アウディA3スポーツバック e-tron(FF/6AT)/A3スポーツバック g-tron(FF/7AT)
インゴルシュタットからの提案 2014.08.05 試乗記 アウディの次世代環境技術が生んだプラグインハイブリッド車の「A3スポーツバック e-tron」と、バイフューエル車の「A3スポーツバック g-tron」。その実力を、クルマづくりだけにとどまらない同社のエネルギー戦略とともに紹介する。電気だけ、EVだけが答えにあらず
ことヨーロッパ、特にドイツのメーカーはハイパフォーマンスカーや大型SUVの販売台数が多いぶん、販売全量におけるCO2平均排出量の削減が喫緊の課題となっている。規定値を超えた場合に課せられる予定の多大なペナルティーは、明らかに経営を圧迫することになるだろう。去年~今年にかけてEV(電気自動車)のプロモーションが盛んなのは、そのための布石ともいえる。
が、EVがCO2カットの抜本的な解決策になるかといえば、そうとはいえないのもご存じの通りだ。何を由来に電気を作り、作ったものの使わない電気をいかに扱うのか。それによって効率は大きく変わる。もちろん太陽光や風力などの再生可能電気エネルギーを主軸に置く図式は美しいが、天候による生産量のバラツキという発電の課題は、余剰時の貯めが利かないという電気の特徴とはあまりに親和性がよろしくない。
縛りのある電気を最高の効率で使うためのベストソリューションはなにか。そして最終的にゼロエミッションが達成できれば、駆動エネルギーはなにも電気である必要はないのではないか。アウディが今回みせてくれた2台の「A3」には、そんな問答が込められていた。
欧州のハイブリッドもここまできたか
プラグインハイブリッドシステムを採用した「A3 e-tron」は、日本でも来春の導入が予定されているモデルだ。150psの1.4リッターTFSIエンジンに75kW(102ps)のモーターを組み合わせ、6段Sトロニックを介して前軸へと出力する。7段が採用されなかったのはスペース上の都合というよりも、350Nm(35.7kgm)に達する最大トルクとの兼ね合いとみるべきだろう。ちなみにシステム合計での最高出力は204ps、これにより最高速度は222km/h、0-100km/h加速は7.6秒を記録するというから、動力性能的には十分にホットハッチの範疇(はんちゅう)だ。一方で、EVモードでは130km/hの最高速を可能としながら、欧州基準にて最大50kmの航続距離を実現しているという。もちろんパナソニックが供給する8.8kWhのリチウムイオンバッテリーが置かれるスペースはMQBモジュールのパッケージングに完全に織り込まれていて、室内空間はほとんど割を食うことはない。
既に縦置きプラットフォームではハイブリッドの経験を積んでいるアウディだが、A3 e-tronの走りはそれらのいずれと比べても洗練されている。エンジンの稼働はドライブモードやバッテリー残量にも依存するが、非常に静か、かつ滑らかで、モーターの助けを借りる高負荷時でも2つの動力源は違和感なくミクスチャーされているようだ。また、EV走行時はパドルシフトをうまく使いこなすことで、回生ブレーキの利きを段階的にコントロールできるようになっている。積極的に回生を拾うエコドライブの手助けにもなってくれるというわけだ。その回生ブレーキと油圧ブレーキの協調も見事で、トヨタのTHSに慣れた身からみても、ここまで来たかという思いを抱かせる。
EV走行での航続距離はさすがに額面どおりとはいわずとも、エアコン常時オンで全開も繰り返すテストドライブでも30km余りの距離を走るに無理はなかった。すなわち、そのほとんどが1日20km余りといわれる日本の自家用車の走行距離を余裕でカバーするということだ。日本の200V電源でも3時間前後での満充電が可能とあらば、その大半はEVとして稼働させることも現実的かもしれない。
CO2を使って燃料を生成する
太陽光や風力といった自然の力で作り出した電気をいかにストレージするか。その方法はなにも蓄電である必要はなく、別物に置き換えればいいだろう――という発想のもと、化学式を巧みにコンバートして天然ガスに相当する燃料を生み出す。それをアウディは「e-gas」と呼んでいるわけだが、そのプラントは既にドイツ北部、ニーダーザクセン州のヴェルルテという都市で昨年より稼働を始めている。
このプラントでは自然発電によって得られた電力で水を酸素と水素に分解し、得られた水素をメタンユニット内で二酸化炭素と掛け合わせることで合成メタンガスを生成するというものだ。肝心なのはユニット内のメタンは堆肥などの廃棄物、二酸化炭素は生活環境内で排出されるもの……と、いずれも環境に悪影響とされるものを用いているところで、もちろんメタンに関しては大気放出を防ぐべく厳重に管理されている。
これによって得られる合成メタンガスの化学式はCH4と天然ガスと変わりなく、実際、e-gasも既存の天然ガス供給ネットワークを用いた供給体制を敷いているという。
もちろんストレージという観点からみれば、電気分解によって得られる水素を直接エネルギーとして使用し、貯蔵したほうが変換効率的には優れている。が、現状水素のインフラも水素を用いるクルマも普及のタイミングがうかがえないとあらば、それを削減すべき二酸化炭素と掛けあわせて人工の天然ガスを生成し、燃料として使用・貯蔵した方が結果的に環境によろしいというのがアウディの判断というわけだ。もちろん天然ガスを使用する設備との親和性は担保されているが、彼らはあくまで自動車メーカーとしてその動力源にe-gasを使用するというスタンスを採っており、現在のプラントの生産量に関しても、年間1万5000kmを走る天然ガス自動車の1500台相当分を年産できるとアナウンスしている。
クルマそのもののデキがいい
この、e-gasの受け皿としてドイツでこの2月から発売されているのが「A3 g-tron」だ。110psを発生する1.4リッターTFSIユニットを天然ガスとガソリンの両方で稼働させるバイフューエル方式を採っており、トランクスペースの下部に置かれた2つのガスタンクに蓄えられた天然ガスによって、最大400km、ガソリンと合わせれば最大1300kmもの走行が可能だという。一方で動力性能も最高速が190km/h、0-100km/h加速が11秒と、ドイツの日常的なトラフィックでも不満のないところが確保されているのがポイントだ。ちなみにCO2排出量は、e-gasの生成時に消費したCO2を走行時の削減分として勘案すると約30g/kmと、プラグインハイブリッドをも上回る効率になるという。
当然ながらe-gasの供給がない日本では、このモデルの導入は見込めない。が、その現状をちょっと残念に思わせるほど、いちバイフューエルカーとしてA3 g-tronは非常に高い完成度をもっているというのが試乗での率直な印象だった。天然ガスからガソリンへと燃料がスイッチするポイントも違和感はまったくなく、エンジンのフィーリング自体も通常のものと何ら変わることはない。なにより、お尻に大きなタンクを積んでおきながら荷室が若干かさ上げされた程度と、ほとんど車室をいじめていないのもまた、MQBのパッケージ能力の高さを思い知らされる。
さまざまな大人の事情があってか、日本の自動車メーカーはエネルギーそのものの開発に対して消極的かつ受容的だから、環境技術を考えるにしてもe-gas & g-tronのようにドラスティックな発想にはなかなか至らない。そこを責める気になれないが、アウディのようにダイナミックスケールで物事に取り組めるという環境自体が、ちょっとうらやましく思えた。まぁ、何より重要なのはそれを最終的にアウトプットするハードの出来の良さというところもあるわけだが。
(文=渡辺敏史/写真=アウディ・ジャパン)
![]() |
テスト車のデータ
アウディA3スポーツバック e-tron
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4312×1785×1424mm
ホイールベース:2630mm
車重:1540kg(乾燥重量)
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
システム最高出力:204ps(150kW)
システム最大トルク:35.7kgm(350Nm)
エンジン最高出力:150ps(110kW)
エンジン最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1600-3500rpm
モーター最高出力:102ps(75kW)
モーター最大トルク:33.7kgm(330Nm)
タイヤ:(前)225/45R17/(後)225/45R17(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:1.5リッター/100km(約66.7km/リッター:ECEスタンダード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
![]() |
アウディA3スポーツバック g-tron
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4310×1785×1424mm
ホイールベース:2636mm
車重:1265kg(乾燥重量)
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:110ps(81kW)
最大トルク:20.4kgm(200Nm)/1500-3700rpm
タイヤ:(前)225/45R17/(後)225/45R17(ダンロップSP SPORT MAXX RT)
燃費:3.5kg/100km(約28.6km/kg:ECEスタンダード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】 2025.10.4 ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.1 「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。
-
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.30 大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。
-
NEW
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】
2025.10.8試乗記量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。 -
NEW
走りも見た目も大きく進化した最新の「ルーテシア」を試す
2025.10.8走りも楽しむならルノーのフルハイブリッドE-TECH<AD>ルノーの人気ハッチバック「ルーテシア」の最新モデルが日本に上陸。もちろん内外装の大胆な変化にも注目だが、評判のハイブリッドパワートレインにも改良の手が入り、走りの質感と燃費の両面で進化を遂げているのだ。箱根の山道でも楽しめる。それがルノーのハイブリッドである。 -
NEW
新型日産リーフB7 X/リーフAUTECH/リーフB7 G用品装着車
2025.10.8画像・写真いよいよ発表された新型「日産リーフ」。そのラインナップより、スタンダードな「B7 X」グレードや、上質でスポーティーな純正カスタマイズモデル「AUTECH」、そして純正アクセサリーを装着した「B7 G」を写真で紹介する。 -
NEW
新型日産リーフB7 G
2025.10.8画像・写真量産BEVのパイオニアこと「日産リーフ」がいよいよフルモデルチェンジ。航続距離702km、150kWの充電出力に対応……と、当代屈指の性能を持つ新型がデビューした。中身も外見もまったく異なる3代目の詳細な姿を、写真で紹介する。 -
NEW
第87回:激論! IAAモビリティー(後編) ―もうアイデアは尽き果てた? カーデザイン界を覆う閉塞感の正体―
2025.10.8カーデザイン曼荼羅ドイツで開催された欧州最大規模の自動車ショー「IAAモビリティー2025」。クルマの未来を指し示す祭典のはずなのに、どのクルマも「……なんか見たことある」と感じてしまうのはなぜか? 各車のデザインに漠然と覚えた閉塞(へいそく)感の正体を、有識者とともに考えた。 -
NEW
ハンドメイドでコツコツと 「Gクラス」はかくしてつくられる
2025.10.8デイリーコラム「メルセデス・ベンツGクラス」の生産を手がけるマグナ・シュタイヤーの工場を見学。Gクラスといえば、いまだに生産工程の多くが手作業なことで知られるが、それはなぜだろうか。“孤高のオフローダー”には、なにか人の手でしかなしえない特殊な技術が使われているのだろうか。