レクサスRC F(FR/8AT)/RC350“Fスポーツ”(FR/8AT)
いままでと違うレクサス 2014.11.17 試乗記 477psのV8エンジンを搭載する、レクサスの新型ハイパフォーマンスクーペ「RC F」に試乗。V6エンジンのスポーティーモデル「RC350“Fスポーツ”」とあわせて、その“走りっぷり”を報告する。スーパーカーならではの快感
ドキドキした。豊田章男流に言えば、「ワクワクドキドキ」があった。そのことをもって、私は「レクサスRC F」を絶賛したい。これはサムライである。映画『七人の侍』で、宮口精二が演じた剣の達人、久蔵を思わせるほどに。木村 功演じる前髪をまだ落としていない若者、勝四郎は久蔵にこう語りかける。
「あなたは素晴らしい人です。私は前からそれが言いたかったのです」
私はもうのっけから言っちゃうのです。
RC Fの真価はもちろんハイスピードにある。私はそのとき、大黒ふ頭パーキングでUターンして、首都高速をみなとみらい出口方面へと向かっていた。緩やかな右コーナーで前が空いた。チャンスとばかり、アクセルを踏み込むと、5リッターV8は初めて4000rpmを超えた。そこを境に低音からのびやかなバリトンに声音が変わった。加速、加速、加速! 離陸しそうなほどに! 出口が近づく。減速。直角に曲がるコーナー手前でマニュアルモードに設定した8段オートマチックの、マイナスのパドルを左手で2度手前に引く。ブリッピング! ギアが2段落ちる。静寂。
胸の中で広がっていたイヤな感じが、スーッと消えいく。かわりに爽快な風が吹き込む。イヤな感じ、というのは、フェラーリとかランボルギーニとかのスーパーカーを運転しはじめた直後に、胸中、あるいは腹中に生じる黒雲のような、モヤモヤのことである。
あれは私だけなのだろうか。たぶん、私は不安なのだ。私のウデで御せるのか、ホイールやフェンダーを擦ったりはせぬか……。つまるところ、日常から外れることを強要する、スーパーカーの圧倒的な性能に押しつぶされそうになるわけである。小心者ゆえ。その意味で、レクサスRC Fは間違いなくスーパーカーであった。そうした圧力に耐え、床まで踏み込んだときの解放感で、私の心臓はしばしワクドキした。超高性能車に乗る快感がそこにはあった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
なぜか“ガイシャ”と思わせる
自然吸気のV8は、7100rpmという高回転で最高出力477psを発生する。開発陣はレスポンスにこだわった。ライバルはダウンサイジングの過給に走り始めている。RC Fは時代にあらがった。ボア×ストローク=94.0×89.5mm、12.3という高圧縮比により、過給機に頼ることなしにリッター100ps近い高性能を達成した。先代にあたる「IS F」のV8の許容回転数を500rpm引き上げ、プラス54psを得るため、部品の多くを一新し、空冷オイルクーラーを追加した。継承したのはエンジンブロックのみ。燃費対策として、アトキンソンサイクルを採用し、巡航時には排気量4.2リッター相当の燃費を実現するという。しかも、このV8、「LFA」の4.8リッターV10を思わせる男性的なサウンドを奏でるのだ。
RC Fはまずもって、吾(われ)は日本車にあらず、と訴えかけてくる。V8を目覚めさせた時は、そうでもなかった。スターターを押しても、爆裂音を発したりはしない。大排気量のV8 ならではの鼓動はちゃんとある。
走りだして、右折すると、突如ワイパーが音もなく動き出した。なぜって、ウインカーを出すつもりで、私の左手がごく自然に左側のワイパーのレバーを動かしていたからだ。ま、それまで右ハンドルの「BMW X4」に乗っていた、ということはある。であるにせよ、もしレクサスRC Fがいわゆる日本車っぽいクルマであったなら、粗忽(そこつ)者の私でも右側のウインカーレバーを動かしていたに違いない。私の体はごく素直に判断したのだ。これは日本車ではない。ガイシャである、と。
そこらの道でもココロがおどる
富士スピードウェイやニュルブルクリンク・ノルドシュライフェで鍛え上げられたシャシーは、硬く引き締まっている。可変ダンピングの類いは潔く付いていない。にもかかわらず、いやそれだからこそ、よくできたスーパースポーツの見本のように、RC Fの乗り心地はファームだけれど、素晴らしく快適なのだ。足まわりの硬さにボディーが負けていない。剛性感にあふれている。通常の「RC」のボディーの随所に加えられた補強材のたまものであろう。
RC Fが、例えば3.5リッターV6の「RC350“Fスポーツ”」より90kg重いのは、シリンダーの数が2本増えたゆえのみではない。補強材に加えて、リアのブレーキが4ポッド化されるなど、高性能化に対応しているためなのだ。
例えば、楕円(だえん)形上の断面を持つ太いステアリングホイールは、サーキットを走り込んだテストドライバーの総意で決めたものだという。なるほど、ステアリング系はちょっと重めのフィールともあいまって、いかにも頼もしい。
RC Fのチーフエンジニアは、「RC Fは走りを楽しみたい人なら誰でも笑顔になれる」と説明会で語った。さらに「Fモデルは公道からサーキットまで、安全・安心に楽しめる、意のままのステアリング、安心して止まるブレーキを備えている」という趣旨のことも述べた。なるほど、公道のみのごく限られた試乗ながら、ハンドリングは極めて素直で、スーパーカー級の超高性能車でありながら、非常に運転しやすい。なにしろギアボックスはデュアルクラッチではなくて、フツウの8段オートマチックである。アウトバーンの速度域に達せずとも、ワクドキが感じられる。そこにRC Fの価値がある。
V6モデルは「大人のクーペ」
車両価格は953万円。ライバルの「M4クーペ」は1126万円、「C63 AMGクーペ」は1254万8000円である。お買い得感があることは間違いない。
RC Fは「レクサスのイメージを変える」使命を与えられたRCのなかでも、とりわけ「戦略モデル」である。初代「LS400」が登場してから25年を経て、レクサスは「イメージを変える」必要に迫られている。そのためにRC FのGT3で、2015年から国内ではSUPER GT(GT300)、海外ではニュルブルクリンク24時間等に参戦する。仮に勝ちまくったとして、レクサスがどういうイメージを獲得することになるのか、大いに興味がある。という一方で、辺境の民の一員として、応援せずにはいられない。
RC Fの後に乗ったRC350“Fスポーツ”についてもひとこと触れておこう。3.5リッターV6は最高出力318psと十分なパワーを秘めている。“Fスポーツ”なので、タイヤは19インチとデカくて太い。さぞや乗り心地が硬いだろう……と予想したら、全然違っていた。
しなやかなのだ。レクサスで一番よい、と思うぐらいに。クルマ全体の印象で言えば、筋肉質のRC Fと比べると、きゃしゃだけれど、軽やかで、月並みながら「大人のクーペ」という言葉が浮かんだ。価格は678万円と、「BMW 428iクーペ」が買えるほどに高価である。ハイブリッドの「300h」は、時間切れで乗れなかった。
RC350もいいクルマだと思ったけれど、今回はともかくRC Fに圧倒的にワクドキした。豊田章男はトヨタ=レクサスのクルマづくりを着実に変えつつある。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
レクサスRC F
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4705×1850×1390mm
ホイールベース:2730mm
車重:1790kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:477ps(351kW)/7100rpm
最大トルク:54.0kgm(530Nm)/4800-5600rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19 92Y/(後)275/35ZR19 96Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:8.2km/リッター(JC08モード)
価格:953万円/テスト車=1043万7680円
オプション装備:ボディーカラー<ラディアントレッドレイヤリング>(16万2000円)/セミアニリン本革ハイバックスポーツシート+運転席/助手席ベンチレーション機能(15万6000円)/フロント255/35ZR19+リア275/35ZR19タイヤ&鍛造アルミホイール<BBS製・ポリッシュ仕上げ・スパイラル10本スポーク>(14万400円)/プリクラッシュセーフティーシステム<ミリ波レーダー方式>+レーダークルーズコントロール<ブレーキ制御付き>(6万4800円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万3200円)/ブラインドスポットモニター+リアクロストラフィックアラート(6万4800円)/レーンディパーチャーアラート<ステアリング制御付き>+オートマチックハイビーム(3万7800円)/マークレビンソンプレミアムサラウンドサウンドシステム<RC F専用チューニング>(23万8680円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2739km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
レクサスRC350“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1840×1395mm
ホイールベース:2730mm
車重:1700kg
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:318ps(234kW)/6400rpm
最大トルク:38.7kgm(380Nm)/4800rpm
タイヤ:(前)235/40R19 92Y/(後)265/35R19 94Y(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:9.8km/リッター(JC08モード)
価格:678万円/テスト車=759万8640円
オプション装備:ボディーカラー<ヒートブルーコントラストレイヤリング>(16万2000円)/オーナメントパネル縞杢<アガチス/ダークブラウン>(9万3960円)/プリクラッシュセーフティーシステム<ミリ波レーダー方式>+レーダークルーズコントロール<ブレーキ制御付き>(6万4800円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万3200円)/ブラインドスポットモニター+リアクロストラフィックアラート(6万4800円)/レーンディパーチャーアラート<ステアリング制御付き>+オートマチックハイビーム(3万7800円)/マークレビンソンプレミアムサラウンドサウンドシステム(23万8680円)/三眼フルLEDヘッドランプ&LEDフロントターンシグナルランプ(11万3400円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1358km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.11.11 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
-
メルセデス・ベンツGLB200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.10 2020年に上陸したメルセデス・ベンツの3列シート7人乗りSUV「GLB」も、いよいよモデルライフの最終章に。ディーゼル車の「GLB200d 4MATIC」に追加設定された新グレード「アーバンスターズ」に試乗し、その仕上がりと熟成の走りを確かめた。
-
NEW
第853回:ホンダが、スズキが、中・印メーカーが覇を競う! 世界最大のバイクの祭典「EICMA 2025」見聞録
2025.11.18エディターから一言世界最大級の規模を誇る、モーターサイクルと関連商品の展示会「EICMA(エイクマ/ミラノモーターサイクルショー)」。会場の話題をさらった日本メーカーのバイクとは? 伸長を続ける中国/インド勢の勢いとは? ライターの河野正士がリポートする。 -
NEW
第852回:『風雲! たけし城』みたいなクロカン競技 「ディフェンダートロフィー」の日本予選をリポート
2025.11.18エディターから一言「ディフェンダー」の名を冠したアドベンチャーコンペティション「ディフェンダートロフィー」の日本予選が開催された。オフロードを走るだけでなく、ドライバー自身の精神力と体力も問われる競技内容になっているのが特徴だ。世界大会への切符を手にしたのは誰だ? -
NEW
第50回:赤字必至(!?)の“日本専用ガイシャ” 「BYDラッコ」の日本担当エンジニアを直撃
2025.11.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズかねて予告されていたBYDの日本向け軽電気自動車が、「BYDラッコ」として発表された。日本の自動車販売の中心であるスーパーハイトワゴンとはいえ、見込める販売台数は限られたもの。一体どうやって商売にするのだろうか。小沢コージが関係者を直撃! -
NEW
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】
2025.11.18試乗記ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。 -
NEW
「赤いブレーキキャリパー」にはどんな意味があるのか?
2025.11.18あの多田哲哉のクルマQ&A高性能をうたうブレーキキャリパーには、赤をはじめ鮮やかな色に塗られたものが多い。なぜ赤いキャリパーが採用されるのか? こうしたカラーリングとブレーキ性能との関係は? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
第323回:タダほど安いものはない
2025.11.17カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。






























