キャデラックCTSプレミアム(4WD/6AT)
隠れた、と言うのが惜しいスポーツセダン 2015.02.05 試乗記 キャデラックの大型ラグジュアリーセダン「CTS」に、四輪駆動システムを備えた上級グレード「プレミアム」が加わった。「スポーツセダン」を持って任じるキャデラックのフラッグシップは、雪の上でもドライバーズカーたりえるか? スタッドレスタイヤを履いて雪道をたどった。その変身に戸惑う
「キャデラックを口にくわえて生まれてきたんだね」とフィリップ・マーロウが皮肉った頃の巨大なキャデラックは、まさしくアメリカの富を象徴する車だった。それから半世紀以上もたった今では、世の中もキャデラックそのものもまったく様変わりしていることは百も承知なのだが、それにしても、である。あのキャデラックがこんなにもスポーツ志向のセダンに変身しているとは、実に隔世の感ありと言わざるを得ない。
そもそも21世紀に入ってからは、少なくとも日本では販売ネットワークの変化やGM本体の経営破綻等の影響でキャデラックのブランドパワーが失われたのは事実である。キャデラックの名前を聞いたことがある人でも、いまだにとにかく巨大で豪勢な高級車を思い浮かべる人が大半ではないだろうか。しかしながら新世代のキャデラックは、もはやゆったりとした大きめのセーターを着ているような、リラックスした安楽志向のラグジュアリーサルーンではない。それどころか、通気性はあるけど水は通さない高機能素材のトレーニングウエアのようにぴたりと身体にフィットした、やる気満々のスポーツセダンである。コンパクトセダンの「ATS」もこのCTSもキラキラしたラグジュアリー感は昔通りに備えているが、ピアノブラックのインストゥルメントパネルが目を引くインテリアは精悍(せいかん)でタイトな居住まいであり、マグネシウム素材のシフトパドルなどもスポーティーそのもの。いかに顧客層の若返りを図りたいとはいえ、そして米国以外でもライバルに真っ向勝負を挑むとはいえ、これはあまりにも大胆な変身ではないかとこちらが心配になるほどだ。
新設定の「プレミアム」は4WD
このダイナミックで精悍な後輪駆動セダンのCTSが現在の日本におけるキャデラックの旗艦である。日本市場には全長5mを超える前輪駆動のフルサイズセダンたる「XTS」も導入されているが(ヤナセ・グローバルモーターズ扱い)、GMジャパンが販売するキャデラックとしてはCTSが最大のセダンである。昨年日本に上陸した3世代目となる新型キャデラックCTSは、従来型から一気に大型化されて全長はほとんど5mに近く、ライバルと名指ししている「メルセデス・ベンツEクラス」や「BMW 5シリーズ」などのいわゆるEセグメントモデルを一気に飛び越えるぐらいのボディーサイズながら、そのいっぽうでアルミニウム素材などを多用したハイブリッド構造を持つボディーは、先代比-100kgといわれるぐらいに大きく軽量化されている。
新型CTSは、これまで日本では「ラグジュアリー」と上級グレードの「エレガンス」という2本立てのラインナップだったが、2015年型として新しくなった新型はラグジュアリー(599万円)とアクティブオンデマンドAWDシステムを持つ4WDの「プレミアム」(699万9000円)という2車種となった。どちらもパワーユニットはいわゆるダウンサイジングターボの2リッター4気筒直噴ターボを積む。米本国では420psを誇る3.6リッターV6ツインターボエンジン+8ATという仕様もあるが、日本では弟分のATSセダンと同じ2リッター4気筒直噴ターボのみ、これは276ps(203kW)/5500rpmと40.8kgm(400Nm)/3000-4500rpmを生み出すかなりのハイチューンユニットで変速機はシフトパドル付きの6段ATである。
しかもそのエンジンは大きなエンジンルームのコックピット側に、バルクヘッドにめり込むようにできるだけ後方に搭載されている。おかげで前後重量配分はほぼ50:50を実現、4WDシステムを加えたこのCTSプレミアムでも52:48と優秀な重量バランスを維持しているという。
走ればサイズを感じさせない
弟分のコンパクトセダンATSに比べれば俊敏さではやや劣るとはいえ、2リッターターボユニットのパワーは、全長ほぼ5m、ホイールベースはXTSよりも長い2910mmという大きなボディーに対してもまったく不足ない。ちなみにキャデラックはCTSを「ミッドサイズ・ラグジュアリー・スポーツセダン」と称しているが、狭い道ではさておき、いったん走りだしてしまえば、なるほどそのサイズを感じさせないぐらいの軽快感はある。この鼻先の軽さ、ススーッと反応するリニアな回頭性は優れた重量配分のなせる業だろう。プレミアムの車重は電子制御多板クラッチによる4WDシステムのために後輪駆動(RWD)のラグジュアリーより90kg重い1770kgに増えているが、このボディーサイズを考えればなお軽量と言っていいし、今回の試乗の舞台となった軽井沢周辺の雪道とウエット路ではRWD版と比べて感じ取れるほどの違いもなかった。
最新のオンデマンド4WDシステムだけに、四輪駆動ゆえのデメリットとも無縁で、知らされなければ4WD車と気づかない人もいるはずだ。もっともその分、雪道で前輪がダイレクトにグイグイ引っ張る感覚は薄く、必要な場合だけサポートしてくれるというタイプだ。フルスロットルを与えるとたけだけしく吹け上がるATSよりもエンジンの回転フィーリングはスムーズでエンジン音やロードノイズも低く、また乗り心地もよりラグジュアリー方向に洗練されている。
今も残るアメリカ風味
走ればヨーロッパのライバルを見据えてニュルブルクリンクで開発したという主張も納得できるが、依然としてアメリカ流を感じさせる部分もある。例えばラゲッジルームはトランクスルー機構付きなのだが、容量はそれほど大きくもないし、何よりサスペンションの張り出しなど車側の事情をそのまま押し付けたような凸凹の荷室内部形状はいかにもアメリカ車らしいところ。しかもカーナビゲーションのHDDユニットと思(おぼ)しき黒い“弁当箱”がそのままフロア奥に据え付けられている。普通なら床下や側面など邪魔にならない場所に収めようとするものだが、こういう点には細かいことは気にしないおおらかさというか大ざっぱな感覚が垣間見える。リアシートのスペースがサイズの割に狭い点も同様である。
いっぽうで衝突防止およびドライバーサポートのための安全装備とインフォテインメントシステムが充実しているのもキャデラックの特長。CTSプレミアムではオートマチックパーキングアシストの縦列駐車機能に加え、新たに並列駐車機能も備わり、また携帯電話のワイヤレスチャージング機能も採用された。もっとも、センターパネルのタッチスイッチは、見た目はクリーンだが実際の使い勝手はいまひとつ、メーター内の各種情報の表示方法も煩雑にすぎて使いやすいとはいえない。もう少し優先順位をつけて整理したいところだ。
思えば新世代キャデラックの嚆矢(こうし)となったのが2003年デビューのCTSだった。ドライバーズカーとして独自のユニークなキャラクターを備えていることは間違いない、と乗るたびに思う。だが残念ながら、世の中に伝わらなければそれも存在しないと同じことなのだ。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
キャデラックCTSプレミアム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4970×1840×1465mm
ホイールベース:2910mm
車重:1770kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:276ps(203kW)/5500rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/3000-4500rpm
タイヤ:(前)245/40R18 97H/(後)245/40R18 97H(ミシュランX-ICE XI3)
燃費:約11.0km/リッター(欧州複合モード)
価格:699万円/テスト車=746万9000円
オプション装備:有償エクステリアカラー(ブラックダイヤモンドトゥリコート)(12万9000円)/キャデラックCTS CUE統合制御ナビゲーションシステム(35万円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:3529km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
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