第399回:自動運転は乗り物酔いを招く?
2015.05.22 マッキナ あらモーダ!乗り物酔い
自動車雑誌の編集記者出身のボクであるが、実は乗り物に強いほうではない。ボクが子供の頃、観光バスに乗ると、座席ポケットにビニール袋が差し込まれていたものだ。単なるゴミ袋のつもりだったのかもしれないが、最初から「このバスは酔いますヨ」と宣言されているようでつらかった。
今住んでいるイタリアでも、人のクルマに乗るときは酔わないように、さまざまな工夫をしている。例えば、座席は閉所感のない前席を選ぶ。特に2ドア車や3ドア車では絶対に後席には乗らない。タクシーでも前席主義を通す。イタリアのタクシーは、独りで乗るとき、助手席に乗ってもよい場合が多いので助かる。
また乗車する前は、「空腹すぎず、満腹すぎず」を心がけている。飲み物にも気を使う。イタリア人はアウトストラーダでサービスエリアに入るやいなや、クルマから降りて真っ先に一角に作られたバールに向かい、エスプレッソコーヒーをグイッと傾ける。しかし、ボクはといえばコーヒー類はなぜか酔う原因になるので、紅茶やジュースにしておく。
乗車中は、地図やカーナビ、スマートフォンはなるべく見ないようにする。どうしても見なければならないときは、目の高さまで上げて読み、酔わないようにしている。コマ図をひたすら見ているラリーのコ・ドライバーなどは、ボクにとって尊敬の対象である。
イタリア人の家に招かれた場合も要注意だ。日本人の標準からすると、想像を超える量の食事を振る舞われることが多い。同様に招かれた仲間から「ついでに送り迎えするぜ」という誘いをもらうときもあるが、人が運転するクルマに揺られるのは苦手なので、雨が降ってもやりが降っても自分で運転してゆく。
自律走行車の車内は快適なのか?
その乗り物酔いに関して面白い記事を発見した。「自律走行車は乗り物酔いを誘発しやすい」というものである。2015年4月8日の『デトロイト・フリープレス』が報じたミシガン大学輸送機関研究所の発表で、「自律走行車に乗ったアメリカ人成人は、6%から12%が、中程度もしくは強度の乗り物酔いを経験するであろう」としている。
同研究所のM・シヴァック氏とB・シュトル氏は、「動きの方向に対するコントロールをやめた段階、つまり運転をやめて乗員に徹した段階で、乗り物酔いから救済することは不可能になる」と説明する。そこに「自律走行に任せることへの恐怖も加わる」というのが理由だ。
自律走行といえば、5月初旬、富士重工業の吉永泰之社長は、安全運転支援システム「アイサイト」に関して、2020年までに高速道路上での、車線変更を含めた自動運転を可能にする機能を搭載する方針を明らかにした。それに先駆けてドイツのアウディは3月、2017年に市販する新型「アウディA8」に、自動運転機能を搭載すると発表している。
子供の頃、「交通の図鑑」の類いで見た未来のクルマが、あと数年で実現しようとしている。発売当初からボクの軽い財布で買える値段かは怪しいが、ボクは夢に賭けるべく、5年前に買ったクルマをその日まで乗り続けると決めて、貯金にはなるべく手をつけないようにしている。
両社の自動運転機能がどのレベルに達するのかわからないから、以下はあくまでもボク個人の話としてお読みいただきたい。
実は、今回のミシガン大学の研究所によるリポート記事を読む前から「自分は大丈夫か」と内心思っていたのも事実だ。まず、自律走行のコンセプトカーの典型的な広報写真を見ると、ドライバーは大抵ステアリングを離して、本や新聞を読んでいたり、タブレットをいじっていたりする。前述のように車内読書がダメなボクがそんなまねをしたら乗り物酔い必至であろう。
また自律走行機能搭載のコンセプトカーでは、前席を後方にくるっと回転させて、後席と対座できるようになっていることが多い。たしかにショーカーとしてのインパクトはあるだろう。だが、挙動が予測しにくい進行方向と逆に座ると酔いやすいことを、ロンドンタクシーの後ろ向きシートで経験済みのボクとしては、これまた不安である。といって、回転させずひとりだけ前向きに座っていたら、同乗者との和やかムードを壊しそうだ。
それ以前に、日ごろの運転の中でも、初期の自律走行車は「夢のように快適」とまではいかないのでは? と予想している。例えば、クルーズコントロールを使って巡行しているときだ。普通にアクセルペダルを使っている場合は、気持ちよく凸凹を乗り越えられるよう、ドライバーが路面状況を見ながら踏み加減を無意識に調節している。いっぽうクルーズコントロールではそれができないので、道がどんなに荒れていようと一定速度で突っ込んでいく。それから思うに、自律走行車も常に一定速度で走り続ければ、決して快適ではないだろう。
イタリアの道路の場合、さらに深刻だ。予算などの関係で補修が追いつかないことから、かなり路面が荒れている。スイスなど隣国から国境を越えて戻った途端、いきなりボコボコになって泣けてくる。スクーターの転倒事故もよくある。マンホールがある場所のへこみも、かなり大きい。初期の自律走行車がイタリアの劣悪な道路になじむか、今から不安だ。
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イタリアでは険しい道のり
前述のミシガン大学のリポートに話を戻せば、自動車メーカーにとっては、人体をより知ることこそ、乗り物酔いの少ない自律走行車を開発できる鍵だと示唆している。具体的には「動きとバランスをつかさどる器官、内耳の前庭迷路(三半規管と耳石器)に起こる刺激と、目で見える景色などの視覚刺激との差」そして「人間がもつ、動く方向を予知する能力」の研究である。
さらに、乗り物酔いを軽くする手段として、完全に横たわっても乗れるようにしたり、前方の風景を投影するビデオスクリーンなどの助けも借りて、外の風景をできる限り眺められるようにすることも大切と述べている。
ボクが考えるに、最も身近な解決方法としては、現行「メルセデス・ベンツSクラス」に搭載されているマジックボディーコントロールだろう。ステレオカメラで最大15m前方の路面状況をスキャンし、事前にサスペンションを調節するシステムである。そのようなデバイスを進化させれば、「自律走行車の乗り物酔い」の克服は可能なはずだ。
もちろん、自律走行車はいきなり完全自動から始まるのではなく、限られた道路環境で使用できるところから始まって、各国の法令などに準拠しながら、徐々に使用できる状況が広がってゆくことになる。したがって、あらゆる一般道で使えるようになるには、しばらくの時間を要するだろう。
ボクの住むイタリアでは、前述のアウトストラーダ同様、一般道でも自律走行車を困らせてしまうような事象が少なくない。少し前、フィレンツェの知人宅の近くでは、一方通行の進行方向がいきなり逆になった。伝統行事が多いこの国ゆえ、四季おりおりの地域の祭りによる交通規制も少なくない。
臨時標識も常日ごろから林立する。少し前、安上がりだからだろう、ついに段ボールでできた標識も発見した。イタリア仕様の自律走行車には、“紙標識”を認識する技術も不可欠になるかもしれない。
そんなジョークを考えていたら先月、わが家のアパルタメントの地下駐車場で照明が一斉に切れて真っ暗になってしまった。建物全体の管理業者の料金未払いで送電が止められてしまったのが原因だった。家主によると、業者は音信不通になってしまい、解決のめどが立たないという。
やれやれ、自律走行車以前に、電源確保が必要な電気自動車の導入も、イタリアでは簡単にはいかなそうだ。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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