第256回:ボルボ新時代の幕開け
新型「XC90」のワールドプレミアイベントに参加して
2014.09.17
エディターから一言
ボルボの新時代の到来を告げる新型「XC90」が去る8月の終わり、本国スウェーデンで発表された。内外装のデザインに新しい方針が示されたばかりか、自社開発の新しい車体骨格が採用され、さらにはプラグインハイブリッド車もラインナップするなど、その内容は極めて意欲的なものとなっている。盛大に催されたワールドプレミアイベントをリポートする。
新しい“モジュラーアーキテクチャー”を採用
スウェーデンの首都ストックホルムの中心地からバスに揺られて小1時間ほどの絶景を誇るロケーションの郊外に、アートホール「アーティペラーグ」がある。夏の終わりの8月26日にここへと出向いたのは、ボルボが主催する新型XC90のワールドプレミアイベントに参加するためだった。
ボルボにとってこの新しいXC90は、いつものニューモデルよりもさらに重要な存在といっていいだろう。理由は大きくふたつ。まずひとつ目は、ボルボがかねてから開発していた「スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)」を採用した第1弾モデルだということ。そしてもうひとつは、デザイン部門のトップに就任したトーマス・インゲンラート氏が初めてゼロから手掛けたモデルだからである。
軽く補足しておくと、まずSPAはボルボにとって実に久々の、完全自社設計の車体の基本骨格となる。現行モデルのそれはフォード傘下の時代に基礎がつくられたものだが、将来を見据えた時には当然、新しい車体が必要。そこでボルボは幅広い車両タイプやデザインに対応でき、軽量で剛性の高いモジュラーシステムをまっさらな状態から構築することとしたわけだ。
実際、ボルボの中型以上のモデルすべては将来的にこのSPAから生み出されることになる。組み合わされるのは、先行してデビューした直列4気筒2リッター過給器付きのDrive-Eパワートレインである。
この新型XC90の場合、SPAの採用で車体は従来より125kgの軽量化を達成。そこに計4種類のガソリンとディーゼル、さらには400psの最高出力を60g/kmの低CO2排出量で実現する“ツインエンジン”と呼ばれるプラグインハイブリッド車と、豊富なパワートレインをそろえる。
そしてトーマス・インゲンラート氏。2012年にフォルクスワーゲングループよりデザイン担当上級副社長として移籍してきた氏は、2013年のフランクフルトショー以降「コンセプト クーペ」「コンセプトXCクーペ」「コンセプト エステート」の3部作を発表して新しいボルボデザインの姿を提示してきた。新型XC90では、いよいよそのエッセンスが市販車に注ぎ込まれることになる。
プロポーションで魅せるデザイン
ついにアンベールされた新型XC90、まず印象的なのはフロントマスクである。コンセプトカー3部作で使われてきた「T」字(これは北欧神話に登場する神・トールのハンマーがモチーフという)がフィーチャーされたヘッドライト、リニューアルされたアイアンマークが輝くフロントグリルによって描き出された表情は、今どきのトレンドである目のつり上がったイカツい顔じゃないのがいい。
一方で全体のフォルムは一見するとおとなしい。もっとダイナミックなのを期待していたという人は、きっといるに違いない。何を隠そう筆者自身もそうだったので。
しかし眺めるうちに、じわじわと悪くないなと思えてきたのは本当である。その理由については、デザインマネジャーのアンダース・グンナーソン氏が話をしてくれた。「SPAのおかげで実現できたのが長いホイールベース、そして短いフロントオーバーハング、ロングボンネットです。スタンスもワイドでタイヤが車体の四隅に配されています。ボルボにとって重要なショルダーのラインがリアまで一気に通されていますが、ウエッジシェイプにはしていません。ピュアで、不要なデザインを付け足さず、機能的でシンプルなのがスカンジナビアンデザインなんです」
そう、まさにプロポーションの良さこそが新型XC90の確かな存在感につながっている。さらに言えばボディーサイズは全長4950×全幅2008×全高1775mm、ホイールベースは2984mmとかなり大きく、ステージの上ではなく実際の路上で見ると、またそこに相当な迫力が加わることになるのではないだろうか。
余談だが今回のイベントでは、会場に車両全体、デザイン、パワートレインなど各分野を担当する30人ほどのエキスパートが集合しており、時間の許す限りこちらの質問にフランクに答えてくれた。上から目線ではない、そして実直なコミュニケーション。これもスカンジナビア流……かは分からないが、間違いなくボルボらしい気持ちのいいものだった。
インテリアも意欲的に進化
あるいはインパクトでいえばインテリアの方が上かもしれない。目をひくのはインストゥルメントパネル中央に置かれた縦型のタッチスクリーン。横型よりも階層の整理がしやすく、地図も見やすそう。ナビ、オーディオ、車両の各種操作が統合されていて、おかげで機械的なスイッチ類の数が減り、造形は極めてシンプルになっている。右ハンドルで左手で操作する場合のことをあまり考慮していない様子なのが気掛かりだが、それは日本導入までの課題として期待しておきたい。
やはりLCD(液晶ディスプレイ)化されたメーターパネル、ヘッドアップディスプレイは、情報を優先順位などに応じてドライバーに最適に伝達することを可能にしたという。クリアなシフトノブ、ダイヤモンドカットのエンジンスタートスイッチなど細かな部分の装飾も、ちょっとくすぐるポイントだ。
今回はあくまで発表会であり試乗はなし。しかし取りあえずデザインについては、ボルボが新しいフェイズに入ったことを印象づけるに十分なものになっていたのではないかと思う。おそらく、もっとダイナミックな……という期待は、このあとに続くモデルによって具体化されるに違いない。個人的には、コンセプト エステートのような次期「V70」が登場することを期待している。
走りは味わえなかったが、デザイン面だけでもSPAの採用が変革につながっていることが理解できた。デザインだけでもハードウエアだけでもなく、すべてのピースがそろったからこその、ボルボの自信にあふれた新たな船出というわけだ。
正直に言えば、ひと目見ただけでガツーンと衝撃がもたらされたわけではなく、むしろインパクトはほどほど。しかし眺めるにつれて、話を聞くにつれて、じわじわと響いてくる。新型XC90はそんなクルマだったように思う。それこそスカンジナビアの流儀、ボルボらしさという感じ。そう、悪くない。
今後もボルボは、そんな風に確実なステップで変革を進めていくに違いない。それを見届けるのも、新型XC90のステアリングを握るのも、とにかく楽しみ。そんな思いを抱くことのできた今回のイベントだったのである。
(文=島下泰久/写真=ボルボ)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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