第442回:トヨタがお父さんで、スバルがお母さん!? やっと分かった「86」&「BRZ」の作り方
2011.12.16 小沢コージの勢いまかせ!第442回:トヨタがお父さんで、スバルがお母さん!?やっと分かった「86」&「BRZ」の作り方
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「やりたいことができました」
「夢の100万人超え!」はならなかったものの、前回より4割近く多い84万2600人も入って大成功に終わった第42回東京モーターショー。
外国の人にどう受け止められたか若干心配だけど、俺としては見やすかったし、フツーのクルマ好きやカップルにとっても良かったハズ。次回はぜひこのまま都内の会場キープで、よりグローバルなショーを目指して頑張ってほしい!
ってな具合だが、今回は個人的にもさまざまな発見があった。中でもインパクトがあったのは「トヨタ86」であり、その兄弟車「スバルBRZ」の開発者、増田年男さんとの立ち話。前々から自分が疑問に思っていたこと……要は、トヨタとスバルの役割分担や、走りへのこだわりなどについて、ホントのところが垣間見えたからだ。
では以下、チラっと雑談の内容を。
(スバルブースにて)
小沢:いや、大人気ですねぇ。
増田:ありがとうございます。
小沢:このクルマのどこがすごいのか、開発者の立場から教えてください。
増田:やっぱり基本性能でしょうね。ボンネットを開けてもらえれば分かりますけど、現行「インプレッサ」に比べて重心が120mm下げてあるうえ、エンジン搭載位置をより後ろに持ってきています。
小沢:12cm!! きっと、そこに尽きるんでしょうね(ガチャッとボンネットを開ける)。うわ、低い! こんだけ分かりやすく搭載位置が低いのって「レガシィ」や「インプレッサ」でもなかったと思うんですが……。
増田:クランクシャフトの位置でいうと、60mm下がってます。でも、それだけではありません。駆動方式が4WDでなくFRなので、(フロントの)ドライブシャフトがなくなって、エンジンの搭載位置をキャビンに近いフロントミドシップにできました。排気系の取り回しも見直して、またさらに低くできています。
小沢:邪魔なモノがなくなったことで、フラット4の優位点をより明確に出せたと。
増田:そうとも言えます。それから、バッテリーの搭載位置を後ろにして、フロントサスペンションを前に出し、特にアームは“前引き”、つまりボディー側の取り付け位置が前になって足がスムーズに動くようになってます。
小沢:ホイールベースが長くなっただけでなく、力学的にサスが素直に動かせる配置になったと。
増田:オイルパンも見直して、1インチ薄くしてます。だからこのボンネットの低さで、歩行者保護の要件も満たせたんですね。
小沢:エンジンの搭載位置があまりに低いから、これだけ低いボンネットでもその下にさらに十分なクラッシャブルゾーンが確保できてるってことですよね。
増田:そうです。
小沢:なんだか、美しすぎるお話です。まさにスバル新原理主義って感じで。(笑)
増田:そうですね。僕らエンジニア側としてもやりたい事ができたし、その点ではこのプロジェクトに感謝しています。
この“双子”には期待できる!
小沢:でも、それこそトヨタとのコラボの最大の利点ですよね。今までスバルはフラット4という宝を持っていても、4WDという縛りがあって、こういうエンジンの使い方……つまり、FRにして搭載位置を極限まで低く後ろにして運動性能を追求する、ということができなかった。
増田:そういう部分はあるかもしれません。今回、ハードウエアの開発はほぼスバルが担当して、エンジンにしろボディーにしろスバルの技術によるものですが、結果としては今までスバルが作れなかったモノにはなっていると思います。
小沢:「具体的にどういう役割分担があったのかな?」と思ってたんですが……。
増田:企画・コンセプトはトヨタとの共同で、特にFRというレイアウトの選択やボディーデザインはトヨタさん側のリードですよね。一方、ハードの作り込みや生産は基本スバルで、味付けについても、ときどきトヨタのスタッフに乗ってもらって、その意見をうかがったという感じです。
小沢:実際そのへんのサジ加減がビミョーでよくわからないんですよ。結局、トヨタが「これやりたい!」って言っても、スバルが「それは無理!」って言えば、突っぱねられる部分もあるわけじゃないですか。
増田:そこはなんとも言い難いですね。例えば、「プリウス」用のエコタイヤを採用したのは、企画を担うトヨタ側のアイデアです。一方、このパネルが絞れる絞れない……みたいなデザイン案件などは、スバルが担当しました。
小沢:ってことは、家庭の大きな方針はお父さんが打ち出して、子供に対する具体的な教育や細かいしつけはお母さん、みたいな? 「トヨタがお父さんで、スバルがお母さん」って感じですか?
増田:そうですそうです、さすがは小沢さん、うまいうまい。(笑)
小沢:もっと言うと、厳格なお父さんが「この夏までにクロールで1km泳げるようになれ!」って息子に活を入れたとして、お母さんが「まあまあお父さん、私が毎日プールに連れて行きますから」って感じだったりして? 大きな目標はお父さんが決めたけど、実際の練習やサイフのことはお母さんが見てた、みたいな。
増田:そういう感じはありましたね。
小沢:なるほど。でも、結局子供がちゃんと育つか育たないかは、お父さんとお母さんの仲がいいか、お互いがリスペクトしあってるかどうかにかかっているわけで……スバルとトヨタは、そこら辺、どうだったんでしょう?
増田:そこは、「トヨタ86」とウチの「BRZ」の出来・不出来に表れてくるわけで。(笑) その評価は小沢さん、お任せしますよ。
小沢:うっ!
ってな具合で、自信満々だったスバルの増田さん。実はまだ「86」にはプロトタイプにチョイ乗りした程度で、「BRZ」に関してはそれすらかなわない小沢だが、クルマの育ちがいいこと、今までにないクルマになっていることだけは確か。ユニークで楽しく、個性的な子供が生まれることは保証します。
みなさんも、楽しみに待っててくださいな。この今までにない双子が生まれる来春を!
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
-
第454回:ヤマダ電機にIKEAも顔負けのクルマ屋? ノルかソルかの新商法「ガリバーWOW!TOWN」 2012.8.27 中古車買い取りのガリバーが新ビジネス「WOW!TOWN」を開始。これは“クルマ選びのテーマパーク”だ!
-
第453回:今後のメルセデスはますますデザインに走る!? 「CLSシューティングブレーク」発表会&新型「Aクラス」欧州試乗! 2012.7.27 小沢コージが、最新のメルセデス・ベンツである「CLSシューティングブレーク」と新型「Aクラス」をチェック! その見どころは?
-
第452回:これじゃメルセデスには追いつけないぜ! “無意識インプレッション”のススメ 2012.6.22 自動車開発のカギを握る、テストドライブ。それが限られた道路環境で行われている日本の現状に、小沢コージが物申す!?
-
第451回:日本も学べる(?)中国自動車事情 新婚さん、“すてきなカーライフに”いらっしゃ〜い!? 2012.6.11 自動車熱が高まる中国には「新婚夫婦を対象にした自動車メディア」があるのだとか……? 現地で話を聞いてきた、小沢コージのリポート。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。






























