BMW 428iクーペ ラグジュアリー(FR/8AT)
直球ド真ん中の二枚目 2013.12.23 試乗記 「3シリーズ」から独立し、新たに「4シリーズ」の名を冠した「BMW 428iクーペ」。ハンサムでダンディーなバイエルンの新しいクーペに試乗した。古典的セオリーに忠実
BMWを見ていて感心するのは、「よくもまぁ、二枚目なクルマばかり出すものだ」ということ。BMWのニューモデルは、発売直後はちょっと違和感があっても、時がたち、目が慣れるに従って、カッコよく見えてくるのが不思議、というか、さすが。世界的に「トレンディー」(死語)の形容は、アウディに冠されるようになったが、「アウディ、ちょっとスカし過ぎじゃね?」という世の(古典的)クルマ好きも多い。BMWに対する彼らからの支持は、むしろより熱いものになっている、ような気がする。保守本流のメルセデスがちょっとよろめきがちなのがツマラナイところだが、うーん、最近のBMW、ホントにカッコいい……。
そんなリポーターの個人的な嗜好(しこう)を押しつけられても、と眉をひそめている読者の方もいらっしゃいましょう。でも、街なかで「BMW 4シリーズクーペ」を目にしたなら、きっと「オッ!」と思うはず。ご存じのように、バイエルンの新しいクーペは「3シリーズ」から独立し、「4シリーズ」の名が与えられた。「アウディA4クーペ」が、「A5」と呼ばれるようになったのと同じだ。
例えば試乗車の「428iクーペ ラグジュアリー」を「328iセダン ラグジュアリー」と比較すると、15mm長く、25mm幅広く、そして65mmも背が低くなった。いうまでもなく、「ワイド&ローはカッコいい」という古典的なセオリーにのっとっている。価格は、328i セダン ラグジュアリーが592万円。428i クーペ ラグジュアリーが646万円。クーペはぜいたく品だから、値段もお高い。これまた、古典的なセオリーに忠実である(当たり前)。ちなみに、ベースグレードで比較すると、3シリーズセダン:576万円、4シリーズクーペ:604万円となる。
ダンディーでハンサム
本国ではディーゼルモデルも用意される4シリーズクーペだが、日本でラインナップされるのは、大きく分けて2種類。4気筒の2リッターターボ(245ps、35.7kgm)搭載の428iクーペと、やはりターボで過給された3リッター直列6気筒(306ps、40.8kgm)を積む435iクーペである。それぞれ、ベースグレードに加え、アディショナルフィーを払うことで、「スポーツ」「ラグジュアリー」「Mスポーツ」と、3つの仕様から選べるようになっている。セダンで設定された「モダン」は省かれた。
428iクーペ ラグジュアリーの場合、ベースグレードと機関面の違いはないが、ホイールが18インチから19インチにアップし、繊細なマルチスポークタイプが与えられる。タイヤは、フロント:225/40R19、リア:255/35R19の、前後異サイズとなる。
外観は、キドニーグリル内のバーにクロムメッキが施され、サイドウィンドウまわり、フロントフェンダー後部のエアアウトレット「エア・ブリーザー」などにクロムモールが用いられて一層華やかな印象に。インテリアでは、シートがダコタレザーを用いたぜいたくなものになり(シートヒーター付き)、パネル類もマットシルバーからウッド基調の、よりラグジュアリーな見かけに変更される。全体に、直球ド真ん中、ダンディーで二枚目なクーペに仕上がっている。「自分がロマンスグレーの紳士だったらなぁ」と思わないでもないまでに。
これはクーペに限ったことではないのだが、現行3/4シリーズのデザインでひときわさえているのが、バンパーとボンネットの間にあえて隙間を作って、キドニーグリルの側面を“チラ見せ”しているところ。赤いボディーカラーに挟まれた金属の輝きがニクイ。
むろん、BMW車のスタイルの妙味は、FRらしい伸びやかなノーズと、リア寄りのマスを感じさせるキャビンとの組み合わせにあるわけだが、小さくリング状に点灯するポジションランプの使い方といい、バイエルンのハンサムカーメーカーは、小技にも長(た)けている。4シリーズクーペのフロントフェイスには、りゅうとビスポークのスーツで決めて、ポケットチーフをのぞかせるような、そんなイヤらしさがある。ほれる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
有無を言わさない説得力
ドライバーズシートに座ると、スルスルと、後からプラスチックのアームがシートベルトを差し出してくれる。ドアの前後長が長いクーペならではの、お・も・て・な・し。優男(やさおとこ)は、“優しい男”と書くのだ。
運転者に向いたセンターコンソールはじめ、インパネまわりの様子は、いつもの通り。トンネルコンソールに設けられたiDriveは、ダイヤルのまわりに「MENU」「OPTION」「BACK」ほか7つもの物理的なボタンが配され、同システムが「7シリーズ」に初搭載された、登場当時の理論的なピュアさはなくなったが、使い勝手は向上している。
センターの高い位置に埋められたディスプレイは、8.8インチの大きなもの。ちょっと気になるのは、BMWは、タッチパネルを頑として認めていないことだ。液晶画面に指紋が残るのが、プレミアムブランドとして許せない、ということらしい。iDrive開発時は、今日、これほどまでにタッチパネルが普及するとは、想像していなかったのだろう。今後が気になるところ。
ドライブフィールは、街なか、高速道路とも、文句のつけようがない。パワフルで、頼りがいのある足まわりで、ハンドリングも胸のすくもの。かつては、シルキーな6気筒や、「ビン!」とスプリングではじかれるようなMTのシフトフィール(マニア向け)を特徴に挙げたものだが、昨今のBMWでは、圧倒的なボディーの剛性感が、有無を言わさない“プレミアムな”説得力を持つ。
聞くところによると、BMWは、開発陣から生産現場まで「ボディー剛性の重要さ」が浸透しているのだとか。体幹がしっかりしたうえに筋骨隆々だから、ラグジュアリーなクーペにして、その実力はあなどりがたい。428iのステアリングホイールを握りながら、「昔はポルシェに乗っていたこともあるけれど……」。そんなフレーズを口にする、初老のジェントルマンになってみたいものです。
(文=青木禎之/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
BMW 428iクーペ ラグジュアリー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4640×1825×1375mm
ホイールベース:2810mm
車重:1570kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:245ps(180kW)/5000rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1250-4800rpm
タイヤ:(前)225/40R19 89Y/(後)255/35R19 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001 RFT<ランフラットタイヤ>)
燃費:15.2km/リッター(JC08モード)
価格:646万円/テスト車=721万2000円
オプション装備:バリアブル・スポーツ・ステアリング(4万2000円)/電動ガラス・サンルーフ(17万円)/リア・ウィンドウ・ローラー・ブラインド(4万8000円)/スルーローディング・システム(2万8000円)/アダプティブLEDヘッドライト(16万5000円)/レーン・チェンジ・ウォーニング(7万5000円)/アクティブ・クルーズ・コントロール(9万5000円)/パーキング・アシスト(4万9000円)/メタリック・ペイント(8万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2120km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:226.4km
使用燃料:26.7リッター
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/8.8km/リッター(車載燃費計計測値)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】 2025.9.6 空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
NEW
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(前編)
2025.9.7ミスター・スバル 辰己英治の目利き「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のなかでも、走りのパフォーマンスを突き詰めたモデルとなるのが「ゴルフR」だ。かつて自身が鍛えた「スバルWRX」と同じく、高出力の4気筒ターボエンジンと4WDを組み合わせたこのマシンを、辰己英治氏はどう見るか? -
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。