メルセデスAMG GT S(FR/7AT)
AMGが吹っ切れた 2014.12.26 試乗記 メルセデスの新たなスポーツクーペ「AMG GT」。シュトゥットガルトのブランド戦略が生んだパフォーマンス至上主義の一台を、アメリカでの公道&サーキット試乗で試した。進むメルセデスの改革
メルセデスは現在、名称変更によるラインナップの整頓とバリエーションの強化を同時に推し進めようとしている。その一端は先のロサンゼルスモーターショーでも垣間見ることができた。
ラインナップの整頓において軸足となるのは、「A」「C」「E」という3つのコードである。言わずもがな、彼らのプロダクトにおける大黒柱に与えられたその記号を、おおむねのモデルの名称に付与することで、キャラクターとセグメントの両方を明確化しようということだ。FFの「Aクラス」系車台では既に「CLA」や「GLA」といった派生車種にこのネーミングが用いられているが、それが今後は「Cクラス」系車台や「Eクラス」系車台にも波及し、例えば従来の「GLKクラス」は「GLC」、「MLクラス」は「GLE」という風に変わっていくと目される。
バリエーションの強化においては、「Sクラス」に設定された「マイバッハ」がその意向を示している。独立したブランドとして位置づけられていたその名が継承されたということは、専用のエンジニアリングやトリムが与えられた特別なラグジュアリーモデルが一定数企画されているのだろう。すなわち今後「メルセデス−マイバッハ」は、メルセデスのトリムラインでなく、サブブランドとして扱われることになる。
同様の位置づけとして名称の変更を受けたのがAMGだ。例えば従来は「メルセデス・ベンツC63 AMG」とされていたそれは、今後「メルセデス−AMG C63」と呼ばれることになる。すなわち、メルセデス・ベンツというふとい胴体の両翼にマイバッハとAMGがいて、それぞれがハイフンで結ばれるということになるだろうか。
AMGについて言えば、2015年からはさらに新たなバリエーションとして「AMGスポーツ」がCクラスを皮切りに登場する予定だ。これは主にパフォーマンス面で標準的なCクラスとAMG謹製のC63との間を埋めるもので、例えるならアウディの標準車と「RS」シリーズの間を埋める「S」シリーズ的な位置づけとみて間違いはないだろう。恐らくは開発をAMG、生産をメルセデスが担当することになるはずだ。
……ほんま、ややこしいわ。
書いている僕自身がそう思うわけで、一般的には実際に品物が出てくることで徐々に浸透していく類いの話ではないかと思う。ではなぜこんな長い前置きを書いてしまったかというと、これから紹介するクルマ、メルセデス−AMG GT(以下GT)の立ち位置を知る上で、メルセデスのポートフォリオを気にとどめていただいた方がより明快になるだろうと思ったからだ。ここまでが全然明快でないことはあしからず、ということで。
より軽く、よりコンパクトに
AMGの側はそれを否定するが、一般的にGTは、先の「SLS AMG」の実質的後継にあたるモデルと受け取れるだろう。ボディーコンストラクションはアルミスペースフレーム式となり、部位的にも一部を流用するなどその共通性は高い。が、サスペンション形式はSLSが4輪ダブルウイッシュボーンであるのに対して、GTはリア側がマルチリンク式となる。寸法的にみるとGTは全長で約90mm、ホイールベースで50mm程度SLSより短く、全幅やトレッドはほぼ同一だ。欧州基準計測での車重は1540kgと、こちらはSLSの標準車に対して80kg軽くなっている。
搭載されるエンジンはコードネーム「M178」の4リッターV型8気筒直噴ツインターボだ。90度のバンク角で配されたシリンダーの谷間に2つのタービンが並列に並ぶレイアウトをみてもわかる通り、このエンジンはメルセデスのレギュラーラインとは関連性のないAMGのオリジナルとなる。ちなみに先だって発表されたC63に搭載されるのはウエットサンプの「M177」となり、M178はこれをベースに、ドライサンプ化を筆頭に独自のチューニングが施されたものとみていいだろう。
その最高出力は標準の「GT」で462ps、よりパフォーマンスを重視した「GT S」で510ps。6.2リッター自然吸気のSLSに対しては若干の見劣りはあるが、4リッターターボのキャパシティーで発するものとしてはかなりのハイパワーだ。そのエンジンとトルクチューブを介してつながれるミッションはSLS譲りの7段DCTとなり、トランスアクスルレイアウトによって前後重量配分は47:53と、駆動輪側にしっかりトラクションの掛かる設定となっている。ちなみにGT、GT Sの両方にLSDが標準装着となるが、前者が機械式であるのに対して後者は電子制御式。他に可変ダンパーと連動するドライブセレクトシステムにはレースモードを設けるなど、GT Sは電子制御周りもよりスポーティーにしつけられている。
想像以上にストイック
市場には当初GT Sが投入され、追ってGTが加えられるという販売スケジュールの関係もあって、今回の試乗はGT Sに限られた。……だからということを差し引いても、まず驚かされたのはその乗り心地だ。ボディーもサスもがっちりと引き締められたがゆえのフィードバックははっきりと硬質で、時に鋭い突き上げが体を揺することもある。シティーユースでのフレキシビリティーも売りにする昨今のスーパースポーツに対すれば、GT Sは自らが走り最優先であることを明快に伝えてくる、確信犯的な仕上がりを感じさせる。
それを裏付けるかのように、中低速域での操作に対するダイレクト感は驚くほどだ。特に操舵(そうだ)に対するゲインの立ち上がりは容赦なく、鼻先はわずかな操作量でもクイクイと向きを変える。メルセデスの銘柄としてみればアクセルやブレーキの応答も敏感で、ルーズな運転にこそ気を遣う。慣れの問題もあるとはいえ、エンジニアリング側がSLSにも増してアグレッシブなセットアップをもくろんでいることは間違いない。
時折シャワーのような雨が路面をぬらすラグナ・セカ・スピードウェイでのサーキット試乗は、そんなものだからガチガチに緊張して臨むこととなった。ブレーキのタッチを確認した後にアクセルをグッと踏み込んでみると、バロバロッと荒げた排気音は一糸に束ねられ、クォーンと快音を響かせながら車体を次のコーナーへと一気に向かわせる。
トルク特性的に有利なロングストローク型でありながら、高回転域へとパワーの伸びがきれいにつながっていくエンジンのフィーリングは望外のものだった。7000rpmのレッドゾーン直前まで力感を途切れさせることなくスキっと吹けきらせる。その爽快感にまつわる作り込みは、同じく直噴ターボへとスポーツユニットをスイッチさせているBMWやフェラーリよりも巧みかもしれない。しかも、ただ無味乾燥的にスキッと回るだけでなく、適度なビート感も残されている。初出にしてお見事な仕上がりだ。
と、ここで悪環境にも関わらず、この500psオーバーのエンジンをしっかり吟味できている自分に気づく。公道試乗ではやや敏(びん)にすぎるように思えていたその操縦性がサーキットスピードになるとピタリとハマる、つまりコントロールできそうという自信がそうさせているのだろう。
パフォーマンスの妥協は許されない
コーナリング性能はすさまじくシャープだ。ノーズはスパスパと向きを変え、切り増しと共にグングンとインに食い込んでいく。その所作にSLSとの共通点がないわけではないが、SLSではホイールベースや乗員と前輪の位置関係からくる位相遅れでノーズを振り回すような癖を飲み込む必要があった。GTではその特性が完全に封じ込められ、単に機敏なだけではない一体感のあるコーナリングが楽しめる。アンダーステアの類いは一切うかがわせず、とにかくがっちりリアを踏ん張らせるメルセデス流のハンドリングとは一線を画し、リアのブレークもやや早い傾向にある。が、素早い応答性を利して最小限のアクションでそれを抑えることができる辺りもこのクルマの狙いに沿うものだろう。ESPは、ドライブモードがスポーツの側に向かうにつれて滑りを積極的に許容する設定となるが、スピンモードの直前にはしっかり車体を安定側へと振り向ける。
ともあれ、本気も本気のスポーツカーである。価格的にライバルと目されるのは「ポルシェ911カレラ4S」辺り、成り立ち的にはV8の「ジャガーFタイプ クーペ」辺り……と思っていたが、その読みは大きく外れた。標準車に乗らずして総括はできないものの、試乗車のGT Sに乗る限り、それは911ならむしろ「GT3」辺りと比べるべきものかもしれない。
なぜメルセデスが、そしてAMGがここまで戦意をむき出しにしてくるのか。冒頭のラインナップ再編やサブブランド設定の動きをみればそれはなんとなく理解できる。基準車のポテンシャルからしてスポーティーネスが強化され、その上にAMGスポーツなるものが入ってくるならば、純然たるAMGはもはや圧倒的なパフォーマンスを持たなければ示しがつかない。ましてやそのアイコンたるGTは、FIA−GT3レギュレーションのマシンにかなうどころか、勝てるものでもなければならない。
ここまで吹っ切れたAMGの仕事をみるのは、ブラックシリーズ以来だろうか。いや、なんとあらばかつての「6.0ハンマー」辺りを持ちだした方がいい。その位の狂気が感じられる。見栄えがよくて快適で公道ベストのパフォーマンスを持つ、まぁ「SL63 AMG」の親戚みたいなもんだろうと思っていると確実に裏切られるだろう。ご検討中の富裕層の皆さまには、「試乗は必須です」と申しておきたい。
(文=渡辺敏史/写真=メルセデス・ベンツ日本)
テスト車のデータ
メルセデスAMG GT S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4546×1939×1288mm
ホイールベース:2630mm
車重:1570kg
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:510ps(375kW)/6250rpm
最大トルク:66.3kgm(650Nm)/1750-4750rpm
タイヤ:(前)265/35ZR19 98Y/(後)295/30ZR20 101Y
燃費:9.4リッター/100km(約10.6km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値はすべて欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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