第261回:「Sクラス セダン」に情熱をプラス
「メルセデス・ベンツSクラス クーペ」のチーフデザイナーに聞く
2014.10.24
エディターから一言
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「モダンラグジュアリー&インテリジェンス」をコンセプトに掲げる、メルセデスの新しいフラッグシップ「Sクラス クーペ」。その優雅で瀟洒(しょうしゃ)なスタイリングに込められた作り手の思いとは? チーフデザイナーのロバート・レズニック氏に聞いた。
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ピュアなカタチ、完璧なバランス
――メルセデス・ベンツには、30を超える車種がラインナップされます。それぞれの個性はどのように打ち出していますか?
レズニック:2年前からメルセデス・ベンツの新しいデザインが始まりました。進歩的な「Aクラス」や「CLAクラス」。伝統的な「Eクラス」「Cクラス」そして「Sクラス」。それぞれ独自のポートフォリオを持っています。
Sクラス クーペは、伝統的ではあるけれど、セダンほど保守的ではありません。例えばリアビュー。セダンのナンバープレートはバンパー上部の真ん中にあります。一方、Sクラス クーペは、バンパーの下にナンバープレートが配されます。
――Sクラス クーペは、モデルライフの長いクルマです。デザインで注意したことは?
レズニック:プロポーションが大事です。全長5mを超えるクーペはなかなかありません。ピュアなカタチにするよう意識し、完璧なバランスを求めました。Sクラス クーペのキャビンは、ボディーの後方に置かれます。FRならではのプロポーションです。
カーデザイナーは最高の仕事
――どうしてカーデザイナーになったのですか?
レズニック:もちろん、世界で一番いい仕事だからです! 子供の頃から、いつもスケッチをしていました。風景や人物ではなく、テクニカルなものを。オートバイをスケッチして、違うエキゾーストパイプを描いてみたり……。ただ、スケッチの練習はできますが、才能は身につけられません。
飛行機のデザインも興味深いですが、クルマほどデザインの自由度はありません。モーターボートもそうです。クルマは6年ごとに新車が発表され、常に新しいことにチャレンジできます。何かを作る機会が与えられます。だから、世界で最高の仕事なのです。
――最近のメルセデスの、尻下がりのデザインは、あなたのボスの意向ですか? それともマーケティングの結果ですか?
レズニック:クルマのデザインに“偶然”というものはないのです。4年かかって、1台のクルマをデザインします。最初は20人のデザイナーがいて、競作します。何百ものデザインから、10台のクオータースケールのモデルをつくります。そのなかから4つが選ばれ、実物大のモデルが作られます。もちろん、ひとりひとりの個性が反映されています。
――ハイデッキ(トランク上面が高い)スタイルを採用したモデルもありましたか?
レズニック:そういう方向性もありました。ただ、エアロダイナミクスを考えると、リアのショルダーラインが低いほうがいい。「CLSクラス」にSクラス、そしてCクラスと、どれも低い位置にあります。CLAクラスもそうです。
ただ、空気力学だけを追究していくと、カッコ悪くなってしまうのです。
――市販車のエアロダイナミクスは、新しい段階に入っているのですか?
レズニック:2004年にCLSを開発したときに、大変低いショルダーを採用しました。そして風洞実験をしてみたら、ラッキーなことに、エアロダイナミクスが非常にいいという結果が出たのです。
スーパーコンピューターの発達が大きいと思います。従来の手法では、CLSの良好な結果を説明できなかったでしょうから。ボディーに沿ってながれる空気が、いわばエアカーテンになって、抵抗になる空気を跳ね飛ばしていたのです。
革新的なクルマが生まれる土壌がある
――実用性とスタイルの妥協で苦労したことは?
レズニック:アドバンストデザインの部門と違って、われわれは市場に出すクルマをデザインしています。エンジニアたちとコストの話もします。最近では、歩行者保護も意識しないといけない。
毎日が戦いです。エンジニアたちとは、「これくらい高くしないと」「でもカッコ悪いじゃない」「そうしないと機能しない」「クーペなのだから、カッコよくしないと買ってもらえない」といった具合です。
私は他の自動車メーカーでの経験もあります。その経験を踏まえて言うのですが、メルセデス・ベンツのいいところは、機能とデザインの間で矛盾が生じた場合に、エンジニアがキチンと解決しようとしてくれることです。「どうすればデザインを実現できるのか」と考えてくれる。革新的なクルマが生み出される由縁です。
――Sクラス クーペのDNAは、何だと考えていますか?
レズニック:プロポーションのよさ。速く、長距離の運転ができるグランツーリスモ性。お金で買える全ての最新技術が投入されている。究極のラグジュアリー……。
Sクラスは特別なクルマです。そしてSクラスを情熱的なカタチにしたのが、Sクラス クーペです。
Sクラス クーペには、Bピラーがありません。運転しているときに窓を下ろすと、オープンカーのような開放感を得られます。
万が一の場合を考えて必要な強度を持たせるのに、コストがかかる。工学的にも難しい。でも、メルセデス・ベンツのクーペには、それが期待されているのです。
他のメーカーにはできない。追加のお金を払ってでも乗りたい。そう思わせるのが、メルセデス・ベンツSクラス クーペなのです。
(文=青木禎之<Office Henschel>/写真=webCG)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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