スバル・フォレスターtS(4WD/CVT)
スッキリさわやか 2014.11.25 試乗記 ミドルサイズSUV「フォレスター」に、スバルのモータースポーツ活動を担うSTIが手がけた「tS」が登場。300台の台数限定で販売されるコンプリートカーの実力を試す。乗ればすぐわかる素性のよさ
スバルのミドルサイズSUVであるフォレスター。そのワークス・チューンド・コンプリートカー「スバル・フォレスターtS」に試乗した。tSとはチューンド・バイ・STIの意味で、同社はこれまでに「レガシィ」や「BRZ」、インプレッサ時代の「WRX」などでこれを発表している。
今回の試乗には、ちょっとした緊張感と不安を抱いていた。それは、先日『webCG』で「スバルWRX STI」に試乗したことが理由である。「またあの味付けだったらどうしよう……」と思ったのだ。しかも今回は、背の高いSUVが相手。「快適性と運動性能の両立を図りました」という最近はやりの決まり文句を掲げたあげく、はやりのダンパーセッティングで操縦走安性の定まらない乗り味になっていたら……と心配したのだ。
しかしフォレスター tSは、そんな思いをひらりとかわす、さわやかな乗り味を備えていた。試乗会場を出るとき、ちょっとした段差の衝撃を“トトン”とバネ下で減衰させた感触からして既に、その素性のよさは見て取れた。
実際タウンスピードでの身のこなしは軽快だった。SUV特有の高い重心高によるふらつき感やロールを上手に抑えつつ、ステアリングを切ればスッと自然に応答する。また俊敏な割に乗り心地は良く(というか、いたって普通)、バネ下におけるタイヤのバタツキ感や、路面からの突き上げ感もほとんどない。
高速走行に転じても、その味わいが消え去ることはない。大地にどっしりと根を下ろす“スタビリティーの塊”的な乗り味ではないが、どこまでもストレスフリーに突き進み、“気付いてみればとっても安全”的なファミリードライブが楽しめる。ちなみにこのtSには「アイサイト」も標準装備である。
コーナリング特性は“ややコンサバ”
こうした乗り心地は、シャシー系の改良によるものだ。フォレスターtSはオリジナルボディーの剛性を引き上げるために専用のタワーバー、前後の「フレキシブルドロースティフナー」「フレキシブルサポートサブフレーム(リア)」、板厚を増した「クランプスティフナー」といったパーツを盛り込んでいる。ドロースティフナーなどは引っ張り方向の強度だけに対応する簡素な補強部品であるし、板厚のかさ上げなどはメーカー直系ワークスにしか解析できない部分。開発目標値に対して最小限のブラッシュアップで効果を発揮させるからこそ、車両価格も抑えることができている。
こうやって少しだけ骨太に鍛え上げられたボディーに対して、15mm車高を下げた専用のサスペンション(フロントは倒立式)と専用のサブフレームブッシュおよびスタビライザーブッシュが与えられている。
通常走行でのフィーリングは快適で、高速走行では直進安定性も問題なし。それではおきまりのスポーティーな走りは? となるのだが、これはややコンサバに仕上げられていた。
まず基本的なセッティングはアンダーステア基調。フロントサスペンションのロール剛性をリアに対して少し引き下げているから、前述の通り初期はスッとノーズが入り込むのだが、その先はロールアンダーステアになる。
とはいえそれがクルマのバランスを崩しているかといえばそうではない。ただもう少しだけフロントダンパーの圧側減衰力を高めるか、スタビライザー径を太くするなどして、ライントレース性を上げても良かったと思う。日本人の運転技量を見越してか、やや味付けが“安パイ”なのである。
ロングドライブは疲れそう
それよりも気になったのは、ドライビングポジションだ。純正部品の表皮を替えただけのシートは肉厚でクッション性も高いが、サイドサポートは弱く横Gに対して体を支えにくい。一方パワーステアリングはとても軽いから、適切なステアリング位置(9時15分とか10時10分の位置)で握っていると、ステアリングにしがみつくような形になって、長時間の運転では疲れてしまう。
ステアリングの一番下を持ってチョイチョイと切る、“ダレた操作”をするのも嫌なので、コラムをメーターが見える範囲でいちばん下まで下げ、腕の負担を減らすがこれも違う。要するにノーマルのフォレスターはSUVの形をした乗用車。速度レンジが低い日本で、楽な姿勢で運転するように作られており、グランドツーリングの基本は備わっていない。
対策として、パワステのアシストを速度感応タイプにするか、そこに段階を設けるかしてほしい。もしくは簡素でもよいから、深々と座れるシートにしてほしい。そう、往年の「インプレッサ(GC8)」のようなシートで十分である。
STIのコンプリートカーに望むもの
エンジンも少しだけ“余計なこと”をしてくれたと思う。
新世代の直噴水平対向2リッターエンジンである「FA20」は、ノーマル状態ですでに280psを達成しているだけに、出力はそのままでも十分。しかしそれでは「tSの名がすたる」と考えたからか、ECU(エンジン・コントロール・ユニット)の制御を「S♯」にしたときだけ、アクセル開度が少なくてもトルクが大きく出るようにチューニングしてある。また、このモードのときは「TCU」(トランスミッション・コントロール・ユニット)による8段のステップ変速もクロスレシオ化するという念の入れようだ。
だがこれが微妙なアクセルコントロールをするときに、要らないトルク変動を引き起こす。ロングコーナーではパーシャルスロットルのじゃまをするし、タイトコーナーではいいトコロで要らないプッシュアンダーを引き起こす。別にギンギンに攻めたいからではなく、むしろ上質な走りをしたいからこそ、こういう不自然な加速感は要らない。ユーザーが喜ぶからこれをやるのだとしたら、それは間違いだ。
聞けば、STIがこのフォレスターtSで目指したのは、「BMW X5」や「ポルシェ・カイエン」ではなく「フォルクスワーゲン・ティグアン」や「アウディQ3」という。そう言われると、筆者は素直に納得した。最後のエンジンチューニングだけは好きになれないけれど、全体的な乗り味は非常にスッキリとまとまっていて、嫌みがない。
ただ「STI」という名前を聞くと、どうしても期待値は高まってしまう。筆者的には、今回のようなチューニングのモデルはディーラー特別バージョンとして用意し、「tS」には先代「インプレッサWRX tS Type RA」で築き上げたような密度感を込めてほしいと思った。フォレスターの4WDは、FFを基本としたオンデマンド式とは一線を画す、前:後ろ=6:4の駆動力配分を基本としたアクティブトルクスプリット式。いわばワンランク上のクラスなのだから、もっと威厳のある走り味を持たせてもよかったと思うのだ。そうすればさまざまな事情でWRXからより広いクルマに乗り換えなければならなくなったスバリストも、「やっぱりSTIがいい!」と言ってくれるのではないだろうか。
(文=山田弘樹/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
スバル・フォレスターtS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4595×1795×1700mm
ホイールベース:2640mm
車重:1620kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:280ps(206kW)/5700rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/2000-5600rpm
タイヤ:(前)245/45R19 98Y/(後)245/45R19 98Y(ブリヂストン・トランザER33)
燃費:--
価格:435万円/テスト車=457万1400円
オプション装備:※以下、販売店オプション パナソニック ビルトインナビ(22万1400円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1225km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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