第245回 「記憶すべきルマン」を観て想う
ルマン24時間レース観戦記
2014.07.01
エディターから一言
テレビに映らないポルシェの“戦闘力”
少々時間がたってしまったが、今でも思い出すと、まさに夢だったんじゃないかという気すらしてくる。そう、2014年のルマン24時間耐久レースは、本当にすごいレースだった。
前半戦を独走して、いよいよ初優勝を実現できるかと思われた「トヨタTS040ハイブリッド」の7号車が早朝に、まさかのトラブルで離脱。続いて、実に16年ぶりのトップカテゴリーへの復帰初年度での優勝が見えてきた「ポルシェ919ハイブリッド」も駆動系トラブルでリタイアすると、結局勝利の栄冠を手にしたのはスルスルと追い上げて、いつの間にか上位につけていた「アウディR18 e-tronクワトロ」だった。
実はこのアウディも、途中でエンジンのタービン交換を行っている。スプリントレース化している最近のルマンで、これほどのトラブルに遭いながら優勝できた例は多くない。結果表だけ見ると、何だかいつも通りというか、あまり面白みのない結果と映ったかもしれないけれど、本当にエキサイティングなレースだったのだ。
今回のルマン、筆者はポルシェのプレスツアーで現地に赴いた。そしてここで、初出場で優勝の可能性すら感じさせたレース以外にも、その戦いぶりにいろいろと感心させられたのだった。
例えば最終コーナー手前にはVIP顧客用のブースが設置されており、ここでは24時間ビュッフェが提供され、中のソファでゆっくり、あるいはテラスに出てシャンパン片手にレースを楽しむこともできるようになっていた。またポルシェコーナーの脇の、今までは単なる砂利の空き地だったところにもやはりポルシェブースが出現。ここは一般の観客にも開放されていて、ソーセージやビールを買って食べながら観戦することができた。
ルマンに参戦する意義とは?
われわれプレス向けのホスピタリティーも充実していた。テントではなくこのために建てられた2階建ての立派なブースは、24時間オープンしていてレースの情報を逐一確認することができたし、時には普通に食事をとりに来たドライバーたちと遭遇することもできた。しかもLMP1とGT-Proのポルシェワークスチームに何か動きがあるとアナウンスが入り、またレース途中のドライバーが来て状況報告をしてくれたりもしたのである。
ルマンのこうした部分、ここ十数年の間に大きく変化させたのは間違いなくアウディの参戦だ。コース上だけでなくコース外でもアウディはルマンを洗練させ、進化させた。ではポルシェはといえば、16年ぶりの復帰にあたって単にマシンとチームを用意しただけでなく、こうした部分でも最新の常識にのっとって、一番の環境を用意してみせたのだ。
彼らにとってのルマン復帰とは、ここまでひとくくりでの話なのだろう。勝つためにレースを戦うだけでなく、それを観客にどう楽しんでもらうか、ユーザーにどう誇りを感じてもらうか、ひいてはどうブランドイメージ向上、そしてセールスにつなげていくか。そこまでがすでにパッケージになって考えられていた。そんな風に見ることができる。
惜しくも勝利が手のひらから滑り落ちてしまったトヨタだが、それはそれとして何となくこうしたルマンを戦うことで、何をどうしたいのかというメッセージが希薄に思えた感は否めない。外野からは、楽しむ、楽しませるということに無頓着で、裏返せば勝利至上主義みたいになってしまっているようにも見えた。そうした余裕がなかったのは事実だろうけれど、だからこそ負けるとすべてが終わりみたいな悲壮感につながってしまっていた気がするのだ。
ルマンという伝統あるレースに参加し、勝利を目指すことを、もっと文化への貢献のように考えることができれば、そしてそこにいることを自らまず楽しみ、そして一緒に楽しんでくれる人の輪を大きくしていくことができれば、もっとルマンへの参戦が、意義あるものになるのではないだろうか。当たり前のようにそれができ、そして当たり前のように毎年そこにいるトヨタになったら、気付くと「あれ?」というぐらい簡単に勝利が転がり込んできたりするんじゃないか……なんてことを、その戦いぶりを見て勝手に思ったのだった。
2015年はさらなる混戦の予感
ルマン24時間耐久レースの今年の観客数は実に26万3300人。VIPもレースファンも、そして酒を飲んで騒ぐために来ているような輩(やから)までいろいろな人が集まり、けれど皆、そこにいることを大いに楽しんでいたように思う。サルトサーキット、本当にいい雰囲気だった。
ちなみにテレビ放送は世界190カ国で行われ、推定8億人以上が視聴したという。webTVの視聴者は660万人。テレビ(地上波)放送のなかった日本からの視聴はフランスに次ぐ世界2番目の多さだったということだ。
トヨタには来年こそ悲願を達成してほしい。そのためにはファンへのホスピタリティー含めたコース内外でのより積極的な攻めを見せてもらいたいと思う。本社のさらなるバックアップにも期待したい。アウディもポルシェも本社の役員がたくさん訪れ、ポルシェのM.ミューラー社長など始終ヘッドセットをつけてピットにいたほどだったのに、トヨタではそんな雰囲気はなかった。それも、とても寂しいことだったので……。
ほかにも来年には、LMP2常勝の日産もいよいよ「GT-R」の名を冠したマシンでLMP1に参戦してくる。実際、今年もパドックには日産/NISMO関係者が、大挙して訪れていた。もちろんアウディも強い。しかしポルシェも当然、必勝態勢で来るはず。やはりここが本命かなと期待しつつ、来年を待つことにしたい。
おっと、その前に。10月12日にはこのルマン24時間耐久レースも含まれるWEC(世界耐久選手権)の第5戦が、富士スピードウェイにて開催される。レース自体はもちろん、テクノロジーの面でも、あるいはここまで記してきたような他の部分でも見どころたっぷりのはずだから、ゼヒそれらを、ご自身の目で確かめに行ってみてほしいと思う。
(文=島下泰久)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
第871回:今年もグリーンヘルは熱かった! ニュルブルクリンク24時間レース観戦記 2026.5.27 “世界一過酷な草レース”として知られ、今年も波乱が巻き起こったニュルブルクリンク24時間レース。F1王者のフェルスタッペンも参戦するとあって、大いに盛り上がったその様子を、世界を飛び回るモータースポーツカメラマンが臨場感満点でリポートする。
-
第870回:熱きホンダをとことん楽しむ これが「Honda All Type R World Meeting 2026」だ! 2026.5.15 「シビック タイプR」をはじめ、“タイプR”の車名を持つホンダの高性能車ばかりが集う、激アツのイベントが開催された。気になるその内容は? 会場となったモビリティリゾートもてぎの様子を詳しくリポートする。
-
第869回:思わぬサプライズもいっぱい! クルマ好きのための祭典「シン・モーターファンフェスタ2026」で“最旬ニューモデル”に触れる 2026.4.24 日本最大級の“クルマ好きのための祭典”「シン・モーターファンフェスタ2026」に、発売を間近に控えるさまざまな注目モデルが終結! 会場の様子や、そこで得られた最新情報をお伝えしよう。
-
第868回:ウエット路面での実力は? ブリヂストンの新スタンダードタイヤ「フィネッサ」を試す 2026.4.22 2026年1月に発表されたブリヂストンの「FINESSA(フィネッサ)」は、次世代の商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を搭載する最新のスタンダードタイヤだ。ドライ路面での試走報告に続き、今回は自慢のウエット性能をクローズドコースで確かめた。
-
第867回:ハイエースオーナー必見! スマホで操作できる可変ダンパー「KYBアクトライド」を試す 2026.4.22 KYBからスマートフォンのアプリで操作できる可変ダンパーシステム「ActRide(アクトライド)」が登場。まずは「トヨタ・ハイエース/レジアスエース」用からの展開となるこのシステムの仕上がりを、実際に試乗して確かめた。
-
NEW
新生アルピナは成功するか? その将来とBMWとの関係について考える
2026.6.1デイリーコラム具体的なデザインスタディーも公開され、いよいよ市場展開が見えてきた新生アルピナ。将来的な成功の“確度”やいかに? BMWによる新たなアルピナ像について、両ブランドに詳しい西川 淳が詳しく解説する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】
2026.6.1試乗記「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。 -
日産リーフB7 G(前編)
2026.5.31思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産リーフ」に試乗。初代のデビューから15年余りを経て生まれた3代目はスタイリングも中身も刷新。苦境にある日産を立て直す重責を担っている。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2026.5.30試乗記新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。 -
つまずきを糧に成功をつかみ取れ! 新型「CX-5」に宿るマツダの変革と覚悟
2026.5.29デイリーコラム既存のマツダ車とは一線を画す乗り味で、メディアをおどろかせた新型「マツダCX-5」。マツダの最量販車種は、なぜ3代目で大転換を迫られたのか? 賛否両論を巻き起こした“あのクルマ”との関係は? 新しくなったCX-5に宿る、マツダの覚悟と変革に迫る。 -
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】
2026.5.29試乗記キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。