ホンダ・シャトル ハイブリッドZ(FF/7AT)
先駆けワゴンの現在形 2015.07.07 試乗記 「フィット」の名前を捨て、独り立ちした「シャトル」。フィットとの乗り味、使い勝手の違いは? ワゴンならではの魅力を最上級グレードで探った。“往復便”の意味を持つステーションワゴン
shuttleはもともと機織りで縦糸に横糸を通す杼(ひ)という部品を指す言葉で、それが転じて往復を繰り返すものを意味するようになったそうだ。シャトルバスやスペースシャトルは、人や物を運ぶ往復便である。ホンダにおいては少し違う意味を持ち、小型のステーションワゴンを表している。最初に使われたのは1983年に誕生した「シビックシャトル」だった。
コンパクトカーの「フィット」に追加される形で2011年に「フィットシャトル」としてこの名前が復活し、今回フィットが取れてただの「シャトル」になった。フィットがベースになっているのはもちろんだが、シビックシャトルのDNAを受け継ぐモデルでもあるという。1980年代後半からのRVブームでセダン人気が失速した時、1994年の「オデッセイ」登場までの苦しい時期にシビックシャトルの存在は大きかった。ショートワゴンやセミトールワゴンの先駆けで、ホンダにとっては思い入れのある名前なのだろう。
ステーションワゴンを表す名前は自動車メーカーによって独自のものがあり、アウディは「アバント」、BMWは「ツーリング」と称している。フランス車では、「ブレーク」という言葉が使われていた。ホンダにはシャトルよりもう少し大型の「エアロデッキ」もあったが、今はラインナップされていない。今回のシャトルは「Life Create Wagon」がコンセプトで、荷室の広さと上質な走りが売りなのだという。昨今あまり勢いのないワゴン市場ではあるが、新たな魅力を示せるのだろうか。
荷室容量では優位に
ワゴン然としたスタイルではない。長めのフィットという印象だ。違和感がない代わりにインパクトも少ないが、ホンダのデザイン文法にのっとったスタイリッシュな仕上がりである。試乗車は最上級グレードの「Z」だったので、ルーフレールが付いていた。
直接的なライバルは「トヨタ・カローラ フィールダー」ということになるのだろう。試乗中にたまたま高速道路のサービスエリアでカローラ フィールダーの隣に駐車したのだが、並べて見ると同じジャンルという感じがしない。シャトルのほうが35mm背が高くて300mm長く、一回り大きく見える。大きさの差はてきめんに荷室容量に表れ、フィールダーの407リッターに対してシャトルは540リッターである。ちなみに、フィットは363リッター、フィットハイブリッドは314リッターだ。
シャトルとカローラ フィールダーはともに1.5リッター直列4気筒エンジンを使ったハイブリッドのパワーユニットを持っている。ハイブリッドモデルは上級グレードという位置づけになる。燃費は34.0km/リッターのシャトルが若干のアドバンテージを持つが、試乗車は燃費仕様車ではないのでJC08モードの数字は29.6km/リッターだった。カローラ フィールダーのCVTに対して、シャトルはデュアルクラッチ・トランスミッション(DCT)を採用している。
リチウムイオンバッテリーを使用したハイブリッドシステムとDCTの組み合わせは、低燃費とハイパワーを両立しているとうたっている。フィットや「ヴェゼル」でも使われているスポーツハイブリッド i-DCDで、ホンダのイチ押しパワーユニットだ。
EV感が強い低速走行
i-DCDはモーターがトランスミッションの1速、3速、5速、7速用の軸に直結されているという凝った構造で、エンジンとモーターが独立している。複雑であるがゆえに制御が難しく、初期にトラブルを引き起こしてしまったのはご承知のとおりだ。
シャトルの発進はとても静かで、コンパクトワゴンらしからぬ重厚感がある。軽快さが際立っていた初代「インサイト」からすると正反対だ。DCTは発進が得意ではないとされるが、インサイトのIMAと違ってi-DCDはEV走行ができる。モーターで走るのであるから、ギクシャクするはずがない。
低速で走行していると、EV感が強い。エンジンがかかってからも、印象は同じだ。アクセルペダルを離すと、急激に減速する。思ったよりも手前で止まってしまうのだ。「BMW i3」は意図的にそういう味付けをしていて、ブレーキを使わずにスピードをコントロールできた。シャトルはそこまで割り切った設定にはなっておらず、停止するためにはブレーキも必要だ。この感覚に慣れるには、しばらく時間を要した。
高速走行では、印象がぐんと良くなった。重厚感はそのままに、乗り心地の良さはなかなかのレベルだ。新採用の振幅感応型ダンパーは、細かな振動を吸収しながらコーナリング時には減衰力を高めて操縦安定性に貢献するという。後席にも乗ってみたが、居心地のいい空間だった。
汚れ物と大切な物を分けて収納
ワゴンであるからには、荷物の積載能力が大きな魅力となる。リアハッチを開けた時の開口部は大きく、地上高は54cmだから荷物の出し入れもやりやすそうだ。床下には30リッターの収納スペースがあり、掃除がしやすい仕様なので、ぬれたり汚れたりしたものも置ける。土が付いた野菜、おみやげの海産物などを持ち帰るのに役立つだろう。
逆の需要に応えるのが新たに装備されたマルチユースバスケットだ。後席のシートバック上部に畳んだ形で取り付けられていて、引き出すとちょっとしたものが載せられる仕組みだ。こちらは床に直接置きたくない品物を収納するのに使える。訪問先に持っていくお菓子とかを入れるのだろうか。入れるべきものを思いつかないが、使っているうちに便利さがわかるのかもしれない。
後席を倒せば、荷室長は184cmとなる。これだけのスペースがあれば、IKEAに行っても余裕で買い物ができるだろう。後席のシートを跳ね上げれば、荷室とは別の収納スペースが出現する。背の高い観葉植物を置けるということだが、使う機会がどれだけあるかはわからない。
広さ自慢のフィットがベースだから、シャトルの収納力は高い。5ナンバーミニバンならもっと荷物を詰めるし人もたくさん乗れるが、そこまでは必要ないという人も多いはずだ。立体駐車場にもギリギリ入るし、使い勝手を考えると悪くない選択だ。ただ、それを言ってしまうとほとんどの場合はフィットで間に合うわけで……。
ハイデッキセンターコンソールが装備されていたり、インパネがピアノブラックで飾られていたり、シャトルのインテリアはフィットとの差別化が図られている。試乗車には、木目調ガーニッシュのパネルも使われていた。ベース車の出来がいいだけに、商品力を高めるのも一苦労なのだ。
(文=鈴木真人/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
ホンダ・シャトル ハイブリッドZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4400×1695×1545mm
ホイールベース:2530mm
車重:1240kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:110ps(81kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:13.7kgm(134Nm)/5000rpm
モーター最高出力:29.5ps(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:16.3kgm(160Nm)/0-1313rpm
システム最高出力:137ps(101kW)
システム最大トルク:17.3kgm(170Nm)
タイヤ:(前)185/55R16 83V(後)185/55R16 83V(ブリヂストン・トランザER370)
燃費:29.6km/リッター(JC08モード)
価格:238万円/テスト車=259万8057円
オプション装備:ボディーカラー<ミッドナイトブルービーム・メタリック>(3万2400円)/Hondaインターナビ+リンクアップフリー+ETC車載器(18万5657円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1500km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:281km
使用燃料:15.5リッター
参考燃費:18.1km/リッター(満タン法)/18.3km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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