第197回:レギュレーション変更でどうなる? “日本最高峰レース”SUPER GT選手権のこれから
2013.08.19 エディターから一言2013年8月16日、トヨタ、ホンダ、日産の3メーカーが、2014年のSUPER GT参戦マシンを同時に公開した。2013年シーズン半ばでのお披露目が意図するものは何か? SUPER GT選手権のいまと今後について報告する。
共通部品で三つどもえ
2014年から実戦に投入される、3台の新型GT500クラス車両が公開されたことで、SUPER GTは新時代に入ったといえる。
そもそも、トヨタ、ホンダ、日産の3メーカーが、新レギュレーションに対応したマシンを同時に発表するのは、全日本GT選手権に端を発するSUPER GTの20年間におよぶ歴史でも初めてのことである。
だが実は、3メーカーの新型車が“そろい踏み”するチャンスは2009年にもあった。というのも、量産車をベースにレーシングカーを開発していたそれまでの流れを断ち切り、「ベース車にかかわらず、統一の車両規則でレーシングカーを開発する」方針に大きく様変わりするのが2009年とされていたからだ。
ところが、各社の量産車販売計画の都合により、日産は2008年に、そしてホンダは2010年に新型車を投入したため、SUPER GT初となる試みは不発に終わったのだった。
2014年に予定される新型マシンへの切り替えについても、「レクサスLF-CC」ならびに「ホンダNSX」の量産型デビューは2014年以降になるものの、今回はいずれも「コンセプトカーによる参戦」という形態をとることで、この障害をクリア。史上初となる“3メーカー同時公開”を実現した。
では、来年の開幕戦まではまだ半年以上も待たなければならないこのタイミングで、ニューマシンのお披露目を行う目的はどこにあったのか?
シリーズをオーガナイズするGTAの坂東正明代表は、「DTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)と車両規則が共通化することを、いち早くファンの皆さんにお知らせしたかった」と語る。
SUPER GTとDTMの車両規則を共通化することはかねてより議論されていたが、最終的には2014年から導入されることに決定。モノコックや駆動系など、主要パーツの多くに共通部品が採用されることとなった。つまり、「レクサスLF-CC」「ホンダNSX」「日産GT-R」はそれぞれ異なった見た目を有してはいるが、3台とも1社のパーツサプライヤーが制作した同一のモノコックが用いられているのである。
2009年レギュレーションが、文面としての共通化を図った一方で、パーツに関しては個々のメーカーが独自開発することを許していたのに対し、2014年レギュレーションでは、パーツまでワンメイク化したことに大きな違いがある。これにより開発費と製作費のコストが下がるのは間違いないだろう。
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気になる「3車の性能調整」
ところで、DTM側が基本をとりまとめた2014年レギュレーションでは、「エンジンをフロントに配置するFR方式」と定められているが、次期型「NSX」はミドシップレイアウト(MR)が採用される。これについては日本独自のルールとして参戦が認められることになったが、それでもモノコックに関してはFRを前提に開発された共通部品を用いることになっている。FR用モノコックをMRに変更するには多くの困難が伴うはずだが、それでもホンダは、今回のデモ走行までに新型車を用意してみせた。
ここで問題になるのが、MRに対する性能調整だ。2009年まで参戦していた先代の「ホンダNSX」は、FR方式を採用する「レクサスSC430」や「日産GT-R」よりも性能面でアドバンテージがあるとして、パフォーマンスを抑える独自の規定が設けられていた。では、次期型「NSX」もMRを理由に、同じ“足かせ”がされるのだろうか?
ホンダでGTプロジェクトリーダーを務める松本雅彦氏は、「本来MRの特性を引き出すにはMRに適したモノコックが必要ですが、FR用の共通モノコックを使いMRマシンを設計するのは容易ではなく、無理があるといっても過言ではありません。パッケージングと重量配分を考慮したレイアウトにはとても苦労しました」と語る。
つまり、MRとしたことのアドバンテージはなく、むしろFRより性能的に劣っているとさえ捉えているのだ。原理的には運動性能を上げるのに有利とされるMRだが、モノコックがFR用では、MRのよさを引き出すことはできず、むしろ不利になってしまうというのである。
「NSX」についてはさらに、量産モデルを意識したハイブリッドシステムの搭載が明言されている(ハイブリッドの形式そのものは量産型とは異なる)。これもまた、「LF-CC」や「GT-R」との間で性能調整を図らなければならない要因のひとつとなるだろう。いずれにせよ、2014年モデルの性能調整については、今後を見据えてじっくり取り組んでいくという姿勢をGTAは示している。つまり、MRだからといって「NSX」に対する拙速な性能調整は行わないというのだ。
今季のGT300クラスでは国産ハイブリッド車がヨーロッパ製GT3車両を蹴散らす活躍を見せているが、あれも性能調整が作り出した「いびつな構造」といえないこともない。同様のことが2014年からのGT500クラスで起きないよう、公正で客観的な性能調整が実施されることを強く望みたい。
(文=小林祐介/写真=トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業)

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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