スマート・フォーツークーペmhdプラス(RR/5AT)
孤高のシティーコミューター 2013.09.01 試乗記 初代のデビューから15年を経た2人乗りのシティーコミューター「スマート・フォーツー」。ワン&オンリーの魅力は今も健在なのか、1泊2日の試乗を通して検証した。今見ても先進的
ダイムラー・ベンツ(当時)と腕時計メーカーのスウォッチが、業種の垣根を越えて開発を行った「スマート・シティクーペ」が誕生してから約15年。この間に、スウォッチが手を引き、メーカー名が変わり、日本でも当初輸入販売していた企業に代わってダイムラー・クライスラー日本(当時)が正規導入を開始するなど、紆余(うよ)曲折の歴史を経て現在の形がある。
しかしクルマ自体のコンセプトにはまったくブレがない。2人乗りのシティーコミューターとして、取り回しのしやすいボディーサイズ、コンパクトでも乗員を守る強固なボディー構造など、昨今のダウンサイジングトレンドなどこのクルマの前では色あせてしまうほど時代を先取りしていたことは、誰もが納得できるのではないだろうか。
今回試乗したのは、2013年5月28日に一部改良を受けた現在の最廉価グレードである「スマート・フォーツークーペmhdプラス」。現行モデルは2007年10月に発売されているが、今回の改良では、幅広い仕様でより充実した装備が選べるようラインナップや装備の設定を再編。mhdプラスは従来モデルから9万円価格を下げ、159万円という国産車からの乗り換えを意識させる値付けで勝負を仕掛けてきた。
もっとも、159万円&最廉価グレードと書いたものの、国産のソレとは考え方が大きく異なるのが輸入車の魅力。その筆頭となるのが安全装備の充実で、乗員を万が一の事故から守る「トリディオンセーフティセル」やESP、フルサイズのSRSエアバッグ&頭部保護のためのSRSヘッドソラックスサイドバッグなど、エントリーグレードでもまったく手抜きがない。
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仕様、装備は必要にして十分
言わせてもらえば、軽自動車だろうがLクラスの高級車であろうが「クルマはクルマ」である。安全装備は付いていて当然。コストダウンばかり考えてそれらを後回しにする一部の国産メーカーは、爪の垢(あか)でも煎じて飲んでほしい。
もちろん、こうした装備の差は価格に跳ね返ってくるわけだが、mhdプラスの場合はホイールがスチール製だったり、選択肢が少ないボディーカラーやシートカラー&素材などでそれをカバー。もしそれが納得できないのであれば、もう少しお金を積んで上位グレードを買えばいいだけの話である。
それに、前述した安全装備の充実はもちろんだが、荷物が積みやすい上下分割のテールゲートやリアウィンドウのリモートリリース機構、さらにiPhone/iPod対応のCD付きオーディオなど、その他の装備面も「あっ、これで十分じゃない」と思えるほど満たされている。
ドアを開けて、スッと楽に乗降できる理想的な高さのヒップポイントのシートに座る。市街地走行では本当にこのボディーサイズのありがたみがよくわかる。全長2740mm×全幅1560mm×全高1540mm、ホイールベースに至っては1865mmしかない。
最小回転半径はわずか4.2m、日本独自の軽自動車より幅はあるが、細かい路地にも積極的に入っていけるし、何よりも縦列駐車が楽チンである。また全高も都市部の立体駐車場に多い「入庫制限1550mm」に収まっているので今更ながら使い勝手は抜群。市街地での機動力は圧倒的だ。
積極的なアイドリングストップ
パワーステアリングは今や主流の電動式だが、変に軽すぎず、路面の変化もつかみやすい。ドライビングポジションもアイポイントが高く視界良好なのだが、シートを前に出し過ぎるとステアリング下のパネルと足が微妙に干渉することがあった。恥ずかしながら筆者は身長160cmの胴長体形。適切なシート&ペダルポジションを取ろうとすると、たまにコツンと膝元あたりが触れるのだ。ホールド性などもしっかりしていたシートまわりで、ゆいいつ気になる部分がこれだった。
燃費向上のための主力機能であるアイドリングストップ機構は、走行中でも8km/h以下に減速するとエンジンが止まるタイプ。こうしたシステムでは、車両が完全停止するまでの間にペダルが抜けるような違和感が出がちだが、ことスマートに関してはほぼそれがない。とはいえ、かなり積極的に作動するので、車庫入れや交差点などで気になるようならスイッチをオフにすればいいだろう。一方で、エンジン始動時のショックは、国産車に搭載されている同機能に比べると音、振動ともにやや大きめ。もっともこの手の機構は慣れの問題だし、「ブルン」と言いながらエンジンがかかる際にはいとおしさすら感じるのもスマートのキャラクターならではである。
ステージを高速道に移してみると、車両重量840kgのボディーに1リッター直3 DOHCエンジンはやや非力な印象を受けた。特にアップダウンの多い中央自動車道では、追い越し加速時には積極的なシフトダウンが必要になる。
それでも高速走行時の直進安定性はかなり向上している。正直言って初代のスマートでは、この領域は「しんどい……」という気持ちが強かったものだが、現行型は車内に入ってくる音量や音質も決して不快なものではないし、軽自動車や国産車の一部車種よりはるかにしっかりとした操舵(そうだ)感を確保している。
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オンリーワンの魅力は健在
市街地での取り回しのしやすさや高速での安定性など、スマートの魅力は乗れば乗るほどその良さがわかってくるものだが、それでもひとつケチを付けさせてもらうならば、例の2ペダルMT……「softouch(ソフタッチ)」は、もう少しレベルアップを期待したい。昨今では構造こそ微妙に違うものの、フィアットやフォルクスワーゲンなどもコスト面や燃費性能の面からシングルクラッチ式の2ペダルMTを積極的に採用している。しかしスロットルを早めに開いた際の独特のつながり感は昔に比べればかなり改善されてはいるが、スムーズに走らせるのには相変わらずコツがいる。国産車からの乗り換えも視野に入れている以上、営業の現場ではきちんとした説明が必要だろう。
気になる燃費は市街地から高速まで1名、または2名乗車で移動、走行距離356.2kmに対し19.8リッターのガソリンを消費し、満タン法では18.0km/リッターとなった。全体としては高速ではハイペースを維持。市街地ではアイドリングストップも積極的に作動していたが、エアコンは常に全開だったこともあり、もう少し燃費を上げることは可能だと思う。
さて、発売からそれなりの時間がたっているスマートだが、シティーコミューターとしての圧倒的な使いやすさや、安全装備の充実、そしてなにより色あせないデザインなど、他車にはまねできないオンリーワンの魅力は健在。軽自動車メーカーの過去の調査などを見ると、普段の生活におけるクルマの乗員数は平均で1.7人程度という報告もある。大人数でクルマに乗る機会が少なく、移動中もしっかり自己主張したい。そんな人にこれほどピッタリなクルマはないことを、再認識した今回の試乗だった。
(文=高山正寛/写真=河野敦樹)
テスト車のデータ
スマート・フォーツークーペmhdプラス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2740×1560×1540mm
ホイールベース:1865mm
車重:840kg
駆動方式:RR
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:5AT
最高出力:71ps(52kW)/5800rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)155/60R15 74T/(後)175/55R15 77T(コンチネンタル・コンチエココンタクト3)
燃費:22.0km/リッター(JC08モード)
価格:159万円/テスト車=159万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:6522km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:356.2km
使用燃料:19.8リッター
参考燃費:18.0km/リッター(満タン法)

高山 正寛
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