BMW 328iラグジュアリー(FR/8AT)【試乗記】
クラスを制する完成度 2012.03.14 試乗記 BMW 328iラグジュアリー(FR/8AT)……678万1000円
約7年ぶりにフルモデルチェンジを果たした「BMW 3シリーズ」に試乗。最新型に対する、巨匠 徳大寺有恒の評価のほどは……?
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もうひとつの伝統
松本英雄(以下「松」):今日の試乗車は大物ですよ。この2月に世界同時発売されたBMWの新型「3シリーズセダン」の、日本市場における先鋒を務める「328i」です。
徳大寺有恒(以下「徳」):「328i」というグレード名からは2.8リッターのストレート6を連想しがちだが、エンジンは2リッターの直4ターボなんだよな。
松:そうなんです。BMWジャパンによれば、日本市場向けの新型3シリーズの直6搭載車は、今秋導入予定の「アクティブハイブリッド3」のみだそうですよ。
徳:それについて、「BMWなのに純粋なシルキーシックスが味わえないとは……」という声があるようだが。
松:そうですね。
徳:たしかにBMWの直6はすばらしい。私自身、その魅力について散々訴えてきた。だが、4気筒だっていいんだよ。そもそも「ノイエ・クラッセ」以降の近代BMWは4気筒から始まったわけだし、市販高性能ターボ車の先駆けである「2002ターボ」や初代「M3」だって4気筒だった。
松:ノイエ・クラッセに積まれてデビューした、型式名「M10」と呼ばれる4気筒は名機ですよね。あれをベースにしたレーシングエンジンの「M12」は、1970年代から80年代にかけてF2やスポーツカーレースを席巻したし、さらにターボ化した「M12/13」はF1のチャンピオンエンジン(注1)に輝いたんだから。
徳:1.5リッター直4のシングルターボで、過給圧を上げた予選仕様では1000ps以上出してたってヤツだろう?
松:ええ。しかも驚くことに、シリンダーブロックは市販車用エンジンのラインから抜いてきたものを特殊加工して使っていたそうなんですよ。
徳:いかに基本設計が優れていたかっていうことだな。
松:ですよね。ところで、巨匠はかつて何台もBMWを所有しておられましたが、最初に買ったのはなんですか?
徳:グリーンの「1600-2」。「2002」と同じ2ドアボディーに1.6リッターを積んだモデルだが、けっこう速かったよ。
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松:「1600-2」は後に「1602」と改称した、「02シリーズ」の第1弾ですね。いわば3シリーズのルーツでしょう。3シリーズといえば、たしか先々代(E46)にも乗ってましたよね。
徳:乗ってた。シャンパンゴールドの「330」。
松:あの色はよかったですね。BMWの都会的なイメージをいっそう引き立ててました。
徳:昔から言われていることだが、BMWはドイツのメーカーのなかでもっとも南に位置することもあって、雰囲気が明るくてシャレてるんだよな。
松:加えてエンジンの魅力ですよね。直4も直6も、V8もV12も全部いい。
注1)チャンピオンエンジン
1983年、M12/13を搭載した「ブラバムBT52」を駆ったネルソン・ピケがF1のドライバーズタイトルを獲得した。
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“見せかた”がうまい
徳:ほお〜、3シリーズもずいぶん立派になったなあ。
松:約4.6mの全長は初代5シリーズ、1.8mの全幅は初代7シリーズとほぼ同じですから、単純にボディーサイズからすると、日本人の感覚ではもはやコンパクトとは呼べないでしょう。
徳:とはいえ、依然としてシャープでスポーティーなスタイリングはたいしたもんだ。これだけノーズが低く見えるクルマは、最近ではめったにないんじゃないか。
松:おっしゃるとおりです。歩行者保護のために、現代のクルマはどうしてもボンネットを高くせざるをえない。分厚いノーズをいかに低く見せるかどこも苦慮しているのに、新しい3シリーズは先代よりずっと低く、長く見える。このデザイン力は、ちょっとやそっとじゃマネできないでしょう。
徳:コンセプトカーの「i8」にも通じる顔つきは新しいのだが、どこから見てもBMWにしか見えない、ってところもさすがだよな。
松:キドニーグリルはもちろんだけど、後端がキックアップしたリアクオーターウィンドウのデザインなど、ノイエ・クラッセからずっと守られている文法がありますからね。
徳:BMWって、高性能だけど意外と保守的なんだよな。直6エンジンしかり。前がストラット、後ろがセミトレのサスペンションを長らく使い続けたことしかり。
松:スペックより実質、熟成を重んじるんですね。最近ではブレーキキャリパーがそうです。「135i」を除いては、「M3」や「M5」でも今なお対向ピストン式ではなく、フローティング式なんですよ。不思議に思ってBMWのエンジニアに尋ねたところ、「135iはホイール径の関係で対向ピストン式にしたが、ほかのモデルがフローティング式なのは、それで性能になんら不足はないからだ。何か問題あるか?」と言われてしまいました。
徳:ハハハ(笑)、そうかい。ところで、これはBMWにしてはやや光り物が多いような気がするんだが?
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松:それはですね、新型3シリーズには、標準モデルのほかにコンセプトに沿った内外装やアクセサリーがコーディネートされる「デザイン・ライン」が導入されているんですが、このクルマはそのうちの「ラグジュアリー」なんですよ。ちなみに、ほかには「スポーツ」と「モダン」があります。
徳:なるほど。それで室内にもあちこちにウッドパネルがあしらわれているのか。
松:ええ。
徳:メーターナセル部分が盛り上がったインパネには、02シリーズなど往年のモデルの雰囲気をちょっぴり感じるな。
松:カーナビなどのディスプレイを、ひさしの必要がない高輝度タイプにすることによって、インパネに埋め込む必要がなくなったため、こうしたデザインが可能になったそうですよ。
徳:それでダッシュを低くできたんだな。もともとBMW は見切りがいいんだが、おかげでさらによくなったというわけか。
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エコでいながらプレミアム
松:センターコンソールがドライバーに向かって傾斜して、運転席がちょっぴりタイトに感じられるデザインは、今ではいろんなメーカーが採用しています。でも、BMWは昔からこうでしたよね。
徳:ああ。こうしたデザインそのものはBMWが元祖というわけじゃない。でも、着座位置との関係などで、BMWのように見た目だけじゃなく実際に座ってもスポーティーな印象を与えるクルマはそうはないんだな。長年の経験のなせる業だと思うよ。
松:じゃあ走ってみましょうか。
徳:こりゃいいクルマだな。スムーズで、静かで、乗り心地がよくて。走りだしてすぐにわかったよ。
松:もうなんにも言うことはないですね(笑)。とはいえ、そういうわけにもいかないので、もう少し語ってください。
徳:エンジンは低回転域からトルクがたっぷりあるし、踏めば速いし、レスポンスも回転マナーも申し分ない。4気筒だからとか、ターボだからというエクスキューズは一切不要だろう。
松:ええ。エンジンのレスポンスやシフトタイミングなど走行特性を「コンフォート」「スポーツ」「ECO PRO」の3つのモードから選べる「ドライビング・パフォーマンス・コントロール」が備わっているんですが、そのうち燃費走行に振った「ECO PRO」でも、実用上は不満を感じませんね。
徳:「ECO PRO」で思い出したが、BMWは30年近くも前に「ETA(イータ)エンジン」(注2)を出していたんだよな。当時はそのコンセプトがあまり受け入れられなかったが。
松:子供のころ、それを積んだ2代目5シリーズの「528e」が実家にあったんですよ。これ(328i)のタコメーター内にはエコな運転をサポートするインジケーターがありますが、「528e」にも似たような機能のアナログメーターが付いていたのを憶えています。
徳:ああ、そうだったっけ。
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松:新たに採用されたアイドリングストップ機構の反応も、とってもいいですね。すぐにエンジンがかかって、振動もごく少ない。高級なシステムです。
徳:高級といえば、ATも8段なんだよな。このクラスでは唯一なんじゃないか?
松:そうですね。出来もいいし、あまり好きな言葉ではないけれど、「プレミアム」にふさわしい選択でしょう。
徳:先代3シリーズが採用したときには、こりゃ失敗したなと思ったランフラットタイヤも、今じゃ見事に使いこなしているな。どうだい、このしなやかな乗り心地は。
松:文句ないです。相対的に見て、新しい3シリーズは最初から完成度がすごく高いですね。このセグメントの新たなスタンダードとなりうるのではないでしょうか。
徳:うん。今後、ハイブリッドはもちろん、ディーゼルも入れる予定というから、楽しみだな。
注2)ETA(イータ)エンジン2代目5シリーズ(E28)や2代目3シリーズ(E30)に積まれた省燃費型エンジン。2.7リッター直6SOHCエンジンの最高回転数は4250rpmとディーゼルなみに低く、最高出力は120psに抑えられていた。
(語り=徳大寺有恒&松本英雄/まとめ=沼田亨/写真=峰昌宏)

徳大寺 有恒

松本 英雄
自動車テクノロジーライター。1992年~97年に当時のチームいすゞ(いすゞ自動車のワークスラリーチーム)テクニカル部門のアドバイザーとして、パリ・ダカール参加用車両の開発、製作にたずさわる。著書に『カー機能障害は治る』『通のツール箱』『クルマが長持ちする7つの習慣』(二玄社)がある。

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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