キャデラックCTSセダン プレミアム(4WD/8AT)
たいしたもんだよキャデラック! 2016.04.11 試乗記 キャデラックのラインナップの中核を担うミドルクラスモデル「CTSセダン」が、年次改良によって2016年モデルに進化した。従来型からの変化の度合いと、CTSが生来持ち合わせているワールドクラスの実力をリポートする。欧州勢と同じ“文法”で造られている
キャデラックのミドルサイズサルーン、CTSの2016年モデル最大の特徴は、オートマチックギアボックスが6段から8段へと多段化されたことである。信号待ちなどでエンジンを自動的に停止&始動するオートスタート/ストップも装備し、一層の高効率化が図られた。
アメリカンドリームの頂点に君臨するところのキャデラックである。吝嗇(りんしょく)でしているわけではない。国際市場で「メルセデス・ベンツEクラス」や「BMW 5シリーズ」等々と伍(ご)すために必要だからである。
2013年のニューヨークショーでデビューした現行3代目CTSは、ヨーロッパのプレミアムブランドとほとんど同じ考え方で成り立っている。日本仕様の場合、駆動方式は電子制御のオンデマンド式4WDのみだけれど、基本はエンジン縦置きの後輪駆動である。前後重量配分は50:50を理想とする。ボンネットを開けると、エンジンがかなりキャビン寄りに搭載されていることがわかる。
サスペンションは、前ストラット、後ろマルチリンクで、電子制御の可変ダンピングシステムを備えている。ブレーキはイタリアのブレンボである。ボディーはアルミやマグネシウムなどの軽量素材を積極的に用い、接着剤による接合を取り入れて、軽量化と剛性アップにつとめている。なにしろニュルブルクリンクを走り込んで開発している。先代比、ボディー剛性は40%も向上しているという。「シボレー・コルベットZ06」とエンジンを同じくする「CTS-V」の存在も貢献すること大だろう。
2リッターターボはクラス随一のパワフルさ
シートは例によって、車線をはみ出したり、前走車に近づきすぎたりすると、ヴヴヴヴと振動してドライバーに警告する。「セーフティアラートドライバーシート」がそれである。違和感のある人はシステムをオフにすればよい。すればよいが、せっかく付いているのだからオフにするのもモッタイナイ。
シート自体は硬めだけれど、足まわりもまた硬めである。さすがニュルブルクリンク育ちである。アスリートの筋肉のごとく引き締まっている。スポーツセダンを名乗るにふさわしい。可変ギアレシオを持つステアリングは初期応答性が極めてクイックで、全長5m弱×全幅1840mmのサイズを感じない。筆者はもうちょっと走りたいという欲望に駆られ、夕刻、アクアライン経由で房総方面へと赴いた。ドライバーを誘う何かを秘めている。
アクセルを深々と踏み込むと、乾いた野太いエンジンの排気音がごくごく控えめに聞こえてくる。V8でもなければV6でもない。小さな4気筒である。排気量は2リッター、直噴、可変バルブタイミングにターボチャージャーを備える。ヨーロッパのトレンドそのままの最新ユニットである。
この直4ターボ、怪力だ。最高出力276psを5500rpmで、最大トルク40.8kgmを3000-4500rpmで発生する。「メルセデス・ベンツE250」や「BMW 523i/528i」、あるいは「アウディA6」の「2.0 TFSI」など、ドイツ・プレミアム御三家のどのEセグメントの2リッターよりパワフルかつトルキーな数値を誇る。1780kgの車重はアウディA6の2.0 TFSIクワトロと同じだ。
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安心して曲がれ、気兼ねなく踏める
「ドライバーモードコントロール」なる電子制御の切り替えスイッチがあって、モードを「ツアー」から「スポーツ」に替えると、乗り心地が一層きりりと引き締まる。房総スカイライン程度のゆるやかな山道ではほとんどロールしない。「マグネティック・ライド・コントロール」が1000分の1秒単位でダンパー内の砂鉄みたいな細かい粒子を集めたり拡散させたりして減衰力を制御しているからである。
たとえスポーツにしても、室内は静粛性が保たれる。BOSEの「アクティブ・ノイズ・キャンセレーション」が音の波を打ち消し、13のスピーカーが奏でるミュージックに浸ることができる。
4WDは、リアが滑った時に前輪にトルクを配分する方式だから、ドライ路面ではほとんど後輪駆動で走っているはずだ。けれど、このシステムのおかげでフラットアウトをイージーに受け付ける。よく曲がるけれど、スタビリティーが高い。まったくもって過敏ではない。安心感と安定感がある。前述した可変のステアリングギアレシオ、ZF製のシステムも貢献しているわけである。
新しい自社製のトルクコンバーター式8段ATは変速が極めて滑らかで、黒子に徹してドライバーに存在を意識させない。惜しむらくはダウンシフト時にブリッピングしないことだけれど、そういうものだと思えば不満はない。ブオンッブオンッといきむのも大人げない、ということでしょう。
ワールドクラスの実力の持ち主
ギアボックス以外の変更点は以下の2点である。ひとつは「Apple CarPlay」を日本市場でいち早く標準搭載したこと。IT大国の面目躍如である。
もうひとつ、「CUE(キャデラック・ユーザー・エクスペリエンス)」と呼ばれるインフォテインメントシステム、これがApple CarPlayに対応し、iPhoneとつなぐとSiriの音声コマンドが利用できるわけだけれど、このCUEに「サラウンドビジョン」が搭載された。駐車時に360度の俯瞰(ふかん)図を映し出す、日産が先駆けたバーチャル画像システムである。狭いニッポンそんなに急いで買い物に行く場合などにありがたい。
それにしても……思い出すなぁ。筆者が初めてキャデラックの国際試乗会に行かせてもらった日のことを。たぶん1990年前後のことである。アメリカのモンタナ州にあるイエローストーン国立公園の近くでだった。V8 DOHCの「ノーススターエンジン」を搭載する、前輪駆動の「セビル ツーリングセダン」が主役で、あのころからキャデラックはワールドクラスのプロダクトをつくる、と謙虚に語っていた。
あれから二十数年。ついにやり遂げた。たいしたもんだよキャデラック! 新鮮なミドサイズのスポーツサルーンが欲しいとお悩みの読者諸兄はキャデラックCTSをリストにぜひ入れていただきたい。車両価格790万円は、これまでより70万円近いアップながら、レザーシートや各種安全デバイスなどを標準装備することを考えると、今までが安すぎたということでしょう。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
キャデラックCTSセダン プレミアム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4970×1840×1465mm
ホイールベース:2910mm
車重:1780kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:276ps(203kW)/5500rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/3000-4500rpm
タイヤ:(前)245/40R18 93V/(後)245/40R18 93V(ピレリPゼロ ネロ)
燃費:シティー=21mpg(約8.9km/リッター)、ハイウェイ=29mpg(約12.3km/リッター)(米国EPA値)
価格:790万円/テスト車=808万8400円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトトゥリコート>(12万9000円)/フロアマット(5万9400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1490km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。