レクサスIS【開発者インタビュー】
欧州のディーゼルに勝つ 2013.04.20 試乗記 <開発者インタビュー>古山淳一さん
Lexus International
チーフエンジニア
大胆な“顔”に生まれ変わった新型「レクサスIS」。その大きな見どころにハイブリッドモデルの登場がある。「ディーゼルエンジンのライバルに勝つ」と意気込む古山チーフエンジニアに、開発の狙いを聞いた。
“ハイブリッドくささ”を消す
――ラインナップが豊富な新型「IS」の中でも、注目は新たに追加されたハイブリッドモデルだと思います。やはりISにもハイブリッドが必要だったのでしょうか?
スポーツセダンであるISにハイブリッドモデルを設けることには異論もありました。そもそもISとハイブリッドシステムは馴染(なじ)むのか、というわけです。私自身にも迷いがなかったわけではありません。確かにライバルの中には、いわゆるパワーハイブリッドのスポーティーモデルもありますが、燃費は必ずしも良くない。レクサスとしては燃費でもエミッションでもディーゼル車に負けない。エコとエモーションを両立させるハイブリッドを目指したい。そこで、圧倒的なパワーを志向するのではなく、ステアリングフィールやハンドリングなどダイナミック性能でスポーティーさを追求したハイブリッドを作ろうと考えました。その意味でハイブリッドの「300h」は新型ISを象徴するモデルだと思います。
――従来のISにはディーゼルモデルもラインナップされていましたが、新型ではなくなり、その代わりにハイブリッドという位置づけですね。
レクサスはもともとハイブリッドをブランド戦略の大きな柱に据えて来ました。ただご存じのように、ISはレクサスの中で唯一、ディーゼルモデルを欧州で販売していましたから、引き続きラインナップするという判断もありました。しかしながら、今後ますます厳しくなるエミッション規制やCO2削減といった課題を考えると、やはりハイブリッドが適しているだろうと決断したのです。そのためにはパワー志向の「GS」用のシステムではなく、ISクラスにフィットするシステム、すなわち後輪駆動プラットフォームに搭載できるコンパクトなハイブリッドシステムを開発することになりました。
――新型ハイブリッドで最新のディーゼルを積んだライバルとも直接勝負するということですか?
欧州でディーゼルエンジンのライバルに勝つのが主眼です。そのためにはバッテリーを積んでいるからラゲッジスペースが狭くなって申し訳ありません、ということでは済まない。これまでは優れた燃費に免じて、ハイブリッドの弱点をある程度大目に見てもらっていたかもしれませんが、今回は徹底的に“ハイブリッドくささ”を消すことに取り組みました。
例えば、ラゲッジスペースはガソリン車と同じように広くて使いやすく、加速感もブレーキのフィーリングも言い訳が要らないように努めました。回生ブレーキゆえの不自然さはほとんど感じられないはずです。まあ、モーターの音は聞こえますが、目隠しして乗ったらわからないレベルを狙いました。そうでなければヨーロッパでは勝負になりません。
その上で、環境性能とエモーショナルな性能を両立させる方法論として、ハイブリッドに「Fスポーツ」があってもいいじゃないかと、あえて設定しました。燃費だけを追求するなら、もう少し違う方向性もあったとは思いますが、ハイブリッドのポテンシャルを生かしながら走る楽しさも同時に追求するために、ドライブモードを採用しました。
受注の7割がハイブリッド
――日本国内市場ではどうでしょう? 従来型は比較的年齢層が上の顧客も多かったと思いますが。
すでに3月から注文を受け付けているのですが、実際に現時点でいただいている受注の7割がハイブリッドです。立ち上がり時期は多いだろうと予想していましたが、この分だと落ち着いても5〜6割ぐらいはハイブリッドになるのではないかと思います。しかもそのうちの4割以上がFスポーツです。
現在オーダーを入れてくださったお客さまは実物をまったく見ていないわけですから、当然従来のISオーナーの方が多数を占めているはずです。その意味で、フロントグリルなど大胆なデザインがどのように受け止められるか正直ちょっと心配でもあったのですが、われわれの想像以上に好評のようです。ISのような車は年齢とは関係ないのかもしれません。
――それにしても新型は大胆にアグレッシブに変身しました。あそこまでダイナミックなデザインを採用するにはかなりの覚悟が必要だったと思いますが。
何より、変わらなければならないという危機感が強かったのです。やりすぎぐらいでちょうどいい、オリジナルのアイデアを生々しく、そのまま形にしようと決めました。幸い事前の調査では欧米ともに評判が良かったのです。ただし、生産面ではもめました。アイデアを見せた最初の段階では「造れるわけがない」と太鼓判を押されたほどです。これまでのプレス工法では無理だから、デザインを変えてもらうしかないね、とはっきり言われました。その種のことは例を挙げればキリがないほどです。例えば、剛性の高いボディーを作るためのレーザースクリューウェルディングや構造用接着剤の採用についても、製造ラインの中にその工程を割り込ませればいいというようなものではありません。ラインそのものを作り変えるぐらい手間がかかるのです。
プレミアムとは手間と労力を惜しまぬこと
――先ほど生産面ではもめたと聞きましたが、どうやって難色を示す人を納得させたのですか?
組織のコンセンサスを得るのは容易ではありません。企画を提案し、価値を理解してもらうしかないのですが、紙の上の言葉や数値ではなかなか難しい。そこで今回は実物で納得してもらうという手法を取りました。例えば、接着剤を使ったボディーとそうでないものを並べて乗り比べてもらうんです。エンジニアは何というか、データでロジカルに判断する人種ですから、剛性の数値を測ってもほとんど差がないものを分かってもらうのは非常に難しい。今回はまず試作を作って試してもらって、「理屈では説明しきれないけれど、実際に違うでしょ?」と説得したのです。
――レクサスはヨーロッパのプレミアムブランドと鎬(しのぎ)を削る唯一の日本車と言えます。古山さんは「プレミアム」をどのように考えていますか?
そうですね。例えば、前から後ろまでピシッと通ったプレスラインひとつとっても、そこに価値を見いだす人とそうでない人がいるでしょう。ある人には非常に大切でも、他の人にはまったく意味がないことかもしれない。でもその美しさのために、惜しみなく手間と労力を注ぎ込む。それがプレミアムということではないでしょうか。われわれの相手はいわゆるジャーマンスリーですが、確かに彼らのエンジニアリングのレベルは高いと思います。でもだからこそ闘いがいがあります。
――「IS F」の次期型の開発はどのように進んでいるのでしょうか?
IS Fは「LFA」を頂点とするレクサススポーツにとって重要なモデルですが、次の“F”については、最も効果的なモデルに“F”を持ちたいということもあり、現在検討中です。
(インタビューとまとめ=高平高輝/写真=小林俊樹)

高平 高輝
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