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第253回:「911」vs「ケイマン」論争の行方は?
ポルシェの“スポーツカーを体験する試乗会”に参加して

2014.08.12 エディターから一言 大谷 達也
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テストコースのバンクを行く「ボクスター」と「ケイマン」。
テストコースのバンクを行く「ボクスター」と「ケイマン」。
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ポルシェの2ドアスポーツカーばかりを集めて“スポーツカー体験”を堪能する試乗会がドイツで開かれるという。「ポルシェ」の「2ドア」で「スポーツカー体験」って一体……? 頭の中にたくさんの疑問符を浮かべながら、筆者は「911」や「ケイマン」、「ボクスター」などが待つデュッセルドルフ近くのテストコースに向かったのであった。

 

一堂に会する「911」シリーズ。
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第253回:「911」vs「ケイマン」論争の行方は?ポルシェの“スポーツカーを体験する試乗会”に参加しての画像 拡大

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いよいよ“論争”に終止符が打てるかも

「911とケイマン、買うんだったらどちらがいい?」
ひと世代前だったら、こんなことで決して悩みはしなかっただろう。クオリティー感でもスタビリティーでも911が絶対に上。ケイマンは軽快感が強いものの、洗練度では911に一歩譲る。これが大方の“911vsケイマン比較”の結論だったのではないか。

ところが、2代目ケイマンが登場したことで、こうした情勢は大きく変化した。新型ケイマンはクオリティー感が大幅にアップ。NVHとひとまとめにされることの多いノイズ、振動、そしてハーシュネスのレベルも一気に改善され、ちょっと乗った程度では911との差はほとんどわからない水準に達した。シャシー面でもスタビリティーやロードホールディング性が大幅に改良されて、いかにもポルシェらしい味わいになっている。

かくいう私も国内試乗会で新型ケイマンと911を乗り比べたことがあるが、このときは911(タイプ991)のなんともいえない上質感と安心感に感心させられたものの、それがどのような特性によって生み出されたものなのか、言葉にして説明することができなかった。言い換えれば、ケイマンと911の性能はそのくらい拮抗(きっこう)していたのである。

ところが、今回、願ってもないチャンスが転がり込んできた。ポルシェの2ドアモデル、つまり911、ケイマン、ボクスターをテストコースで存分に走らせるという試乗会に招かれたのだ。「ひょっとすると、これで自分のなかの“911vsケイマン論争”にも終止符を打てるかもしれない」。そんな期待を胸に抱き、私はデュッセルドルフ行きの飛行機に乗った。

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ポルシェは4ドアメーカー?

飛行機がドイツに到着するまでに、ポルシェが911、ケイマン、ボクスターに的を絞った試乗会を催すことになった背景について簡単に説明しておこう。

われわれ日本のエンスージアストは、ポルシェがスポーツカーメーカーであると信じて疑わない。こんなことをあらためていうと、「オマエ、頭がどうかしているんじゃないか?」といわれそうなくらい、日本ではごく当たり前の話だ。

けれども、グローバルなポルシェの立ち位置を眺めてみると、もう少し違った側面が見えてくる。仮にポルシェの全販売台数を、2ドアモデル系(911、ボクスター、ケイマン)と4ドアモデル系(「カイエン」「パナメーラ」)のふたつに分けてそれぞれの比率を計算すると、前者が35%、そして後者が65%となる。つまり、世界中で販売されているポルシェの3台に2台は4ドアモデル系なのだ。

このため、例えば中国など“ポルシェ歴”があまり長くないマーケットでは「初めて購入したポルシェがカイエン(もしくはパナメーラ)」という顧客の数が急増しているらしい。そんな彼らにとって「ポルシェはスポーツカーメーカー」というイメージは、われわれに比べてはるかに希薄なはず。ちなみに、日本はポルシェにとって「伝統ある市場」で、いまなお2ドアモデル系の比率が50%を超えているそうだ。

とはいえ、ミドルクラスSUVの新型「マカン」が日本市場に導入されて好評を博せば、このバランスがいつ崩れたとしてもおかしくない。そうなる前に、ポルシェ=スポーツカーメーカーという位置づけをあらためて世に知らしめておこう。そんな思いから、今回の試乗会は企画されたのである。

「ポルシェ・カイエン」
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「ポルシェ・パナメーラ」
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「ポルシェ・マカン」
「ポルシェ・マカン」
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ハンドリングを心ゆくまで堪能

われわれが訪れたのはデュッセルドルフにほど近い「アルデンホーフェン・テスティング・センター」と呼ばれるテストコース。いってみれば、日本の日本自動車研究所(通称:JARI)と同じ機能をぐっとコンパクトにまとめたような施設で、2014年4月にオープンしたばかりだという。

ここのオーバルコース、ハンドリングコース、スキッドパッドなどを用いて、ポルシェ2ドアモデルの優れた運動性能を心ゆくまで味わってもらおうというのが、今回の試乗会のテーマである。ちなみに、私は「911カレラS」「ケイマンGTS」「911 GT3」という3モデルのステアリングを握った。

ところが、当日は日本のゲリラ豪雨を思わせるような大雨。おかげで路面はどこもツルツルだったが、だからこそ、3モデルのキャラクターがはっきりとわかって面白かったともいえる。

例えば911カレラSはフロントグリップのレベルがあまりに高くて驚かされた。滑りやすいウエットの路面でステアリングを切り込んでいけば簡単にアンダーステアになりそうなのに、切れば切った分だけどんどんノーズが内側に入り込んでいく。おかげで、大してスロットルを踏んでいなくても最後はリアが負けてリバースステアに転じるということが何度も起きた。そのくらいフロントが強いのだ。

これとは正反対な傾向を示したのがケイマンGTS。ステアリングを切り込んでいくとあるところでフロントのグリップが失われ、明確なアンダーステアを示すのである。これはあくまでも私の想像だが、ミドシップでフロントグリップを極端に高くすると、限界付近で神経質な挙動を示す恐れがあることから、このような味付けが施されたのではないだろうか? もっとも、私はこれが欠点であるとは思わない。なぜなら、ケイマンはこのおかげでブレーキング時の安定性が高く、またハンドリングコースではビギナーにも不安なく操れる操縦性を実現していたのだから。

「ポルシェ911」
「ポルシェ911」
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「ポルシェ・ケイマン」


    「ポルシェ・ケイマン」
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「ポルシェ・ケイマン」
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ポルシェは深い

圧巻だったのは911 GT3。最初にスタンディングスタートを試みた瞬間からそのボディーの軽さに圧倒され、また高回転型エンジンの醍醐味(だいごみ)に心酔してしまったが、何より素晴らしかったのは、この軽量ボディーとサスペンションセッティング、それにミシュラン・パイロット スポーツ カップ2がもたらすウエット路面での抜群のコントロール性だった。

基本的なステアリング傾向は前述した911カレラSと同様、フロントの強さが目立つセッティングで、ハンドリングコースでは軽く操舵(そうだ)した状態でスロットルを戻すだけでもリアが流れ始めるテールハッピーぶりを披露したが、感動的なのは“その先”。とにかく4輪が滑っている状態でもステアリングやスロットルで軌跡を自在にコントロールできるのだ。

この楽しさを一度覚えたらやみつきになること請け合い。私自身、自分でもわかるほど満面の笑みを浮かべながら、何度も何度も滑りやすいハンドリングコースにチャレンジしてしまったといえば、その痛快さがわかっていただけるだろう。

もっとも、こうした傾向は一般の交通が遮断されたテストコースだからこそ体験できたことで、公道で同じようなことを試すのはお勧めできない。とはいえ、極限的な状況で911とボクスター/ケイマンにこのような違いがあることを理解しておくと、どちらを購入するかで悩んだときの一助になってくれるはずだ。

で、私の“911vsケイマン論争”に結論は出たのだろうか? ご想像のとおり、走らせて楽しかったのは911 GT3だが、到底私には手が出ない。いっぽう、あらためてそのコストパフォーマンスの高さに感心させられたのがケイマン。とはいえ、911カレラSのあのフロントの強さも魅力的。というわけで、今回の試乗会に参加しても、残念ながら私の悩みは深まるばかりだった。

(文=大谷達也<Little Wing>/写真=ポルシェ)

「ポルシェ911 GT3」
「ポルシェ911 GT3」
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「ポルシェ911 GT3」
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「ケイマン」と「911 GT3」。
「ケイマン」と「911 GT3」。
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大谷 達也

大谷 達也

自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。

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