ポルシェ911カレラS(RR/7AT)【試乗記】
上がれるクルマ 2012.06.05 試乗記 ポルシェ911カレラS(RR/7AT)……1920万9000円
ついに400psに到達した、新型「911カレラS」に試乗。雨の房総半島で、その進化について考えた。
新型はどう変わった?
新型「ポルシェ911」(991型)は先代(997型)に似た姿で登場した。マニアにとっては歴代どのモデルチェンジも“とんでもなく変わった”んだろうが、クルマは好きで911も好きだけど、忙しいし、すぐ買えるわけじゃないから毎日911のことを考えているわけにもいかない……という人からすれば、この20年で最も見た目の変わらないフルモデルチェンジと映るだろう。実際には新型は先代より56mm長く、幅は同じで7mm低く、ホイールベースは100mmも長いからディメンションは結構違うのだが、そうした違いを見る者に感じさせず、多分自他ともに認めるカッコよさだった先代と同じように見せる努力をしたはずだ。
911は毎回ライバルを引き離す魅力、実力を備えて登場し、出てからも細かく改善され、それでも何年かたってようやくライバルが追いついてきて、細かい変更ではどうにもならないと判断しない限りはフルモデルチェンジしないので、切り替わったということは、少なくとも中身は一新したと考えるべきだ。どう変わったか。「カレラS」のPDK仕様で見てみよう。
まずは軽くなった。環境対策、安全対策などで60kgほどの増加要素があったものの、ボディーのアルミ使用比率を高めるなどして100kgダイエットし、差し引き40kgの軽量化に成功している。次に、軽量化もそのためだが、燃費がよくなった。新型は走行中にアクセルをオフにするとタコメーターがストンと落ちる。これはコースティング機能といって、アクセルペダルを戻すとクラッチが切れ、慣性だけで走って燃費を稼ぐためのもの。コースティング時の速度低下は思いのほか緩やかで、クルマ全体のフリクションの少なさを感じさせる。少しでもブレーキペダルを踏めばクラッチがつながり、きちんとエンジンブレーキも効かせられる。当然、アクセルペダルを踏めばすぐにクラッチがつながって再加速できる。
同じく初採用のアイドリングストップが始動後ほどなくして機能し始め、積極的にエンジンがプスプス止まる。そのたびに、911ですら“いい子でいること”と無縁でいられないのだなと、特権や例外を認めない世知辛さを嘆きたくなるが、フェラーリだってアイドリングストップする時代だ。911も止めて当然といえば当然だろう。このほか、パワステを電動化したり、空力性能を向上させたりと地味な努力も積み重ね、燃費を約17%改善したという。とはいっても、日本のエコカー減税/補助金が適用されるわけではない。念のため。
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期待通りの進化
インテリアは、お約束として永遠に変わっちゃいけない部分以外は結構変わった。ステアリングホイール奥の5連メーターは変えちゃいけない部分。センターパネルからコンソールにかけては激変し、「パナメーラ」のようにスイッチが整然といくつも並ぶ。男の仕事場感は減った。シートは例によって小ぶりながら完璧なホールドで、こういうノウハウだけでも「ポルシェは永久に不滅です!」と思わせるのだが、ともかく、全体的には電子デバイスが増えた分、スイッチが多くなってしまった感じだ。ポルシェはダイヤルスイッチ嫌いなのかな?
前述のとおり、加速、巡航している時以外はなるべくガソリンを使わないよう努める新型911カレラS。だけど、アクセルペダルを踏んでいる限り、これまで通りのカレラSだ。もちろん、軽くなったうえに最高出力も最大トルクも向上しているのだから、先代より速くなっているのは間違いないはずだが、ふた月ほど前に乗った997型カレラSを思い出してみると「前から十分に速かった」という結論になる。997型カレラSオーナーなら猛烈に悔しいということにはならないだろう。996型オーナーは試乗したら欲しくなるだろう。993型オーナーは「やっぱ空冷でしょ」と強がるだろう。964型オーナーは「え、もうティプトロニックじゃないの?」と、930型オーナーは「クルマの中でオーディオが楽しめる!」と驚くだろう。
アイドリングや街乗りレベルでのエンジン音が静かになった。その代わり、最近のスーパースポーツが好きな通称「爆音スイッチ」ことスポーツエグゾーストシステムが付いていて、オンにすると、スポーティーな音色、音量に、興味のない人にとってはやかましい音になる。エンジンのマッピングをノーマル、スポーツ、スポーツプラスの3種類から、足まわりのセッティングをノーマルとスポーツから選べるので、郊外に出たら、爆音スイッチをオンに、エンジンをスポーツプラスに、足をスポーツにして駆け抜けよう。そのセッティングならアイドリングストップしないし、燃費対策の6速、7速にも入らないので、ピュアスポーツカーとして程よい緊張と爽快感を心から味わうことができる。
取材日は大雨だったので、違う汗もだいぶかいたが、このクルマを乗りこなせたら、もうクルマ趣味は上がりでいいんじゃないか。これ以上はもうX Gamesでも始めないと刺激は得られないだろう。それくらいに奥深さを感じさせるし、どのレベルでも楽しい。こういう仕事をしていて、買えないのに中途半端に乗る機会を与えられるのが一番つらい。夜の銀座に30分だけ連れてってもらうようなものだ。
待ちか、買いか
そういう質問は巨匠 徳大寺有恒さんにしてほしいのだが、まれに間違えて僕に聞いてくる方がいる。「フェラーリよりいいんですか、やっぱり?」と。どっちがいいかわからないけど、違いはある。911もちょっと魅力的なオプションを付けると、価格はすぐにフェラーリ、ランボ、アストン並みに跳ね上がるとはいうものの、そうしたエキゾチックカーと並べるのは違和感がある。
911は、シャツのボタンを2〜3個開けた格好で乗って「見て、このカッコよさ」「すごいだろ、この加速」とアピールするためにあるエキゾチックな連中とは違って、例えば、ホントにどこか遠くで用事があって、何時までにそこへ着かなきゃいけないという人のための高性能車といった趣が強い。大人が乗るには向かないがリモワを置くにはもってこいのリアシートを備え、セダンと同じように乗り降りができ、セダンと同じように快適なドライビングポジションをとれる。段差を気にせず乗り越えられる。究極の実用車。最近はエキゾチックカーもカッコは浮世離れしたまま実用性も高めてきているから、以前より両者の差は近づいているが、それでも依然911は目的があって乗るクルマ、エキゾチックカーは乗ること自体が目的のクルマという違いは残っている気がする。
そして、現実的なお話の時間。911カレラSは1456万円。今回のテスト車にはオプションが464万9000円ぶん付いていて、1920万9000円だった。こうなると、もう頑張って買うとかじゃなく、買える人と買えない人にくっきりはっきり分かれる。買える人は一生に何台も買えるけど、買えない人は一生買えない。一億総中流などといわれたニッポンはもう帰ってこないのだ。
と、ここで終わると書いてても寂しいし、読んでてもわびしいだろうから、今日は特別に、僕も行ったことないけど買える側に回ってみよう。このクルマは「買い」だ。歴代911が「買い」じゃなかったタイミングはない。996型の出始めは今になってイマイチだったなんて言われ方をするが、リアルタイムでは十分すごかった。最新の991型も当然ながら一級品だ。ただ、ポルシェが「エコな連中がうるさいから、環境に配慮した」と本音を漏らしそうな911でもある。
「本当は997型でもうちょっと戦えた。世間が燃費、燃費とうるさいから、本当は次でドーンとハイブリッドにしようと思っていたけど、その前に取りあえずアイドリングストップ付けて出しといた」という声が聞こえてきそうだ。だから997型を持っている人は慌てなくてもいいんじゃないだろうか。「最新の911が最良の911」という有名な言葉は「待てば待っただけ、いい911が出てくる」という意味でもある。ただ、買える人はその時また買えるだろうから、やっぱり買いだ!
(文=塩見 智/写真=荒川正幸)
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塩見 智
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