フォルクスワーゲン・ティグアン スポーツ&スタイル(4WD/7AT)【試乗記】
SUV版“GTI” 2011.12.11 試乗記 フォルクスワーゲン・ティグアン スポーツ&スタイル(4WD/7AT)……389万円
デビューから3年目のマイナーチェンジで、外観やパワートレインが刷新された「フォルクスワーゲン・ティグアン」。スタイリッシュな都会派「スポーツ&スタイル」で、その走りを試した。
少数派のフォルクスワーゲン
水平基調の新しい「VW」グリルに変わったのが最新の「ティグアン」である。ひと足先に「トゥアレグ」もこの顔になったが、幅が広すぎて、水平ラインが間延びしすぎのように感じる。その点、ティグアンはちょうどいい。
新型では、よりオフロード仕立ての「トラック&フィールド」が落とされて、「スポーツ&スタイル」のみになった。2012年春、これに「Rライン」が加わると新ラインナップが完成する。
エンジンはこれまでどおりの2リッター4気筒ターボだが、10・15モード燃費(11.6km/リッター)を落とさずに出力を170psから179psに上げた。さらに変速機を6段ATから湿式の7段DSGに換装したのが新しいスポーツ&スタイルである。いまや「パサート」が1.4リッターのTSIで走るのだから、ティグアンもダウンサイジングできそうだが、本国にはある1.4リッターだとMTしか品ぞろえがない。かくして、いまやごく少数派の2リッター4気筒フォルクスワーゲンである。
パサート初出のドライバー疲労検知システムが装備されたのも新しい。最短10分前からステアリング入力でそのドライバーの運転操作をデータ化し、疲労や眠気で生じる特有の挙動を検知すると、警告音や計器盤内のサインで休憩を促すというもの。個人的に高速道路で居眠り運転しそうになることがたまにあるので、ぜひこのシステムの恩恵に浴してみたいと思うのだが、今回もあいにく運転中に眠くなることはなく、コーヒーカップの警告サインを見ることもなかった。
ちょうどいい四駆SUV
ティグアンは、国産、輸入車を問わず、最もファン・トゥ・ドライブなコンパクトSUVだと思う。ソリッド感のある足まわりは、ワインディングロードで大入力を与えると、しなやかさを増し、四駆SUVにあるまじき(?)軽快さをみせる。アイポイント(視点)の高さとファン・トゥ・ドライブは、単純に反比例の関係にあると信じているが、ロードクリアランスをゴルフと35mm差に抑えたほどほどさが効いている。ショーン・レノンじゃないが、「ちょうどいい四駆SUV」なのだ。
活発に走らせると楽しいのは、エンジンによるところも大きい。旧型との9ps差は体感できなかったが、最初のひと踏みでグワっとスピードに乗せる力強さは、1.4リッター・ツインチャージャーによく似ている。それに加えて、トップエンドまで続く素直な伸びの気持ちよさに、やはり2リッターの余裕を感じる。トリセツにひっそり書かれたデータを見てびっくりした。最高速は213km/hも出るのだ。「ゴルフ」ベースのSUVというよりも、「ゴルフGTI」のSUVである。
今回、計測はできなかったが、もともと車重のわりによかった燃費はさらに向上しているはずだ。7段DSGのおかげで100km/h時のエンジン回転数は大台をきる1900rpmに下がった。試乗メモを調べると、6段AT時代は2750rpmだった。5速に落とした7段DSGと同じである。燃費でも音でも、高速道路を使う長距離ウィークエンダーには特に恩恵が大きいだろう。
オンロード志向を強めた
トラック&フィールドがカタログ落ちしたのは、日本での現実のマーケティング(売れ行き)の結果だろうが、スポーツ&スタイルにもあった “OFF ROAD”ボタンが消えたのは残念である。雪道や泥濘(でいねい)路の坂道でスロットルを自動調整してハンドル操作に集中させてくれるヒルディセント・アシストもなくなった。ボタンを押すと、この半自動坂下り装置がオンになるだけでなく、スロットルや変速や電子デフロックのマップも変わる。オフで使う機能を定食のようにひとそろえにした便利な装備だったのだ。これにより、オフロード四駆としての能力は少し後退してしまった。でも、こういうカタチをしていて、実は2WDというクルマも増えてきたから、「4MOTION」が付いているだけでよしとすべきか。
ティグアンの真価を再認識したのは、早朝の山手通りを走ったときだった。もともとアップダウンのある地形に加えて、地下工事の影響で長い区間にわたって舗装がガタガタだ。工事現場の遮蔽(しゃへい)板の陰からはドライブシミュレーターみたいにクルマやバイクが飛び出してこようとする。そんな難所でも、ティグアンなら自信をもって飛ばせる。「東京砂漠」と歌ったのは前川清だが、東京もけっこうオフロードなのだ。狭い道ですれ違うとき、気軽に片輪を歩道に乗り上げて待てる、なんていうのもゴルフGTIにはできない芸当である。
価格は389万円。「BMW X1」の四駆は「424万円より」。2リッターの「アウディQ5」は574万円もする。価格競争力の高さはあいかわらずだ。
(文=下野康史/写真=荒川正幸)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.20 「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
NEW
開幕まで1週間! ジャパンモビリティショー2025の歩き方
2025.10.22デイリーコラム「ジャパンモビリティショー2025」の開幕が間近に迫っている。広大な会場にたくさんの展示物が並んでいるため、「見逃しがあったら……」と、今から夜も眠れない日々をお過ごしの方もおられるに違いない。ずばりショーの見どころをお伝えしよう。 -
NEW
レクサスLM500h“エグゼクティブ”(4WD/6AT)【試乗記】
2025.10.22試乗記レクサスの高級ミニバン「LM」が2代目への代替わりから2年を待たずしてマイナーチェンジを敢行。メニューの数自体は控えめながら、その乗り味には着実な進化の跡が感じられる。4人乗り仕様“エグゼクティブ”の仕上がりを報告する。 -
NEW
第88回:「ホンダ・プレリュード」を再考する(前編) ―スペシャリティークーペのホントの価値ってなんだ?―
2025.10.22カーデザイン曼荼羅いよいよ販売が開始されたホンダのスペシャリティークーペ「プレリュード」。コンセプトモデルの頃から反転したようにも思える世間の評価の理由とは? クルマ好きはスペシャリティークーペになにを求めているのか? カーデザインの専門家と考えた。 -
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。