トヨタ・ヴェロッサVR25(5MT)【ブリーフテスト】
トヨタ・ヴェロッサVR25(5MT) 2001.09.03 試乗記 ……372.8万円 総合評価……★★「一番」のTシャツ
トヨタ・マークIIのイタリアンバージョン、ヴェロッサについて、「彫刻のように彫りの深い造形で、華を感じるエクステリア」(プレス資料)と解説されると、ナルホド、と言うしかありません。「ボンネット前端のパネル形成は実に難しいのです」とエンジニアの方から説明を受けると、それは大変ですなァ、と思います。でも、「ファッションの発信地、イタリア・ミラノの石畳と石造りの街並みをイメージしました」と謳われてもなぁ。ココは日本だし。
ファッションセンスを遙か後方に置き忘れたリポーターの趣味的判断を控えても、「Emotional Design」と「妙に高い着座位置」と「やたら速いターボユニット」と「ゴリゴリのシフトフィール」と「“安楽”が底に寝転ぶ乗り心地」に接すると、どうもトータルコーディネートがなっとらん、と口にしたくなる。
ロスアンジェルスやサンフランスコに行くと、ときどきすれ違うじゃないですか、「一番」とか「友情」とか「武士道」とか大書されたTシャツを着たアメリカ人。ヴェロッサを目にしたときも、なにか共通するものを感じます。ココロの奥がくすぐったいような……。
外野の気楽さで提案すると、ヴェロッサ、イタリアに輸出してみたらどうでしょう? ヒュンダイクーペみたいに、意外とウケるかも。
【概要】 どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2001年7月6日にリリースされた、トヨタいうところの「エモーショナルセダン」。「ヴェロッサ」とは、イタリア語の「Vero(真実)」と「Rosso(赤)」からの造語である。販売店から見ると、旧マークII3兄弟の「クレスタ」を継ぐモデルとなるが、保守層狙いだったクレスタからクルマの性格が一変したため、ニューネームでの登場となった。ベース車「マークII」に準じたグレード構成をとる。エンジンはすべて直6で、2リッター(4AT)、2.5リッター(5AT)、2.5リッターターボ(4AT/5MT)といったラインナップ。2リッターモデルにのみ、4WDが用意される。
(グレード概要)
「VR25」は、280psターボユニットを搭載するヴェロッサ最速モデル。シリーズ唯一のマニュアルトランスミッションを備えるグレードでもある。17インチクロームメッキ調アルミホイールに、前「215/45ZR17」、後「225/45ZR17」と前後異形サイズのタイヤを履く。足まわりは、フロント&リアにアンチロールバーを備える。トラクションコントロールは標準装備。さらにパワステは、NAモデルの「エンジン回転数感応型」に対し「速度感応型」となる。
【車内&荷室空間】 乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
金属調の縁取りをされた立体的なレジスター(エアコン吹き出し口)が目をひくインパネまわり。モニターがセンター上部に置かれ見やすさに配慮され、スイッチ類は整然と並べられる。ただ、「機能」と「エモーショナル」の融合はいまひとつか。デザインはともかく、室内に散らばる「黒」「グレー」「メタル」各々の色調、素材感がまちまちなのが残念。コストにデザインが押し切られた印象を受ける。
(前席)……★★★
サラリとした触感の荒い織物と、スウェード調表皮のコンビネーションシート。イタリア車が好んで使う「本革+バックスキン(アルカンタラ)」内装のトヨタ流解釈。またはハイブローの大衆化。運転席は8WAYの調整機能がつくパワーシートだが、基本的に高い着座位置が、スポーティさをスポイルする。
(後席)……★★★
大人2人分としてじゅうぶん実用的なリアシート。膝前、頭まわりと、スペースに不満はない。ヘッドレストは背もたれ一体型ながら、しっかりしたもの。カタログ上は5人乗りながら、中央席にすわるヒトは、FRセダンゆえの太いセンタートンネルを跨ぐカタチになる。また、座面が盛り上がっているためヘッドクリアランスはミニマム。3点式シートベルトが備わるが、ヘッドレストがないため、追突時に不安。
(荷室)……★★★
ホイールハウスの張り出しの間に置かれたユーティリティボックス(取り外し可能)には、リアシートから、引き戸を開けてアクセスできる。ちなみに、トランクスルー用の穴が開けられたキャビンとラゲッジルームを隔てるパーテションパネルには、V字ビートと呼ばれる補強材が使われ、ボディ剛性低下を抑える。4つのゴルフバッグが積めるというトランクだが、荷室に干渉する剥き出しのヒンジはいかがなものか。
【ドライブフィール】 運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★
3000rpm付近からブッ太いトルクを吐き出す6気筒ターボ。サウンドは地味だが、ちゃんと(?)ストレート6らしいシルキーなフィールあり。高速道路料金所から数100mが、ヴェロッサターボの晴れ舞台。ダッシュをキメよう!? 一方、一握りのマニア向け用「5段MT」は、テスト車のわずか2500km余の走行距離を考慮にいれても、大トヨタの製品らしからぬ、シブく、ゴリゴリしたフィール。トラベルも長い。「マニュアルトランスミッションの開発、止まってる?」と思わせる。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
マークIIより若干スポーティにチューンされたとはいえ、三河産ファミリーセダンの範疇。乗り心地のベクトルは安楽方向。VR25のみに新採用された速度感応式「プログレッシブ」パワステは、終始アシストを感じさせながらも、力のかかり具合が自然でいい。街なかでは軽くてラクだ。
「Firm Feel(引き締まった)」をキーワードにしたヴェロッサの“Emotional Driving”は、しかし、本気でトバそうとすると足の踏ん張りがいまひとつ足りず、“その気”になる前にTRC(Traction Control)が、トラコンを切ってもVSC(Vehicle Stability Control)が介入して、反社会的なドライビングをクルマが戒める。つまり、速度が上がらない。それはそれで立派だ。
(写真=難波ケンジ)
【テストデータ】
報告者:webCG青木禎之
テスト日:2001年8月28日から31日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2001年型
テスト車の走行距離:2535km
タイヤ:(前)215/45ZR17/(後)225/45ZR17(いずれもブリヂストン Potenza RE040)
オプション装備:盗難防止システム(2.0万円)/フロントウィンドウ撥水加工(0.5万円)/間欠リアワイパー(1.3万円)/DVDナビゲーションシステム(27.0万円)/前席サイドエアバッグ+前後席カーテンシールドエアバッグ(8.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(5):山岳路(1)
テスト距離:371.2km
使用燃料:64.0リッター
参考燃費:5.8km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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