第292回:ポルシェの今とこれから ~ラインナップ急拡大の真相に迫る
2015.04.20 エディターから一言「911」をはじめとするスポーツカーを手がけるメーカーとして知られるポルシェ。一方で、SUVや4ドアサルーンなどのニューモデルを次々と送り出し、各モデルのバリエーションの拡大にも余念がない。ドイツの老舗ブランドの狙いはどこにあるのか? そしてこの先、どんな展開が待っているのか? モータージャーナリスト、河村康彦がリポートする。
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たじろぐほどの新車攻勢
発売後、ほんの1年の間でも新たなニュースが途切れれば、たちまち話題性を失い魅力も低下してしまう、やっかいな存在――それがスポーツカーだ。
そんな性質を理解しているからこそ、ポルシェもフェラーリも決して大規模なメーカーではないのに、メジャーなモーターショーでは必ず新たなモデルを発表し続けてきた。
スポーツカーを実際に購入する人など、世の中でほんのひと握り。そんな人々の手元に行き渡った段階から、さらに需要の掘り起こしを継続させるためには――彼ら既納客を再びターゲットとしながら、買い換えの動機を昂(たかぶ)らせる新たな仕掛けを組み込んだニューモデルを提案する以外に、なかなか手だてはない。それが“スポーツカーの商売”なのだ。
……と、そんな理屈は分かった上でも、ポルシェのこのところのニューモデル攻勢には、ちょっとたじろぐほどだ。
ブランドの“魂”である911のバリエーション拡大に加え、「GTS」だ、「GT4」だ、「スパイダー」だと、このところ喧(かまびす)しいのがミドシップレンジにおける展開である。さらに、「カイエン」に「パナメーラ」、そして、最も若いモデルである「マカン」のバリエーション拡充も上乗せされるから、結果として、「年がら年中、ニューモデルが発表・発売されている」というイメージが強く印象付けられる。
揺らぐポルシェのヒエラルキー
ここ1年ほどの間に発表された最新ポルシェ車の中にあって、特に大きな話題を集めたのが「ケイマンGT4」というモデルであったという点に、異論のある人は少ないだろう。
「911 GT3」と同様に、同社の研究所内のモータースポーツ部門がチューニングを手がけたボディーおよびシャシーに、「911カレラS」用の3.8リッターフラット6エンジンを搭載。このモデル、当然シリーズ最高のパフォーマンスを発揮する。
それどころか、ドイツのニュルブルクリンクにおいて、911カレラSや従来型の911 GT3と同等のラップタイムをたたき出すというのだから、これまで何かにつけてアピールされてきた「911との上下関係」を、自らないがしろにするモデルであるようにも受け取れる。
いや、冷静に考えれば、ケイマンGT4の速さは、実際には現行カレラSのそれを上回っていると評されるべきだ。
なぜならば、ケイマンGT4に用意をされるのは、変速時の駆動力途絶が構造上避けられないMTのみ。一方で、「同等の速さ」とされる現行911カレラSのデータは、シームレスな変速を実現し、サーキットでのラップタイムではMT仕様のそれを凌駕(りょうが)することが明らかになって久しい、PDK搭載車両のものなのだから。
「4気筒の新型」は秒読み段階!?
かくして、「ついに2ドアモデルの“社内下克上”の始まりか!」という印象すら漂うケイマンGT4の存在には、実はもうひとつ、ポルシェの将来的なプロジェクトにとって重要な伏線が秘められていると想像できる。
それは、このモデルと先日発表された新型「ボクスター スパイダー」が、共に「自然吸気の水平対向6気筒エンジンを搭載する、最後のミドシップモデルになるのではないか?」ということだ。
MRのモデルレンジについては、「この先、ターボ付きのフラット4エンジンが搭載される」というのは、もはや“公然の秘密”。 実際、ポルシェの開発ドライバーでもありブランドアンバサダーでもあるヴァルター・ロール氏からは、2年以上前に開催されたとあるイベントで同席した際に、「330psと37.7kgm(370Nm)を発する2.5リッターの水平対向4気筒ターボエンジンを開発中なのです」というコメントを得ているのである。
ケイマンGT4やボクスター スパイダーのローンチは、「自然吸気エンジンも、ポルシェの大切な財産です」という開発のトップ、ヴォルフガング・ハッツ氏の発言を裏打ちする一方で、いよいよ前出の“ダウンサイジング4気筒ユニット”の登場が間近である可能性を示唆しているようにも思える。
「インテリジェントパフォーマンス」を掲げるポルシェにとって、さらなるCO2排出量の削減=燃費改善が変わらぬ目標であるのは間違いない。だからこそ、燃費向上よりも速さにフォーカスした、GT4とスパイダーの“この期に及んでの登場”が、逆に4気筒ターボモデルのデビューが秒読み段階へと入ったことを想起させる……というのは、考え過ぎというものだろうか?
マーケティングがもたらす「成功のサイクル」
ポルシェが「たゆまぬ技術開発を続ける頭脳集団」としての一面を見せる一方で、先々の商品開発計画を綿密に練りあげ、それに適したモデルを適切なタイミングでリリースする「マーケティングカンパニー」としての側面も顕著である点は、このメーカーの実像を知る上で非常に興味深い。
“空冷時代”からの積年の思いであった4ドアモデルの上市を、2002年のカイエンのローンチによって実現。その後、パナメーラ、そしてマカンと追加されたブランニューモデルを全てヒットさせることで、かつて見られた“911のみの一本足打法”から、4ドアモデルで過半数の収益を上げる構造へと体質改善を果たしたのが現在のポルシェだ。
そこで得られた大きな利益を、より魅力的な2ドアスポーツカーの開発へと注ぎ込むことで、さらに高いブランドイメージを獲得するという“好循環”につなげることにも成功。こうした動きが、「史上最高の業績を更新」というニュースが連続して聞かれる要因になっているわけだ。
最近、全てのプロダクトを縦断する新たなブランディングを手がけ始めた点も興味深い。各モデルに設定されている「GTS」というグレードがその一例だ。
モデル間で統一された、コミュニケーションボディーカラーの設定やインテリア素材の採用、よりパワーを高めたエンジンの搭載などにより、ベースの「S」グレードに対し「より速く、より快適」という立ち位置を訴求するのがこのグレード。それは、あたかもフォルクスワーゲンの「GTI」のような、新たなグレードを軸としたブランド戦略であることは明白だ。
他を圧倒するハードウエアのポテンシャルを備える2ドアのピュアスポーツモデルでまずは際立つブランドイメージを構築し、それを利用して4ドアモデルで巨額の利益を上げる――そうしたサイクルがうまく回っているのが現在のポルシェである。
次々現れるニューモデルは、その全てが、そうしたサクセスストーリーを継続させていくための“小さな歯車”であるということなのだ。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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