ダイハツ・ムーヴカスタムRS“ハイパーSA”(FF/CVT)
政治家よ、軽に乗れ 2015.02.17 試乗記 ダイハツが“軽の本流”と位置付けるトールワゴン型軽乗用車「ムーヴ」がフルモデルチェンジ。最上級グレードに試乗し、今日における軽乗用車の到達点を確かめた。“軽の本流”は日本の主流
クルマの知識がまったくない女性にこのダイハツ・ムーヴカスタムを見せて、「いくらだと思う?」と聞いてみた。返ってきた答えは、「50万円くらい?」というもの。いやいや、1979年の“アルト47万円”じゃあるまいし。最新の「スズキ・アルト」は、最廉価グレードでも69万6600円だ。
昨年末に行われた自民党内の税制に関する会議で、国会議員が「田舎の貧乏人が乗る軽自動車だから……」と笑いながら発言したという報道もあった。だからあまり高い税金をかけてはいけないという趣旨だったようだが、失礼だし品がない。そして何より、この国会議員はあまりにも無知だ。うっかりすると乗り出し200万円超になる「ホンダN-BOXスラッシュ」が売れているのを知らないんだろう。今回の試乗車も本体価格が166万8600円、オプションを含めると198万5213円という高額なクルマなのだ。
昨年末にフルモデルチェンジされて6代目となったムーヴは、ダイハツにとってど真ん中の主力車種である。プレス資料には「ミラ イース」が“軽の本質”、ムーヴが“軽の本流”と書いてあった。ついでに記しておくと、「タント」「ウェイク」が“広い軽”、「コペン」が“楽しい軽”、「ムーヴコンテ」「ミラココア」が“私の軽”、「ハイゼット」が“働く軽”ということになっていた。豊富なバリエーションの中心にいるのが、ムーヴである。
2014年の国内新車販売台数は前年比3.5%増の556万2887台で、そのうち軽自動車は227万2789台(前年比7.6%増)を占める。軽自動車の割合は40.9%となり、ついに4割を突破した。ムーヴは、日本のクルマの主流となった軽自動車の一番の売れ筋ということになる。
小型乗用車からの移行を狙う
「ハイパー」というのは今回のモデルチェンジから設定された最上級グレードで、専用の内外装装備を多く採用している。フロントグリルとエンブレムがダークメッキとなり、LEDイルミネーションで彩られている。リアコンビネーションランプもダークメッキ仕様だ。インテリアでは、インパネとドアオーナメントに貼られているギャラクシーマーブルパネルが目を引く。大理石に似せた素材で、軽自動車もここまで来たかと感慨深いものがある。
軽自動車が売れ行きを伸ばしているということは、減っているジャンルがあるのは当然だ。それは、明確に数字に表れている。昨年の小型乗用車(排気量660cc~2000cc)の販売台数は142万台で、普通乗用車の143万台を初めて下回った。人気のあったハッチバックなどのコンパクトカーの勢いが鈍り、顧客が軽自動車に流れていると考えられる。ハイパーというグレードを新設したのは、小型乗用車ユーザーから移行する人を狙っているということだろう。
実際のところ、このクルマは小型乗用車からの乗り換え組を満足させることはできるのだろうか。「ホンダ・フィット」を例に取ると、価格は最も安いグレードが126万5000円で、ハイブリッドモデルは193万円まで。ムーヴは標準車の最廉価グレードが113万4000円で、カスタム「RS“ハイパーSA”」4WDモデルが179万2800円となっている。トールワゴンタイプの軽と小型乗用車の価格帯は、10万円強の差しかない。
値段だけでは軽自動車が圧倒的に安いとまではいかないが、税金や維持費では有利だ。今年の4月から軽自動車税が現行の7200円から1.5倍の1万800円になるが、登録車はリッターカーでも2万9500円だからまだまだ大きな差がある。通行料などの費用も考えれば、やはり軽自動車はお金がかからない。
音楽を楽しめる静粛性
内外装の質感はどうかというと、これはもう登録車に比肩する仕上がりだ。チリ合わせも塗装の状態も、劣る要素は見当たらない。LED照明が使われていることもあって、顔つきは堂々たる存在感を示している。シートは本革とファブリックを組み合わせた上質なもの。たっぷりした肉厚があり、ホールド性も悪くない。大理石調のパネルには賛否がありそうだが、インパネはデザインも質感も安っぽさとは無縁だ。
カスタムにはメーター内に軽初とうたわれるTFTカラーマルチインフォメーションディスプレイが採用されていて、ダッシュボード中央には6.2インチの立派なモニターが収まっている。HDMI端子やUSB端子を備えてBluetoothにも対応するのはもちろん、試乗車にはタッチ式で音声操作もできる高性能なものがオプションで装着されていた。感心したのはオーディオの音質だ。サウンドをウリにしているホンダN-BOXスラッシュに負けないほどの迫力ある音を響かせていた。
音楽を楽しめるということは、静粛性も高い水準にあるということだ。遮音材を増やすだけでなく、エンジンルームや外部から進入するノイズを遮断するために水抜き穴などを減らすという地道な努力がなされている。軽自動車の場合、加速の際にエンジンの回転数が急上昇して不愉快なエンジン音が室内を満たすことが多いのだが、それがあまり気にならなかったのはアクセルをいっぱいに踏み込まなくても十分な速度が得られたからだろう。ステアリングホイールにはパワースイッチが設けられ、「D assist(Dアシスト)」を使うとレスポンスが向上する機能まで装備されている。
安全性能に関しても、高いレベルの機能が装備されている。先代から採用されたスマートアシストが強化され、低速域衝突回避支援ブレーキ、誤発進抑制制御、先行車発進お知らせ機能に、後方誤発進抑制制御が加えられた。VSCとTRCは全車標準となり、ヒルホールド機能も搭載された。最近では、高度な安全機能が軽自動車の商品性を高める大きな要素となっている。
荷室に関しては、もちろん文句のつけようがない。これまでのモデルでも規格いっぱいに室内空間を広げているので、モデルチェンジしても新たな驚きはないが、それでも荷室長は575mmまで伸びた。開口部も幅1030mm×高さ825mmという大きさで荷物の出し入れがしやすい。4人乗車時は小型車にかなわないものの、後席を倒せば1630mmの全高が効いてくる。深底ラゲッジアンダーボックスを使えば、背の高い荷物の収納も問題ない。バックドアは、今回から縦開きタイプに変更されている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
日本のダウンサイジング
実用面でもクオリティーの面でも、ムーヴカスタムは小型乗用車に限りなく迫る性能を有しており、いくつかの点では上回ってさえいる。自動車であるからには、「走る・曲がる・止まる」という基本性能が何よりも大事なのだが、そこでも軽だから仕方がないというようなエクスキューズを持ち出す必要は感じられなかった。
「コペン」では「D-Frame」というフレーム構造とモノコックを融合したような骨格を採用して高い剛性を確保したという触れ込みだったが、新しいムーヴは「D monocoque(Dモノコック)」をアピールしている。サイドアウターパネルにハイテン材を全面的に用いることで、強度を確保しつつ軽量化を実現したというわけだ。さらに取り付け部の剛性アップやショックアブソーバーの大径化を施した「D suspension(Dサスペンション)」で、操縦安定性と乗り心地を向上させたとうたっている。D assistも加えたDテクノロジーを前面に打ち出していて、マツダの「SKYACTIV」的な展開を狙っているようだ。
実際のところ、ムーヴカスタムの実力は侮りがたい。街なかでの取り回しがいいことは言うまでもなく、買い物用途の多いお母さんは不安を感じることなく運転できる。それは以前から軽自動車の美点であり、弱点は長距離ドライブでの疲労度にあるとされてきた。たまたま、今回の試乗では東京都内から富士スピードウェイまで急いで走っていかなければならない事情があった。いささか不安ではあったのだが、高速道路をひた走っても疲れを感じることはなかった。直進性に不安はなく、ピッチングに悩まされることもなく、ビジネスエクスプレスとして十分な性能を発揮したのだ。
ムーヴカスタムの中に、小型乗用車に比して決定的に劣った点を見いだすのは難しい。ダウンサイジングなんて言葉を使わなくても、日本には軽自動車があるではないか。ムーヴカスタムが今の軽自動車の本流であり、ユーザーの要望を最大限に取り入れた実用車であることは疑いのない事実だ。こういうデキのいいモデルに乗ると、軽自動車規格というものの意味がわからなくなってくる。おそらく、早晩日本の自動車行政には転換点がやってくるのだろう。日本が誇る軽自動車の技術を生かすためにも、適切な法制が必要になる。
「田舎の貧乏人が乗る軽自動車だから……」なんて暴言を吐く無知な国会議員に、世界に向けてどう戦略を練ればいいかという発想を期待するのは難しそうだ。政治家の皆さんはムーヴカスタムに試乗し、現在の軽自動車が到達した高みをぜひとも知っていただきたい。
(文=鈴木真人/写真=河野敦樹)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ダイハツ・ムーヴカスタムRS“ハイパーSA”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1630mm
ホイールベース:2455mm
車重:850kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6400rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/3200rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:27.4km/リッター(JC08モード)
価格:166万8600円/テスト車=198万5213円
オプション装備:純正ナビ装着用アップグレードパック(2万1600円)/2トーンカラー塗装(5万4000円) ※以下、販売店オプション 8インチメモリーナビ(19万8180円)/ETC車載器(1万7280円)/カーペットマット<高機能タイプ、グレー>(2万5553円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1090km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:396.4km
使用燃料:26.8リッター
参考燃費:14.8km/リッター(満タン法)/14.8km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.19 ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
NEW
アウディA5 TDIクワトロ150kW(4WD/7AT)【試乗記】
2026.1.21試乗記「アウディA5」の2リッターディーゼルモデルが登場。ただでさえトルクフルなエンジンに高度な制御を自慢とするマイルドハイブリッドが組み合わされたリッチなパワートレインを搭載している。260km余りをドライブした印象をリポートする。 -
NEW
働くクルマは長生きだ! 50年以上続く車名がゴロゴロある商用車の世界
2026.1.21デイリーコラム乗用車ではトヨタの「クラウン」「カローラ」、日産の「スカイライン」などが長く続く車名として知られるが、実は商用車の世界にはこれらと同等のご長寿モデルが数多く存在している。生涯現役時代の今にふさわしい働くクルマの世界を見てみよう。 -
NEW
第99回:「トヨタGR GT」と「レクサスLFAコンセプト」(後編) ―対極的な2台の造形からスポーツカーの教義を考える―
2026.1.21カーデザイン曼荼羅コンポーネントを共用するのに、その形は全然違う! トヨタの次世代スーパースポーツ「トヨタGR GT」と「レクサスLFAコンセプト」のデザインを、有識者と比較検証。突き抜けて武骨なGR GTか、優雅で知的なLFAか、あなたならどちらを選ぶ? -
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。






























