メルセデス・ベンツSLS AMG GT(FR/7AT)
もっと“アガる”メルセデス 2013.05.03 試乗記 メルセデスのスーパースポーツ「SLS AMG」に、動力性能を高めてハンドリングを磨いた「GT」モデルが登場。ドアも走りも“アガる”SLSは今回の改良でどう進化した? 箱根を目指した。スペシャルのなかのスペシャル
「SLS AMG」は2009年のフランクフルトモーターショーでデビューを飾り、翌2010年に発売されたメルセデス・ベンツのスーパースポーツだ。今やインハウスのスペシャルモデル開発部門であるAMGが、既存のモデルの性能を高めるのではなく、ゼロから設計したモデルだ。だからAMGの付かないSLSはない。
「SLS AMG GT」は、SLS AMGの動力性能を高めたスペシャルのなかのスペシャルだ。明確なモデルチェンジとはうたっていないものの、実質的な後継モデルといってもいい。ガルウイングのクーペと、コンベンショナルなドアとソフトトップの組み合わせであるロードスターがある。ちなみに、SLSには、さらに性能を高めた「ブラックシリーズ」というスペシャルのなかのスペシャル、のなかのスペシャルも存在する。
SLS AMG GTは、SLS AMGと見た目は変わらない。ブラックシリーズのように大きな羽根が前後に付いているわけではなく、パッと見て通常モデルと見分けられる人は少ないはずだ。
これまでのSLS AMGは6.2リッターV8エンジンを積み、最高出力571ps/6800rpm、最大トルク66.3kgm/4750rpmという途方もないパワーを発生した。このエンジンはM159といって「63 AMG」と呼ばれるモデルに搭載されてきたM156エンジンをドライサンプ化したエンジンだ。さらにGTのエンジンは型式こそM159のままだが、最高出力が20psアップの591psに高められた。最大トルクは変わらず。
荒々しく劇的なM159ユニット
現在のAMGの主流エンジンは、燃費やエミッション、それにライバルのパフォーマンスなどを考慮し、自然吸気(NA)からより新しいM157という5.5リッターV8ツインターボエンジンに置き換えられたが、「C63 AMG」と、このSLS AMGに限っては、いまだに自然吸気のM156およびM159が使われる。
総合的にはターボのM157のほうが優れたエンジンなのだろうが、なんと表現すべきか、M159には大排気量の狂気とでもいうべき圧倒的な迫力がある。総排気量6.2リッターのエンジンが、最高出力を発生する6800rpmまで一気に吹け上がる過程はとても野蛮で、ちょっと良いたとえが見つからないほど劇的だ。フェラーリのV8のように官能的なサウンドでもなければ、回り方だって精密機器のようではない。アメリカンV8寄りの野太い音を立てながら、荒々しく回っていく。大排気量NAは絶滅危惧種。後世に残したいエンジンのひとつだ。
このエンジンをフロントミドに積むために、乗員の位置はかなり後ろよりで、腰の位置は前輪よりも後輪に近い。フロントミドといっても、たいていはエンジンの重心がフロント車軸よりも少し後ろにある程度のことがほとんどだが、このクルマは完全無欠のフロントミド。どれほどかというと、ボンネットフードを開けても正面からはエンジンに触れることができないほど、はるかかなたに積まれている。もちろんトランスアクスルで、トランスミッションはリアデフにくっついている。
典型的なロングノーズ、ショートデッキのレイアウトを採用しただけあって、47:53という理想的な前後重量配分を実現した。低い運転席から見ると、クルマのフロントエンドがいったいどの辺にあるのか、見当もつかず、だいたいの感覚で運転するしかない。
日常でも楽しいFRスポーツ
SLS AMG GTを語るのに、ガルウイングドアに触れないわけにはいかない。ガルウイングは往年の名車「300SL」から持ってきたモチーフだが、300SLよりも開口部が大きいので、見た目から想像するよりも乗り降りは楽だ。コツがあって、ドア内側のグリップを持ったまま乗り込むと、スムーズにドアを閉められる。そうしないで座り込んでしまうと、グリップははるか上のほうにあって、ドアを閉めるにお尻を半分浮かせてグリップをつかみにいかなければならず、カッコ悪いのだ。
メルセデス・ベンツの常で、ドライビングポジションの自由度は高い。が、乗員スペース自体は結構タイト。トランク容量は176リッターあるが、底が浅いのでゴルフへ行くなら助手席にバッグを載せるしかなさそうだ。ま、このクルマのオーナーがこれしか持っていないとは考えにくいので、ユーティリティーに関する心配は無用だろう。
スーパースポーツはフロントエンジンかミドシップかに大別できる。ミドシップのほうがルックスはエキゾチックだが、相当にペースを上げないと本当のメリットを感じにくく、ちょっとハイペースといった程度だと乗りにくさのほうが先にくる。とはいえ、何百馬力もあるスーパースポーツのペースを相当に上げるのは本当に至難の業だ。要はスリリングすぎるのだ。
その点、FRスポーツは、踏むのはまっすぐだけで、コーナーはそれなりという、ほとんどの人の乗り方でも楽しい。ステアリングも相当にクイックなので、ペースにかかわらず”やってる感”を味わえる。FRのスーパースポーツは、プロがサーキットで攻めこんでも高い運動性能を誇るはずだが、そこまでじゃないペースでも楽しい。市販車である以上、これは大切なことだと思う。夢とかポテンシャルを買う部分が大きいスーパースポーツではあるが、日常的に楽しいほうがいい。
どこまでもオン・ザ・レール
手元に「C」「S」「S+」「M」からひとつを選ぶダイヤルスイッチがあって、デュアルクラッチ・トランスミッションの変速プログラムとアクセル操作に対する鋭さを変えられる。Cは街乗り、燃費重視、Sはスポーツ、S+がスポーツ+、Mがパドル操作によるマニュアル変速。当然、刺激的なのはS+で、各ギアが引っ張られ、燃費ギアの7速に入らない。マニュアル時のギアチェンジの反応も素早いので、スポーツドライビングには打ってつけだ。サスペンションも「スポーツ」と「スポーツ+」から選べるが、ギャップでポンポン跳ねるスポーツ+はサーキット専用と考えていいのではないだろうか。
1710(kg)÷591(ps)=2.89kg/ps。ESPをオフにして走ることはなかったが、オンとオフの間のスポーツというモードは使ってみた。が、オンのときと変わらなかった。限界ははるかかなたにあって、そこまで追い込めないのだ。車幅が広く、エンジンの搭載位置が低く、乗員も低い位置に座る。このとてつもなく重心の低いレイアウトに、フロント:265/35ZR19、リア:295/35ZR20の極太タイヤの組み合わせ、そして2650万円という価格が複合的に作用し、どこまでもオン・ザ・レールをキープするのであった。
世界的にとかく旦那グルマ、旦那ブランドとして扱われ、ユーザーの年齢層も高まる一方だったメルセデス・ベンツ。「A/Bクラス」を思い切り若向きにつくるなど、イメージチェンジに躍起になっているところだが、2010年に出たこのSLS AMGも、彼らの“ただ高級なだけじゃない”という叫びだったような気がする。ここまで“アガる”メルセデスも珍しい。2650万円。「だれでもいいって言われたらだれと付き合う?」とともに、だれもが一度は夢想する「1億円あったらどのクルマを買う?」という問いを投げかけられたなら、今なら僕はコレ買うな。オプションをしこたま装着して3000万円ほど最初に支払って、あとは年に一度の自動車税11万1000円と給油ごとの高額なガソリン税を男らしく払いながら乗り回したい。
(文=塩見智/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツSLS AMG GT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4640×1940×1265mm
ホイールベース:2680mm
車重:1710kg
駆動方式:FR
エンジン:6.2リッターV8 DOHC 32バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:591ps(435kW)/6800rpm
最大トルク:66.3kgm(650Nm)/4750rpm
タイヤ:(前)265/35ZR19/(後)295/30ZR20(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:--km/リッター(JC08モード)
価格:2650万円/テスト車=2735万円
オプション装備:マットブラックペイント19/20インチAMG10スポークアルミホイール(10万円)/AMGインテリアカーボンファイバーパッケージ(75万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

塩見 智
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