BMW i3 プロトタイプ(RR)
「電気で走る」だけじゃない 2013.07.29 試乗記 いよいよ誕生の瞬間が迫ってきたBMWの新ブランド「BMW i」。その先兵となるコンパクトEV(電気自動車)のプロトタイプに、ドイツで試乗した。BMWが進めるEV戦略の旗手
「i」に関してBMWは、一過性のものではなく「M」のように一定の独立性を持ったサブブランドに育てようという思惑を抱いている。プロダクトの技術的趣旨は対極にあるが、社是である「駆けぬける歓び」を両極からサポートすることで、BMWのステータスをより強固なものにしようというわけだ。
とあらば、iというブランドに求められる存在意義とは何なのか。エレキ仕込みで静かに力強いというだけでは、多くのEV(電気自動車)と大差はない。今後、新興国の隆盛によってますます増えるであろう1000万以上の人口が集中するメガシティーにおいて、モビリティーの公共性と自在性をどう両立させるかという思想や、私的移動のためのエネルギーをどのように効率よく調達するかという発想を織り込んだ上で、最適なパッケージをBMWらしさと共に提供する。奇麗事にもみえるかもしれない、その核心に向かって彼らが投じる額はハンパなものではない。株主構成がドシッと据わっていなければできない決断……という見方をすれば、BMWだからこそ広げられた大風呂敷ともいえる。
iブランドの初のプロダクトとなる「i3」は、2013年の7月29日に世界同時発表されることになった。その後、フランクフルトショーで現物を展示してのワールドプレミアとなり、欧州マーケットから順次販売を開始。日本市場では2013年内に導入の正式発表、2014年前半での販売開始というスケジュールが見込まれている。ともあれ2014年中には世界の主要都市で、i3が走る姿を見掛けることになりそうだ。
発表が直前に迫った7月の上旬、ミュンヘン郊外にBMWが持つユーザー向けのドライビングアカデミーの一角でi3に試乗する機会を得た。外装の一部にはおなじみのブルーカムフラージュのラッピングが施された個体は、各部が市販用の確定スペックには至らないプリプロダクションの状態。しかしその能力の一端は十分に伺い知ることができた。
走行可能距離は130~160km
i3のハードウエアにおいて最も象徴的なのは、シャシーとキャビンとをほぼ完全にセパレート化した車体構造を採ることだろう。
ドライブモジュールと呼ばれる前者は主要部位をアルミダイキャストや押し出し材で構成し、駆動用バッテリーは完全に床下に収納する。ライフモジュールと呼ばれる後者は、新たな熱間成型技術によりコストと量産性を飛躍的に高めたカーボンコンポジットのモノコック製だ。衝撃吸収性を高めるため、樹脂製のハニカム材を緩衝材として用い、タイヤもクラッシャブルゾーンに用いるなど、そこには新しい発想も随所に採り入れられている。
素材にリサイクル材を多用し、原材料加工工程での電力使用量を大幅に削減、製造工場の主電源は風力発電で賄い、外板をポリプロピレン化することで塗装工程をカットし水の使用量を激減させる……など、源流からの環境適合性追求にも怠りはない。
およそ4mの全長の中に収められたバッテリーモジュールは、サムスン製のリチウムイオンセルをベースにBMWが独自に液冷パッケージ化。約22kWhの容量を持ち、充電時間はAC240Vを用いての普通充電で約8時間、充電機能だけでなく車両との相互通信機能も備えたオプションのウォールボックス式充電器では約6時間、そして急速充電では30分で8割程度の充電が可能となる。急速充電に関しては仕向け地の標準を尊重する意向で、日本発売の暁にはCHAdeMOコネクターが装着される可能性が高い。
後軸に搭載される駆動用モーターは170ps(125kW)の出力、26.5kgm(260Nm)のトルクを持ち、カーボンとアルミの混成によって1195kgまで絞られたi3を7.2秒で100km/hに到達させる。ホットハッチ並みの瞬発力に対して、変速機を持たない駆動用モーターの保護のために最高速は150km/hに制限されるが、シティーコミューターとして必要十分以上の速度の追求にあまり意味がないことは、読者の皆さんもお察しだろう。むしろ気になる航続距離は、EUでの計測モードで130~160kmと発表された。これを割り切れないユーザーのために、i3にはオプションでレンジエクステンド用のガソリンエンジンが用意される。搭載されるのは同社の二輪用650ccエンジン。駆動力としてではなく純粋に充電用として用いることで、最大300kmまで航続距離を延ばすことが可能だ。
乗り込んでみると意外に「ふつう」
日本では「マツダRX-8」でおなじみの、観音開きのサブドアを持つ5ドアハッチバックボディーは、想像通りドライバーオリエンテッドな設定。大人4人と少々の荷物類は苦もなく飲み込むが、EVだからこその革命的なパッケージがそこにあるわけではない。その点においては日本の軽自動車の方がむしろ執念に満ちているといえるだろう。
が、そのぶん前席は車格を忘れる広々としたしつらえになっている。床下にバッテリーを敷く関係もあってドライビングポジションはどことなく先代の「メルセデス・ベンツAクラス」をほうふつとさせるが、足元まわりは低めにしつらえられていることもあってか、普通のクルマと比べて大きな違和感はない。外観の印象とは裏腹にフロントカウルは着座位置から遠目に据えられており、ショートノーズゆえの恐怖感はないものの、Aピラー周りが太めなこともあって車幅の把握にはやや慣れを要する印象だ。
試乗車は発表前の段階ゆえ、運転に必要な最低限の部分を除き、インテリアはすべて黒い布で覆われていたため、インターフェイス系の革新性はうかがい知る余地もないという状況だった。が、メーターおよびマルチメディアコントロールの液晶画面を受け止めるダッシュボードは、曲げ加工したウッドパネルをフローティングマウントしたようなフィニッシュが施されている。薄手にしつらえられたシートも含め、軽快なスカンジナビアン・モダンという印象は、iブランドのイメージクリエイションの目指すところなのだろうと察せられなくもない。
ブレーキシステムに新発想
試乗は基本的にパイロンで規制したルートをクリアしていくスタイルだったが、スラローム出口から130km/h近くまで一気に加速させ、フルブレーキングをしながらコーナーに侵入させるなど、あえてダイナミックなコース設定としていたところにBMWの自信がみてとれた。
i3の動力性能にはまったく文句のつけようがない。0-100km/h加速7.2秒の加速性能は、あくまでこれまでの自動車の評価軸にのっとった結果論。実はその中身がすごいというEVの特性を、トラクションベストのRRドライブと軽いボディーを武器に最大限に引き出している。よどみも息継ぎもなく一直線に速度計を跳ね上げていく加速の異質さ、そして中間域での瞬発力……と、その量感・力感をあえてガソリン車的物差しで例えれば3リッター級の迫力を備えている。
メガシティービークルという彼らの掲げた趣旨に対しては余剰に過ぎるパワフルさ。しかしi3がもっと挑戦的なのは、そのパワーを御するに「シングルペダルコントロール」という概念を採り入れていることにある。これは「MINI E」や「BMWアクティブE」といった彼らの実証実験用の車両で培ってきたファンクションだが、通常のEVなら従来のクルマと変わらないドライバビリティーを求めてなましてしまう回生ブレーキを、あえて強く働かせることで、極端に言えばアクセル操作ひとつで発進~巡航~停止までを賄ってしまおうというものだ。
実際、i3のアクセルオフ時の減速感はかなり強烈で、減速度に応じてブレーキランプを働かせるほどのGが発生する。流れを先読みしながら上手に扱えばフットブレーキをほとんど使わないような運転も可能だし、得られるエネルギーの回収効率も非常に大きい。そして何より、アクセル操作だけで自在に荷重の移動ができるという面白さもある。が、ことはブレーキまわりだけあって、これを市販モデルに採用するにあたっては相当な決断を迫られたはずだ。全く新しいエコソリューションだろうが、社是に沿ったファンを追求するBMWの姿勢には頭が下がる。
EVでも「駆けぬける歓び」
もうひとつ、i3のユニークなアプローチを挙げるとすれば大径・細幅のタイヤを採用したことにある。それがタイヤにおける今後のトレンドと目される理由は、空気抵抗と転がり抵抗の低減といったところ。i3はそこに加えて、フロントホイールハウス後端に設けられた樹脂ハニカム緩衝材との相乗で、衝突時のクラッシャブルゾーンとしてそれを活用するという狙いも担っている。ちなみにそのサイズは155/70R19。中型オートバイと大差ないほど特殊な縦横比のそれは、ブリヂストンとの共同開発となる「エコピア」だ。
しかしこれほどのプロファイルで果たして1.2トンにして170psのEVを支えることができるのか……というのは、僕が抱いていたi3に対する最大の興味だった。縦方向のグリップは大径ならではのフットプリントで稼げるだろうが、横方向の踏ん張りにはどう対処するのか。しかしそれはパッケージの適性化やサスペンションジオメトリー、タイヤ側ではサイドウォールの強化構造などを組み合わせてベストバランスを編み出したという。
実際に振り回してみると、タイトスラロームや低中速コーナーでガシガシ負荷が乗る状況でもi3は一向に破綻する気配をみせない。高速コーナーは試せていないが、今回の試乗での穏やかな流れ出しをみてもトリッキーな挙動は極力封じ込められているとみていいだろう。むしろ細いタイヤと軽い上屋のコンビネーションが軽妙にして確実なロードコンタクトを持つなど、よくできたいにしえのコンパクトカーのようなフィーリングを備えていることにニンマリさせられた。
アクセルを踏んだ瞬間、間髪入れず放たれる強力……どころか全力のモータートルクを特殊なサイズのタイヤで抑え込む。特性的に考えるとなおさらに、トルクステアの影に悩まされるFFよりもRRのほうがEVには合っているのではないかという気がしてくる。特にドライビングファンを追求するならば、EVにおける後輪駆動の優位は、ガソリンエンジンのそれとは比較にならない。i3には、そう思わせるだけの面白さが備わっている。
短い時間ながら、とにかくドライブして楽しかった。なんならスポーツカーと呼んでも構わない。自分の中ではそれほど魅力的なドライバビリティーを備えていた。もちろんインフラひとつとっても、EVはおいそれと買えるほど敷居が低いわけではない。それはBMWとて、同様の悩みを抱えることになる。
が、少なくとも社会的責務という致し方なさはそこにはみじんもない。プリプロダクションにしてハードの魅力はパーフェクトに近いといえるだろう。店子(たなこ)人生のクルマ好きも財布を開きたくなってしまう。i3、僕の中では今、一番困った存在かもしれない。
(文=渡辺敏史/写真=BMWジャパン)
テスト車のデータ
BMW i3 プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3999×--×--mm
ホイールベース:2570mm
車重:1195kg
駆動方式:RR
電動機:交流同期モーター
トランスミッション:--
最高出力:170ps(125kW)/6000rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/5000rpm
タイヤ:(前)155/70R19/(後)155/70R19(ブリヂストン・エコピアEP500)
電力消費率:0.12kWh/km
価格:--
オプション装備:--
(欧州仕様)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:テストコース
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】 2026.7.17 「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。
-
フェラーリ849テスタロッサ スパイダー(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.7.15 歴史ある車名が与えられた「フェラーリ849テスタロッサ」は、従来型から大幅な進化をとげた高性能スポーツカーだ。では、そのオープントップバージョンの走りはどうか? 日本での発売を前に、フェラーリ通として知られる西川 淳が試乗した。
-
ポルシェ・カイエン ターボ エレクトリック(4WD)【試乗記】 2026.7.15 ポルシェ最新の電動ハイパフォーマンスSUV「カイエン エレクトリック」。そのラインナップのなかでも、最高峰に位置するのが「カイエン ターボ エレクトリック」だ。最高出力1156PS、最大トルク1500N・mという、とてつもないパフォーマンスの一端に触れた。
-
プジョー308 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2026.7.14 マイナーチェンジで内外装がブラッシュアップされた「プジョー308 GTハイブリッド」に試乗。大胆なデザインのフロントフェイスに目を奪われるが、ステランティス自慢の1.2リッター直3マイルドハイブリッドを搭載する最新モデルの仕上がりと走りやいかに。
-
日産キックスG(FF)/キックスX e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.7.13 日産のコンパクトSUV「キックス」が、いよいよフルモデルチェンジ! デザインもパワートレインもプラットフォームも刷新された新型は、見ても乗っても長足の進化が感じられる力作となっていた。日産の再生を担う重要モデルの仕上がりを報告する。
-
NEW
ポルシェ911カレラT(後編)
2026.7.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルとSTIでクルマの走りを鍛え、モータースポーツにも積極的に取り組んできた辰己英治さん。彼の目に、“スポーツカーの水準器”こと「ポルシェ911」はどのように映ったのだろう? 走りの楽しさを追求した「カレラT」グレードに乗っての印象を聞いた。 -
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。 -
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.7.17デイリーコラムアルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。 -
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.17試乗記「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。 -
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。
































