第258回:乗り比べで実感!
幅が狭くて大径の低燃費タイヤ「ologic」の実力と課題
2014.09.25
エディターから一言
拡大 |
「大径・幅狭」という新発想により、優れた燃費性能を実現したというブリヂストンの低燃費タイヤ「ologic(オロジック)」。その実力を、標準的なタイヤとの比較試乗を通して確かめた。
拡大 |
|
拡大 |
「大径・幅狭」はここからが本番
常識外れの“大径・幅狭”という特殊なスペックを備えるタイヤが、ブリヂストンからの単独供給で”サスティナブルなアーバン・モビリティー”を自称するBMWの電気自動車(EV)「i3」に装着された……という話題は、今年3月に屋久島で開催された試乗会の記事の最後に、軽く触れさせていただいた。
そもそも、タイヤは大径化するとベルト張力が高くなるため、転がり抵抗が自然と小さくなる方向にあると同時に、幅を狭くすれば前面投影面積が減るので空気抵抗も減少する……といった話題も、そこに記したもの。日本メーカーの作であるにもかかわらずi3の専用品ということから、生産はi3の組み立て拠点に近い、ブリヂストンのポーランド工場が担当。車両のライフサイクル全体での環境負荷低減が目指されたというのも、そこで触れた内容だ。
一方で、そんなi3用タイヤは実は技術的な開発が終了してからはすでに数年の時間が経過したもので、“大径・幅狭コンセプト”を採用するアイテムとしては、より高い性能を目指した次世代モデルの開発が進んでいる……というのは、担当のエンジニア氏から直接耳にはしていたものの、記事中には入れ込まなかった事柄。
というわけで、編集部経由でブリヂストンから「超低燃費タイヤの“体験会”の案内が来た」と聞いた時、「あ、今度のネタはそれなんだナ」と直感した。プログラム中にはi3走行会とも記されていた。が、それは日本でのデリバリーが開始されてからも久しいモデル。よもや“それだけ”で終わるはずはないと読んだのだ。
横から見るとカッコいいけど……
というわけで、栃木県那須塩原市の「ブリヂストン・プルービンググラウンド」へと臨んだ取材陣を待ち受けていたのは、大径・幅狭という新コンセプトによるタイヤ開発担当エンジニア氏らに加え、それを採用するくだんのBMW i3と、ベースグレードが履く16インチ仕様からは一挙に3インチ(!)もの大径化が図られた19インチ・シューズを履いた、「日産リーフ」という2モデルだった。
車両側がそもそも“それ用”に開発されたi3が大径シューズを難なく履きこなすのは当然として、「外径が625mmから680mmへと大きくなるのに、そのまま問題なく履けるのにはわれわれも驚いたんです」とエンジニア氏が語るリーフのルックスは、率直なところ横から見ると素晴らしくカッコいいのに、後ろ姿は妙に細いタイヤで路面に立つ姿が何とも頼りない印象。
ちなみに、プリウスやヴィッツにも装着を試したものの、「付くことは付くんですが、ステアリングが切れなくなって……」とのこと。故意か偶然か、リーフは意外なほどにフロントホイールハウス内のゆとりが大きく設計されているということなのだ。
そんなリーフに今回装着された、i3の後輪用よりも10mm狭い165/60R19というサイズのアイテムこそが、次世代の技術が盛り込まれたというプロトタイプだった。それは、必ずしもリーフをターゲットに開発されたものではないという。が、「超低転がり抵抗が特徴ゆえ、やはり“エコカー”がふさわしい」という点と、前述のように無改造で装着が可能という点が、今回のイベントのテスト車に選ばれた理由であるという。
走りだせばその差は歴然
ところで、i3用のタイヤとリーフに履かされたプロトタイプ・タイヤの相違――その最大のポイントは、まずはそこに設定される内圧にある。i3の場合、指定圧は軽負荷時で前輪/後輪が230/280kPa、高負荷時で250/300kPaと常識の範囲内。ところが、プロトタイプでは全輪で320kPaと、より高い内圧が採用されたのだ。
そもそも大径・幅狭のコンセプトには、さらに目覚しい低転がり化を可能とする“高内圧”というポイントも含まれていたという。ただしi3用タイヤに際しては、初めての技術ということもあり、内圧に関してはあえて以前から実績のあるスペックを採用したという経緯があるのだという。
かくして、本来意図されていたコンセプトをフル搭載したプロトタイプ・タイヤを装着したものと、205/55R16サイズの標準タイヤを履いた2台のリーフの走りの差は、なるほどスタートの瞬間から歴然だった。何しろ、“蹴り出し”の印象がプロトタイプの方がはるかに軽快なのだ。タイムを測定したわけではないが、速度の伸びがずっと速いのは明白だ。
ゼロ発進の瞬間から太いトルクを発するのが電気モーターの特性だが、それでもリーフの場合はホイールスピンを起こすほどではない。すなわち、前述した印象の違いはスタート時のトラクション能力の差というよりは、明らかに「走り始めた直後から、走行抵抗が猛烈に小さい」という特徴によるものだ。
冷静に考えれば先に述べたようにタイヤ径の違いで駆動レシオはハイギアード化されている計算だから、むしろ加速力は低下方向に行ってもおかしくない理屈。けれども実際には、かくも「誰もがすぐに分かるレベル」で加速力が向上している点で、まずはこの新コンセプトのすごさを教えられることになった。
偶然の雨でウエット性能の高さを実感
イベントのプログラム中には、ハンドリング路を用いたチェック走行の時間帯も設けられた。本来ここではドライ路面のチェックのみで、散水路面でのハンドリングチェックは“同乗体験”とされていたもの。ところが、ちょうどテストというタイミングで激しい雷雨が発生。プルービンググラウンド自慢の“ドライハンドリング路”には、たちまちあちこちに深い水たまりができる状況となった。
実はこれは願ってもいないチャンスだった。
なぜならば、あえて水たまりへと飛び込むことで、“幅狭”がもたらす耐ハイドロプレーニング性能の高さを身をもって体験することができたし、そうした特性ゆえ溝面積を減らすことが可能になったという専用パターン+縦長接地形状がもたらす「ノーマルタイヤにヒケを取らない、見た目の印象以上の高グリップ感」も、なるほど十分に実感ができたからだ。
ちなみに、今回プロトタイプを装着したリーフは、タイヤ以外は全くのノーマル状態。「タイヤの縦ばね特性が2割ほど上がるので、本来であればサスペンションにもそれに合わせた設定が必要」というが、路面凹凸を拾っての振動のピークはやや高まるものの、素早くダンピングが行われるので、不快感はさほど強くはなっていなかった。
それでも、「幅狭になったことを生かせばサスペンションの取り付け点をより外側に移動できたり、パワーステアリングの推力を下げることで燃費向上が図れたりする可能性などもあるので、この新コンセプトタイヤは自動車メーカーとの共同開発が不可欠」というのが、エンジニア氏による見解だ。
さらなる進化に必要なもの
一方で、この新コンセプト・タイヤにも、まだ考えられる課題は少なくない。その最大のものはやはり、前述のように自動車メーカーと密接に連携をとっての開発が不可欠であるということ。特に、大径化をしながら前輪切れ角を確保しなければならないという点には、難色を示すメーカーも少なくないと予想がつく。
また、「構造的に特にコストアップとなる要因は存在しない」とはいうものの、限定された車両に向けての“特殊なタイヤ”である限りは、販価がそれなりに高いものになろうことも否定できない。万一破損の際に、販売店に在庫がないといった事態も生じる可能性はありそうだ。
その性能を生かすため、内圧の管理が通常タイヤよりも厳しい方向に向かうことも考えられる。実際、「“高内圧仕様”の場合、TPMS(空気圧モニター)の装着は必須の要件と考える」とされる。もっとも現在、TPMSは世界的に装着義務化が進むアイテム。この新タイヤが新車装着を前提に考えられているものであることを思えば、この点のハードルは意外に高くないのかもしれない。
ところで、今回採り上げた新タイヤが、実はかつてのF1タイヤの開発メンバーをコアに生み出されたというのも、なかなか興味深い話題だ。2007年シーズンからF1タイヤがワンメイク化され、ミシュランとの激しい開発競争に終止符が打たれた際、「これまで培った発熱を抑える技術などを用いて、何か画期的なエコタイヤができないか?」と発想の転換を図ってスタートしたのが、この大径・幅狭コンセプトであったというのだ。
ちなみに、この新タイヤ技術に与えられた「オロジック」という愛称は、「エコを力学的に科学した」という“ECO”+“LOGIC”を元とした造語。「ologic」というPR上の表記は「小文字の『o』が車輪を示し、そこに挟まれた小文字の『l』が背の高さを連想させる」という思いも込められたものでもあるという。
ミシュランと共に、名実共に“世界のタイヤ2強”と認められるブリヂストン。ここに紹介した新コンセプトタイヤは、まさにその「強さ」をまざまざと示した一品であるはずだ。
(文=河村康彦/写真=webCG)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
第876回:“ヨコハマ史上最高”が目白押し SUV向けスタッドレスタイヤの新製品「アイスガード8 SUV」を試す 2026.10.2 2026年9月1日に販売が開始された横浜ゴムのSUV用スタッドレスタイヤ「アイスガード8 SUV」。従来製品との比較で氷上性能を14%、雪上性能を4%、耐摩耗性能を11%アップさせたというその実力を、一足先に冬のテストコースで確かめた。
-
第875回:キモは氷上性能! ダンロップの新しいスタッドレスタイヤ「ウインターマックス アイスプロ」を試す 2026.7.1 違いは氷の上で表れる! ダンロップの新しいスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX ICE-Pro(ウインターマックス アイスプロ)」に、冬の北海道で試乗。氷上性能を徹底的に追求したという新製品の、パフォーマンスの一端に触れた。
-
第874回:自動運転からワイパーまで! 自動車を支えるメガサプライヤー ボッシュのあくなき挑戦 2026.6.27 世界屈指のメガサプライヤー、ボッシュが開発中の新技術を披露! 市街地での高度な運転支援技術に、日本の方言にも対応した対話型AI、サーキット走行のノウハウを教えてくれるコーチング機能等々……興味深いその中身をリポートする。
-
第873回:ウエット路面に強み ミシュランの新タイヤ「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」を試す 2026.6.19 2026年1月29日に導入が発表されたミシュランの新製品「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」。これまでの特徴に加え、低燃費性能や耐摩耗性、ウエットグリップ性能のアップをうたう両モデルの走りを、クローズドコースで確かめた。
-
第872回:「フォレスター」がJNCAPで最高評価を獲得! “安全”に対するスバルの不断の取り組みに迫る 2026.6.6 相対速度100km/hの衝突後でも、普通にドアが開く!? 人気のSUV「スバル・フォレスター」が、日本の自動車アセスメントで最高評価を獲得した。安全なクルマづくりを第一とするスバルの取り組みを、群馬製作所で行われた衝突試験デモの様子とともにリポートする。
-
NEW
トヨタ・ランドクルーザー“300”GRスポーツ(4WD/10AT)【試乗記】
2026.10.19試乗記トヨタの「ランドクルーザー“300”」にハイブリッドパワートレイン搭載モデルが登場。環境負荷低減のために牙を抜かれた……どころか、電気の力を味方に、さらに力強さを増しているから面白い。愛知県のオフロードコースで乗った印象をリポートする。 -
NEW
フェラーリが「日本上陸60周年」 記念祭から“ブランドの今とこれから”を読む
2026.10.19デイリーコラム「日本上陸60周年」を祝うファン感謝イベントを開催したフェラーリ。自動車界に燦然と輝くハイブランドは、いま何を目指しどこに行こうとしているのか? 経営トップの談話を交えながら推察してみよう。 -
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。