三菱ミラージュ1.2G(FF/CVT)
コンパクトカーの生き残る道 2015.02.06 試乗記 三菱のコンパクトカー「ミラージュ」に、1.2リッターエンジンを搭載した新グレードが登場。試乗を通して、日本で求められるコンパクトカーのあり方を考えた。安いクルマが売れているのではない
2014年の新車販売で、軽自動車の比率が40.9%と、ついに4割を超えた。ベスト10には軽自動車が7台も入った。ベストセラーは「ダイハツ・タント」で、一年間で23万4456台を売った。登録車のトップはハイブリッドカーの「トヨタ・アクア」で23万3209台。いずれも平均でひと月に2万台近く販売したことになる。
ではここで紹介する三菱ミラージュはどうかというと、メーカーの発表をもとにすれば、同じ一年間で5592台にとどまる。同じクラスの輸入車でいえば、ドイツ車「フォルクスワーゲン・ポロ」の1万3766台にも届かない。
これらの数字から読み取れるのは、いまの日本では小さなクルマは売れるけれど、それは必ずしも安いクルマではないということ。燃費が良い順に売れているわけでもない。魅力的な商品があれば、相応の金額を払って手に入れている。
2012年に登場した現行ミラージュは、新興国生産による価格の安さ、800kg台という軽量ボディーによる燃費の良さがウリだった。その代わりデザインは凡庸で、1リッター3気筒自然吸気エンジンとCVTによる加速には覇気がなく、スタビライザーを持たないサスペンションは、21世紀の国産車とは思えぬハンドリングを備えていた。ハイブリッドカーを除く登録車でトップだった燃費は、間もなく他車に追い越された。
タイ生産の日本車というと、ほかに「日産マーチ」があるけれど、二輪車に枠を広げれば250cc以下の多くの車種がこの国で作られている。取材で何台か乗った経験から言えば、性能も品質も日本製に遜色なかった。だからこそ、どうしてミラージュはこういう作りなのかという感想を抱いていた。
さすがは1.2リッターの余裕
2014年末に追加された1.2リッター車は、こうした声に対する三菱の回答かもしれない。1.2リッターエンジンはタイ向けには以前からあったユニットで、従来の1リッター車は力不足で購入を諦める人が多かったことから投入に至ったという。メーカーによれば0-100km/h加速、0-400m加速ともに、1リッター車より約1.5秒タイムを短縮しているそうだ。
エクステリアはフロントバンパー内のフォグランプ風型抜きが本物のフォグランプになり、サイドのウインカーはドアミラーに、アンテナは可倒式ショートタイプとなってルーフ後端に埋め込まれ、ホイール/タイヤは14インチから15インチになった。逆に言えば変更点はその程度なので、激変という印象ではない。
こちらも造形はオーソドックスなれど、そんなにチープではなかったインテリアは、インパネのセンターパネルやセレクターレバー/パワーウィンドウ周辺をピアノブラックで染めたことで、少しだけ上質になった。
前席の印象は相変わらず良好。滑りにくいファブリックを使っており、身長170cm、体重63kgのカラダをほどよくサポートし、座面の厚み、背もたれの張りを含めて満足できた。それだけにガッカリしたのが後席。広さは十分だけれど硬くて平板なうえに、中央席のヘッドレストがサイド&カーテンエアバッグとセットオプションというのは解せない。背もたれを前倒しするためのストラップも操作しにくい場所にあった。
最高出力が1リッターの69psから78ps、最大トルクが8.8kgmから10.2kgmに向上した1.2リッター3気筒エンジンに対し、車両重量は890kgと依然として軽量なので、加速は格段にリニアになった。3気筒独特の音は、最新の軽自動車より気になる場面もあったものの、流れに乗って一般道を走るなら3000rpmぐらい、Dレンジ100km/h走行は約2000rpmでこなすなど、力の余裕はさすが1.2リッターと思わせる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
求められているのは個性と付加価値
それ以上に1リッター車と違ったのはシャシーだった。乗り心地については、低速ではタイヤの硬さを意識するものの、速度を上げれば気にならなくなり、街中でチェックした限りハンドリングは軽快感と安定感を両立していた。それもそのはず、フロントサスペンションにスタビライザーが装備されたうえに、試乗車のタイヤはブリヂストンの「ポテンザRE050A」だったのだ。
つまり1.2リッターのミラージュは、加速も乗り心地もハンドリングも、国内外のライバルとガチで比較できるレベルに仕上がっていた。ただしいざ比べると、ミラージュならではの個性に欠けることに気づいたりもする。
800kg台という車両重量は、たしかに登録車としては軽い。でも軽自動車にまで枠を広げれば、新型「スズキ・アルト」が600kg台を実現してしまった。JC08モード燃費は37.0km/リッターに達する。これでは軽自動車のシェアが40%を超えて当然だ。
うわさによれば、次期マーチは先進国向けと新興国向けを造り分けるという。たしかに軽自動車がある日本で、価格の安さと燃費の良さで勝負するのは大変だ。むしろ高速道路でのエンジン回転数の低さや、ワイドトレッドがもたらすコーナーでの安定感など、軽自動車では実現しにくい部分を強調すべきだろう。三菱は軽自動車も売っているけれど、軽自動車に配慮して言葉を濁していては状況は好転しない。
もうひとつ、タイ製であることを生かしたデザインの提案もあり得る。自動車業界はとかく欧米重視の傾向があるけれど、若い女性はおおむね東南アジアに好意的なのだから。前述の安全装備のセットオプションを加えれば価格は150万円を超えるわけで、相応の付加価値を求めるユーザーは多いはずだ。
(文=森口将之/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
三菱ミラージュ1.2G
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3710×1665×1505mm
ホイールベース:2450mm
車重:890kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:78ps(57kW)/6000rpm
最大トルク:10.2kgm(100Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)175/55R15 77V/(後)175/55R15 77V(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:25.0km/リッター(JC08モード)
価格:144万5040円/テスト車=182万922円
オプション装備:寒冷地仕様(3万7800円)/SRSサイドエアバッグ&カーテンエアバッグ(11万8800円) ※以下、販売店オプション/2DINワイド7型メモリーナビゲーション(15万5822円)/ETC車載器(2万7907円)/フロアマット<ECO>(2万649円)/トノカバー(1万584円)/ラゲッジマット(4320円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1678km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--km/リッター
![]() |

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。