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アウディS3スポーツバック(4WD/6AT)

クールなホットハッチ 2014.02.06 試乗記 今尾 直樹 280ps、38.8kgmのアウトプットをクワトロシステムで操る「アウディS3」に試乗。アウディ自慢のフルタイム4WDと電子制御ダンパーが実現したその走りとは?
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気分はライトウェイトスポーツ

スーパー「アウディA3」というべき「アウディS3」は驚天動地のハンドリングマシンだった! 正直に申し上げて、これほどのすばらしさを私は想像していなかった。“スーパー・ストロング・マシン”はスーパーになってもあんまりたいしたことなかったけれど(プロのプロレスラーの評価は別としてですね)、スーパーA3は現行A3の軽快感を残したままスーパーなところがスーパースゴイ。箱根のワインディングロードの次から次へと現れるコーナーというコーナーに、いともたやすくアプローチして、いともたやすく旋回し、いともやすやすと次なるコーナーへとダッシュする。爽快! 最高出力300ps、日本仕様は諸般の事情で280psなんですけど、分類上、ホットハッチとされるこの全長4m少々の5ドアモデルを駆りながら、信じがたいことに私はこう思った。まるで「ロータス・エリーゼ」のようだ……。

う~む。なんたるこっちゃ! 

私がドライブしているのは、フロントヘビーのフツウの5ドアハッチバックなのである。フロントに2リッターの直4ターボエンジンを横置きする。車重1540kgのうち、前輪荷重は910kg。前後重量配分は59:39と、フルタイム4WDのクワトロとはいえ、基本はフロントエンジン、フロントドライブのクルマなのである。それがまるで物理の法則を無視するかのように、私、実は理科は苦手ですが、映画『ゼロ・グラビティ』があたかも無重力の宇宙で撮影されたもののごとく3Dスクリーンに展開するように、21世紀の自動車工学、おそらくそのもうひとつの主役がデルファイ考案の電子制御ダンピングシステム「マグネティックライド」であろうけれど、いわゆるひとつのテクノロジーの進歩が人工のなんたるかをまったくもって感じさせることなく、徹底的にナチュラルな様子でもって、私をして5ドアハッチバックにミドシップのライトウェイトスポーツカーの幻影を見させるのであった。

「S3スポーツバック」は、アウディのCセグメントモデル「A3スポーツバック」の高性能バージョン。日本では、2013年11月に販売が開始された。
「S3スポーツバック」は、アウディのCセグメントモデル「A3スポーツバック」の高性能バージョン。日本では、2013年11月に販売が開始された。
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インテリアは黒のモノトーン。加飾パネルにはアルミ調素材を採用している。
インテリアは黒のモノトーン。加飾パネルにはアルミ調素材を採用している。
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サイドサポートの張り出したスポーツシート。標準仕様は本革とクロスを組み合わせたコンビシートだが、テスト車にはオプションの本革シートが装備されていた。
サイドサポートの張り出したスポーツシート。標準仕様は本革とクロスを組み合わせたコンビシートだが、テスト車にはオプションの本革シートが装備されていた。
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シートの背もたれには。「S3」のロゴがエンボス加工であしらわれている。
シートの背もたれには。「S3」のロゴがエンボス加工であしらわれている。
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ドーピングした「A3」ではない

ということで、私はアウディS3スポーツバックにキム・ヨナ級の最高得点をあげたい。そのよく曲がること、正確さにほれぼれする。好きになっちゃう。新型S3スポーツバックの2リッター直4ターボは、前述したように、日本仕様だと排ガス規制等の関係で280psにとどめられているけれど、38.8kgmという自然吸気4リッター級のアッパレな最大トルクを1800~5100rpmの広範な範囲で生み出す。同じくA3の1.8 TFSIに搭載されている1.8リッター直4ターボの180psと28.6kgmに比べて、当たり前ですけど、ぜんぜん違う。瞬発力と持続力の両方を備えている。

たいていの高性能車は、パワーが増大すると、速さとともにある種の重々しさが加わる。自動車の不思議なところだけれど、パワーのないクルマの方に軽快感を往々にして感じる。少なくとも先代のS3は、ステロイドを飲んだA3、という感覚が多少なりともあったように記憶する。今度のS3は、まさにトレーニングのたまもの。そこに、いまやブガッティからベントレー、ランボにポルシェまでを傘下に抱えるフォルクスワーゲングループの、こと高性能車に関する技術の蓄積と、鳴り物入りの最新テクノロジー「MQB」横置きモジュラープラットフォームのすごみを感じるのである。

2リッター直噴ターボエンジンやフルタイム4WDシステムの採用などにより、「S3スポーツバック」は0-100km/h加速4.9秒という動力性能を実現。
2リッター直噴ターボエンジンやフルタイム4WDシステムの採用などにより、「S3スポーツバック」は0-100km/h加速4.9秒という動力性能を実現。
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最高出力280ps、最大トルク38.8kgmを発生する2リッター直4直噴ターボエンジン。排気量は共通だが、先代モデル(256ps、33.7kgm)より出力、トルクともに向上している。
最高出力280ps、最大トルク38.8kgmを発生する2リッター直4直噴ターボエンジン。排気量は共通だが、先代モデル(256ps、33.7kgm)より出力、トルクともに向上している。
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トランスミッションにはデュアルクラッチ式ATの6段Sトロニックを採用。
トランスミッションにはデュアルクラッチ式ATの6段Sトロニックを採用。
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激しすぎない絶妙なチューニング

また「RS 3」ではなくて、その手前のS3であること、つまりそのチューニングの度合いの激しすぎない、なんともよい加減であることも、このような好印象に貢献している。ブルース・リーの筋肉、いや、もちろん触ったことはありませんが、ああいうしなやかな感じ。品がある。激情を内に秘めたクールな感覚をS3は漂わせるのである。アチョーッ!
6500rpmからレッドゾーンとなるエンジンは、超高回転型ではないけれど、ターボラグをまるで感じさせない。「Sトロニック」と呼ばれる6段ギアのツインクラッチトランスミッションは、全開でのシフトアップで若干のショックを伴う演出が施されている。やってる気にさせてくれるのである。ガンガンガーンッ! といって、あくまでもそのチューニングの度合いは激しすぎることはない。クールにホットな状態を保てるほどに、クールな仕立てなのだ。

もうひとつ驚天動地なのは、これも前述したけれど、オプション装着のマグネティックライドである。これは16万円のオプションなのだけれど、完璧な仕事ぶりに感服した。電子制御でダンパーを個別に固くしたり柔らかくしたりして車両の姿勢をコントロールしている。だから、コーナー手前で急減速しようと、あるいはコーナリング中、さらにはコーナリングからの脱出でガバチョとアクセルを全開にしようと、常にフラットな姿勢を保ち続ける。それでいて乗り心地は、ブルース・リー的な、もちろん乗ったことはありませんが、しなやかなミディアム・ハードで、快適さを担保している。マグネティックライドの場合、これまではなんとなく砂鉄っぽい感触があった。それがぜんぜんない。金属バネのごとき一徹さ、ピュアさを感じるのみである。アウディドライブセレクトでコンフォートとスポーツの切り替えを試みても、ほとんど変わらないので、私は電子制御ダンピングはついていない、と思ったのである。

ボディーの軽量化やアイドリングストップ機構の採用などにより、先代モデル比で燃費も改善。JC08モードでは14.4km/リッター(パノラマサンルーフ装着車は13.9km/リッター)となっている。
ボディーの軽量化やアイドリングストップ機構の採用などにより、先代モデル比で燃費も改善。JC08モードでは14.4km/リッター(パノラマサンルーフ装着車は13.9km/リッター)となっている。
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足元は7J×18インチのアルミホイールと225/40R18サイズのタイヤの組み合わせ。ブレーキは「A3スポーツバック」が前:ベンチレーテッドディスク、後ろ:ディスクなのに対し、「S3スポーツバック」では前後ともベンチレーテッドディスクとなる。
足元は7J×18インチのアルミホイールと225/40R18サイズのタイヤの組み合わせ。ブレーキは「A3スポーツバック」が前:ベンチレーテッドディスク、後ろ:ディスクなのに対し、「S3スポーツバック」では前後ともベンチレーテッドディスクとなる。
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エクステリアでは、専用デザインのバンパーや左右計4本出しのマフラーなどが「S3スポーツバック」の特徴。
エクステリアでは、専用デザインのバンパーや左右計4本出しのマフラーなどが「S3スポーツバック」の特徴。 拡大
ラゲッジルームの容量は「A3スポーツバック1.8 TFSIクワトロ」と同じ340リッター。同モデルのFF車と比べて、40リッターほど狭い。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
ラゲッジルームの容量は「A3スポーツバック1.8 TFSIクワトロ」と同じ340リッター。同モデルのFF車と比べて、40リッターほど狭い。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
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クワトロシステムのなせる業

なお、マグネティックライドを選択しない場合、S3は車高が10mm低い専用のスポーツサスペンションを備える。学術的な興味で、そちらも乗ってみたいものである。そのとき初めて、電子制御のハルデックス式クワトロシステムの偉大さを知ることになると思われる。300ps、いや、日本仕様は280psですけれど、かくもコンパクトなクルマが38.8kgmもの大トルクをたやすく路面に伝えることができるのは、225/40R18のコンチスポーツコンタクトのみの功績では、断じてない。しかも、キム・ヨナ級に正確に、気持ちよく曲がる。ちなみに、クワトロの電子制御のプログラムは、フツウの1.8のクワトロとは異なっているという。

S3スポーツバックは大人5人を乗せることが可能なばかりでなく、ステーションワゴンのようにも使うことができるはずだ。高い実用性とドライビングファンを併せ持つところがホットハッチのホットハッチたるゆえんだ。じつのところ、S3はブルース・リーのように、アチョーッ! アチョアチョアチョッ!! というような怪鳥音を発したりはしない。直4ターボは高回転でも、控えめな乾いたサウンドを発するだけだ。

なんてクールなんだ。

ホット過ぎない、クールなホットハッチ。車両価格544万円。キム・ヨナにも喩(たと)えたい。好き♥

(文=今尾直樹/写真=荒川正幸)

4WDシステムの基本は「A3スポーツバック」の「1.8 TFSIクワトロ」と共通。FFをベースに、電子制御式の多板クラッチで後軸に動力を伝えるタイプだ。


    4WDシステムの基本は「A3スポーツバック」の「1.8 TFSIクワトロ」と共通。FFをベースに、電子制御式の多板クラッチで後軸に動力を伝えるタイプだ。
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充実した装備も「S3スポーツバック」の特徴。「A3スポーツバック」ではオプション扱いのメーカー純正ナビやインテリジェントキーなどが標準装備される。
充実した装備も「S3スポーツバック」の特徴。「A3スポーツバック」ではオプション扱いのメーカー純正ナビやインテリジェントキーなどが標準装備される。
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オーディオには10個のスピーカーと6チャンネル180Wのアンプなどからなる「アウディサウンドシステム」を標準で採用。テスト車にはオプションの「バング&オルフセンサウンドシステム」が装備されていた。
オーディオには10個のスピーカーと6チャンネル180Wのアンプなどからなる「アウディサウンドシステム」を標準で採用。テスト車にはオプションの「バング&オルフセンサウンドシステム」が装備されていた。
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テスト車のデータ

アウディS3スポーツバック

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4335×1785×1440mm
ホイールベース:2630mm
車重:1540kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:280ps(206kW)/5100-6500rpm
最大トルク:38.8kgm(380Nm)/1800-5100rpm
タイヤ:(前)225/40R18/(後)225/40R18(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:13.9km/リッター(JC08モード)
価格:544万円/テスト車=609万円
オプション装備:アウディマグネティックライド(16万円)/パノラマサンルーフ(13万円)/バング&オルフセンサウンドシステム(8万円)/本革シート<ファインナッパ>+シートヒーター<フロント>(20万円)/アダプティブクルーズコントロール(8万円)

テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:859km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:825.6km
使用燃料:87.3リッター
参考燃費:9.5km/リッター(満タン法)/9.3km/リッター(車載燃費計計測値)
 

アウディS3スポーツバック
アウディS3スポーツバック
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今尾 直樹

今尾 直樹

1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。

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