彩な想像の翼を広げられるところも、iQ GRMN スーパーチャージャーの魅力である。それこそがスポーツドライビングの神髄。だとするとこのクルマ、今どきの若者より、20世紀に深くクルマと語り合ったyoung at heartにこそ歓迎されるのではないだろうか。
(文=熊倉重春/写真=荒川正幸)

熊倉 重春
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。






























