レクサスIS300h“バージョンL”(FR/CVT)
都市内限定スポーツセダン 2013.07.30 試乗記 フルモデルチェンジを機に、「レクサスIS」に初めてハイブリッドモデルが加わった。モーター付きの“スポーツセダン”は、どんな走りを見せるのか? 燃費とあわせて報告する。カタチに期待高まる
「このクルマは、新しい『IS』のカタチをした『プリウス』なのだ」と気づくまでずいぶん時間が必要だったのだから、私はおめでたい人間である。関西弁でいえばアホ、名古屋弁だとタワケやでアカンわ。祖母にはよくドタワケといわれたものである。それはそうなのである。プリウス同様のハイブリッドシステムだからして……。あるいは、パワートレインを共有する「クラウン ハイブリッド」に乗っていれば、かくも長時間悩む必要はなかったであろう。
東京・田町にあるレクサスの広報車取り扱いオフィスまで「IS300h」をピックアップに行った。このとき、新型ISを初めてまじまじと見た。プロポーションは先代ISと基本的に同じイメージだけれど、ダース・ベイダーを思わせるスピンドルグリルはアグレッシヴで、そのたたずまいはアッパレな伊達(だて)者といってよかった。ダース・ベイダーは、“独眼竜”伊達政宗の甲冑(かっちゅう)をモチーフにしている、という説もある。
ヴェンチュリー効果を示すがごとくにリアに向かって跳ね上がるサイドのキャラクターラインはナイキのマークのようでもあり、Just Do It! 静止しながらにして躍動感に満ちている。前後フェンダーはスポーツセダンらしい豊かな膨らみを見せ、試乗車は“バージョンL”ながら、1サイズ大きいオプションの18インチタイヤを装着している。面貌(めんぼう)はサムライ、サイドはアスリート、「走り」への期待感が高まる姿カタチである。
シフトレバーの近くに、いわゆるドライブモードの切り替えスイッチがついており、エコ、ノーマル、スポーツを選ぶことができる。
「スポーツにすると、スーッと速くなって面白いですよ」
担当の人が笑顔でそう言うので、私は大層期待して走り始めたのだった。バッテリーはビンビンだぜ。だからだろう、EVドライブモードで60km/hぐらいまで無音で走り続けた。2.5リッターのD-4Sユニットがブルンと目覚めても、ショックは皆無で、タコメーターがそれを教えてくれるといってよかった。それから私はドライブモードをスポーツにして、芝公園から首都高速に上がり、箱根方面を目指した。小雨まじりの、風の強い日だった。
なぜか心はときめかない
いったいこれのどこがスポーツセダンなのか? と私はいぶかしんでいた。フロントはどうにも接地感がなく、辛うじてまっすぐ走ってはいるものの、なんだか違うな、という気分がいずこからか浮かんでくる。クルマに問題はなかったのかもしれない。ただ、横風があまりに強すぎるのだ。
私の違和感の大本(おおもと)はパワートレインから発せられているに違いなかった。広報資料にはこうある。
「レクサスが誇るハイブリッド技術を駆使して、走る楽しさと高い環境性能を両立させ、さらに進化させました」
これを読んだのは試乗後だけれど、でもまあ、大いに期待していたのである、ごく素直に。そもそもISはレクサスきってのスポーティーサルーンである。仮想敵としているのは「BMW 3シリーズ」であることは明白で、3シリーズにはディーゼルだけでなく、ハイブリッドまで用意されている。3リッター直6ターボ+モーターのこれは、699万円からと少々高価であるけれど、この3シリーズに対抗すべくハイブリッド宗家を自認するトヨタ=レクサスが満を持して登場させたのがIS300hであるはずだ。
しかるに、D-4Sユニットは3000rpmを超えると、スポーティーモデルではないトヨタ車共通の、いささか好ましからぬサウンドを発し、なんだかなぁ、であった。踏めば踏むほど、イカン。電気式無段変速機はプリウス同様のシステムながら6段のステップが刻まれていて、ステアリングには変速用のパドルが付いている。ところが、パドルを引いてギアダウンしても、ブオンッ! というような、スポーツセダンという言葉から連想される感動はない。ただ、電気掃除機がごとき雑音が高まるのみ。
エンジン音に心トキメカないスポーツセダンがあるだろうか? いや、あるとしましょう。あるとして、ではここまでリニアリティーに違和感のあるスポーツセダンはあるだろうか? それはCVT特有のクラッチが滑っているような違和感であり、アクセルオフ後に加速感があるのが(ターボ車でたまにそういうクルマはある)、私的には気になるところである。
乗り心地は硬めではあるけれど、悪くはない。乗り心地については、「クラウンアスリート」を連想させる。ハンドリングについても不満はない。前後重量配分は50:50で、ボディー剛性は高く、その意味ではスポーツセダンとしての資質を備えている。いや、下りだったら爽快なのだ。パワートレインがスポーツセダンと呼ぶべきものの対極にある、というほかない。
ふさわしい乗り方がある
都内に戻ってきて、ドライブモードをノーマルにして、私はようやく気づいた。これはノーマルモードで乗るべきクルマだった! ノーマルだとステアリングは軽くなり、エンジンは上まで回らなくなって、がぜん静かになる。なんじ、スロットルを開けるべからず。3000rpm以下で、モーターとの合力でもって無音的に走らせるのがIS300hの正しい味わい方なのだ。そうすれば、意外なペースで都市内をメダカのようにスイスイ走る。水槽の中のメダカを眺めているのと同様の、涼しげな気持ちよさがある。
ダース・ベイダーの見かけにだまされてはイカン。ダース・ベイダーことアナキン・スカイウォーカーは、妻や子どもを愛するがゆえに暗黒面に落ちてしまったけれど、本当はいい人なのである。って関係ないけどIS300hとは。
ようは、ギャップがあるのだ、と言いたいわけです、見た目と中身とで。であるがゆえに、都会の見せびらかし社会にあってこそ、IS300hは意味を持つ。というか、都会の人しか興味を持ちませんね、そもそも。
エンジン回転数わずか1000rpmで100㎞/h巡航するなんて芸当ができるのは、わがトヨタ=レクサスだけであろう。しかるに、もうひとことだけ言わせてください。
今回、東京~箱根間393kmを走って、車載計による燃費は11.5km/リッターだった。一方、この翌日に試乗した1.6リッターターボの「プジョーRCZ」、左ハンドルの6MT、これの車載計によれば、走行距離342kmで10.8km/リッターだった。明らかにIS300hのほうが優れている。かたや5人乗りのセダンで、車重1680kg、こなた2+2のクーペで車重1350kgというのも少なからぬ違いであろう。値段は、IS300h“バージョンL”が538万円。RCZの左ハンドルが426万円。0.7km/リッターの燃費の差をどうとらえるべきか?
トヨタ・ハイブリッドは都市内でこそ生きる。IS300hは池の中のメダカ、もとい都市内限定のアーバン・スポーツ・サルーン、ダース・ベイダーの甲冑をつけたプリウスなのである。その意味では、まったくもって新しいカテゴリーを創出した、といえる。
ただ、陋弊(ろうへい)に固執するひとりのノーテンキなドライバーから言わせていただければ、2.5リッター直4の代わりに、せめて「IS250」用のV6を搭載することはできないものか……。世界耐久選手権で「アウディR18 e-tron クワトロ」に戦いを挑む「トヨタTS030 ハイブリッド」なんて、すばらしくレーシーなサウンドを発している。おれはあっちのほうがいいと思う。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
レクサスIS300h“バージョンL”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4665×1810×1430mm
ホイールベース:2800mm
車重:1680kg
駆動方式:FR
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:178ps(131kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:22.5kgm(221Nm)/4200-4800rpm
モーター最高出力:143ps(105kW)
モーター最大トルク:30.6kgm(300Nm)
タイヤ:(前)225/40R18 88Y/(後)255/35R18 90Y(ブリヂストン・トランザ ER33)
燃費:23.2km/リッター(JC08モード)
価格:538万円/テスト車=588万6100円
オプション装備:フロント225/40R18+リア255/35R18タイヤ&アルミホイール(5万1450円)/プリクラッシュセーフティシステム+レーダークルーズコントロール(6万3000円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万2000円)/ブラインドスポットモニター(5万2500円)/LEDヘッドランプ+レーンディパーチャーアラート+オートマチックハイビーム(5万2500円)/ステアリングヒーター(1万500円)/“マークレビンソン“プレミアムサラウンドサウンドシステム(23万4150円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2755km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:469.7km
使用燃料:42.2リッター
参考燃費:11.1km/リッター(満タン法)/11.5km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.2.26 日本で久々の復活を遂げた「ホンダCR-V」の新型に、北海道のテストコースで試乗。雪上・氷上での“ひとクラス上”の振る舞いに感嘆しつつも、筆者がドン! と太鼓判を押せなかった理由とは? デビューから30年をむかえたCR-Vの、実力と課題を報告する。
-
NEW
BYDシーライオン7 AWD(4WD)
2026.3.5JAIA輸入車試乗会2026堂々たるスタイルにライバルの上をいくパワーと一充電走行距離、そしてざっくり2割はお得なプライスを武器とする電気自動車「BYDシーライオン7」。日本市場への上陸から1年がたち、少しずつ存在感が増してきた電動クーペSUVの走りやいかに。 -
NEW
ついにハードウエアの更新も実現 進化した「スバルアップグレードサービス」の特徴を探る
2026.3.5デイリーコラムスバルが車両の機能や性能の向上を目的とした「スバルアップグレードサービス」の第3弾を開始する。初めてハードウエアの更新も組み込まれた最新サービスの特徴や内容を、スバル車に乗る玉川ニコがオーナー目線で解説する。 -
NEW
第951回:日本が誇る名車を再解釈 「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」の開発担当者に聞く
2026.3.5マッキナ あらモーダ!2026年の「東京オートサロン」で来場者の目をくぎ付けにした「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」。イタルデザインの手になる「ホンダNSX」の“再解釈”モデルは、いかにして誕生したのか? イタリア在住の大矢アキオが、開発関係者の熱い思いを聞いた。 -
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】
2026.3.4試乗記メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。 -
始まりはジウジアーロデザイン、終着点は広島ベンツ? 二転三転した日本版「ルーチェ」の道のり
2026.3.4デイリーコラムフェラーリ初の電気自動車が「ルーチェ」と名乗ることが発表された。それはそれで楽しみな新型車だが、日本のファンにとってルーチェといえばマツダに決まっている。デザインが二転三転した孤高のフラッグシップモデルのストーリーをお届けする。 -
第863回:3モーター式4WDの実力やいかに!? 「ランボルギーニ・テメラリオ」で雪道を目指す
2026.3.3エディターから一言電動化に向けて大きく舵を切ったランボルギーニは、「ウラカン」の後継たる「テメラリオ」をプラグインハイブリッド車としてリリースした。前に2基、リアに1基のモーターを積む4WDシステムの実力を試すべく、北の大地へと向かったのだが……。
































