第3回:XC60 D4をハイブリッド車と乗り比べる
これぞベストマッチ 2015.07.30 徹底検証! ボルボのディーゼル 新世代クリーンディーゼルエンジンを搭載する「ボルボXC60 D4」に試乗。優れた環境性能を強みとするハイブリッドSUV「レクサスNX300h」と乗り比べ、このクルマならではの持ち味を確かめた。変わりゆくSUV
SUVがパワートレイン競争の時代に入っていることを、実感させられる。目の前にあるのは、ディーゼルの「ボルボXC60 D4 SE」と、ハイブリッドの「レクサスNX300h“Fスポーツ”」。新しい時代がきたのだ。かつてSUVといえば、多気筒(6気筒以上)と大排気量で勝負、という側面があった。しかしそれは過去の話になりつつあり、いまは別の意味での“競争”が始まっているのである。
昨今のパワートレインに求められるものは、CO2排出量の少なさと、燃費効率のよさ。車両の優秀性をアピールする際には、こうした点が前面に出される。そこで試乗のポイントとしても、パワートレインとのマッチングがいかにうまく行われているかをチェックすることになる。
それに加えて、ボルボXC60の一つのセリングポイントとなっているスタイリッシュさも検討するなら、比較対象とすべき最右翼は、レクサスNXだろう。前者はボディーの“厚み”を強く意識させながら、傾斜角をゆるやかにして少々クーペライクな印象をもたせたテールゲートを備える。後者は側面から見ると、さらにスポーティーで、強いキャラクターが際立つ。
機能一点張りでなく、イメージ訴求の強いプロダクトを、「ライフスタイル型」と言うことがある。ボルボもレクサスも、荷室容量やオフロードの走破性というより、着座位置の高さによる運転のしやすさ、守られ感、そして軽快さなどが注目されるポイントである。これらのクルマに興味を持つ人が求めるライフスタイルが「日常的なパートナーとしての優秀性」だとしたら、この2台は、燃費と使い勝手をバランスさせたパワートレインを含めて、いいライバル関係にあるといえる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
考え抜かれたパワートレイン
ボルボのディーゼルターボエンジンの出来のよさは、かねてより、海外での試乗の機会で感心させられてきた。2リッター4気筒という基本は共通のまま、最高出力と最大トルクの異なる「D2」「D3」、そして今回日本に導入される「D4」、さらにハイパワーな「D5」まで、バリエーション豊かに用意されている。ユーザーにとってうれしいことだ。
実際にXC60 D4 SEに乗ってみると、「6気筒ガソリンエンジンと同等のトルク性能」というボルボのうたい文句に納得する。これまでボルボが使っていた直6ガソリンターボエンジンは、3リッターの排気量で44.9kgm(440Nm)の最大トルクを得ていたが、D4ディーゼルは2リッター4気筒ながら40.8kgm(400Nm)の最大トルクを発生する。ひとことでいうと、余裕あるボディーに対して十分以上の力を持っているのだ。
ボルボの3リッター直6ユニットは、回転を上げていった時の官能性もあり、自分好みのエンジンではあったが、既に終了が決まっている。5気筒以上は生産しないというボルボの方針ゆえだ。でも、ボルボは4気筒ユニットのクオリティーを高めることに心血を注いでいる様子で、ガソリンの2リッター「T6」(かつては6気筒の意味だったが、いまは出力で数字の大きさが決まる)も大変すばらしい。ディーゼルも同様で、ごく低回転域からのトルクの出方はナチュラルだし、加速もスムーズ。1.8トンのXC60のボディーに対してなんら不足を感じさせない。
燃費重視の「ECO+」からエンジンのレスポンスをよくする「SPORT」までドライブモードが選択できるのも、ドライバーオリエンテッドで好ましい。形はSUVでもこのディーゼルモデルは前輪駆動と割り切り、そのぶん、軽快さに振ったコンセプトも、運転してみると正解のように思える。
アイドリングを含めて不快な振動はなく、500万円を超えるこのクルマの洗練性を損なうことは皆無だ。乗員はガソリンだかディーゼルだか、まずわからないだろう。8段オートマチック変速機の上手な手助けもあるかもしれないが、1500rpmから2000rpmを少し超えるあたりの、それほど広くない領域を使うだけで、クルマは自在に動く。フラットトルクの特性を追求しすぎると、時としてつまらないクルマになることがあるけれど、XC60 D4 SEにはよく合っている。ていねいにチューニングされているという印象である。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
燃費の勝負は環境次第
トルキーさが身上となるボルボXC60 D4 SEのディーゼルユニットと比較すると、レクサスNX300hのパワートレインは、走りだしのスムーズさが真骨頂だろう。2.5リッター直列4気筒ガソリンエンジンに電気モーターを組み合わせたハイブリッドシステムは熟成された感があり、電気モーターとエンジンの移行は、注意深く観察したところで、計器以外で判断するのは難しいほどだ。
実際、いきなり大きなトルクを出すのでなく、加速していくにつれて力が出るよう、比較的ゆるやかなトルクカーブを描くよう設定していることがうたわれる。それがレクサスの考える洗練性だというが、たしかにそれで力不足感は一切ない。
欧州の(プラグイン)ハイブリッドは主として、電気モーターだけでバッテリー残量がぎりぎりになるまで走らせて、そのあとエンジンを始動させるタイプだ。仮に40kmをEVモードでカバーするなら、急激な加速時以外は、100km/hでも電気モーターだけで走る。NX300hは、もう少しこまめにモーターとエンジンが切り替わる。
27.5kgm(270Nm)ものトルクを出す電気モーターを使っていながら、パワー感を前面に押し出さず、ナチュラルさにこだわるのがNX300hだ。
ハイブリッドシステムのデメリットとして、高速走行だとエンジンがずっと回りっぱなしで、動いていないモーターや専用バッテリーなどの重量が燃費に悪影響を与える点が挙げられる。テスト中のXC60 D4 SEの燃費は、市街地と高速道路を合わせて130kmほど走ったミックスで13.6km/リッター。かたやNX300hは、やや市街地が多かったものの、ほぼ同じ区間で11.5km/リッターを記録した。特に燃費運転を心がけなかった、一般的な走行の結果としては、ボルボの数値は良好だろう。このあたりは、使い勝手で決めるといい。ディーゼルが普及している欧州でも市街地を中心に乗るユーザーにはハイブリッドを薦めるのと同じように考えればいいかもしれない。
エンジンがクルマを引き立てる
スタイリングでは、先に触れたように、ボルボXC60 D4 SEはクーペ的な要素を持っているものの、重厚な印象が強い。理詰めなデザインで、キャラクターラインなどで“遊んでいる”こともない。好対照なのが、レクサスNX300hだ。これでもかというぐらい、線と面を自由に扱い、大胆な造形を展開する。とりわけグリルを中心としたフロントまわりからは、ボルボとはまったく異なるデザイン言語を持つクルマと知れる。
新しさという点では、圧倒的にNX300hが強い。例えば白の塗色の車体では、ウィンドウを含めて、グリルやホイールアーチのトリミングなどの黒色が効果的な差し色となっている。そしてキャラクターラインは疾走感を演出し、ユーザーのスポーティー志向が明確にわかるのである。批判的な人は、NX300hのスタイリングを「煩雑」とするが、日本文化の中で育った人には、独特のパワー感が望ましいキャラクターと映るだろう。
XC60 D4 SEのスタイリングは、クリーンで、明快。塊感で力強さを出すというコンセプトを採用している。ボルボのデザインコンセプトはいわば伝統的なもので、レクサスや最近のメルセデスとは一線を画している。そして、その恩恵は、室内の広々感に反映されている。実際、後席のレッグルームはたっぷりとられているし、荷室容量も標準状態で495リッターとまずまずのボリュームである。
一方レクサスの美点は、前席乗員を取り囲むように造形されたコックピットと、使われている素材の質感の高さにある。とりわけインフォテインメントシステムに重点を置いたかのような、「リモートタッチ」と呼ばれる操作デバイスも、カーナビゲーションや、オーディオを日常的に使うユーザーにはしっくりくるものだ。それに対してボルボは、レイアウト優先。センターコンソール上に、整然とプッシュボタンが並ぶ。見た目は美しいが、走行中のブラインドタッチという点ではレクサスのほうが使いやすい。
個々に見ていくと、かなり異なった個性をもつ2台で、白黒つけるのは難しい。それでも、クルマのコンセプトに合ったパワーユニットを選んでいるという点では、ボルボXC60 D4に分があるように思える。スムーズな走りを追求している感のあるレクサスNXは、本当なら(ラインナップされていないが)直列6気筒エンジンのように回転マナーのいいユニットを積みたかったのでは、と考えてしまう。日常的にあらゆる場面で使われることが想定されるボルボでは、大型ボディーでも燃費もそこそこよく、低速域から高速まで広い領域をカバーする、スーパー実用的なD4エンジンはベストマッチだ(D5もよさそうだけれど)。
自動車はエンジンだ、とは昔から言われることだけれど、ボルボXC60 D4 SEの試乗を通して、あらためてそれが正論だと感じた。このクルマの印象をよくしてくれる、すぐれたパワーユニットだからだ。
(文=小川フミオ/写真=郡大二郎)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ボルボXC60 D4 SE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4645×1890×1715mm
ホイールベース:2775mm
車重:1810kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼルターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190ps(140kW)/4250rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)235/60R18 103V/(後)235/60R18 103V(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
燃費:18.6km/リッター(JC08モード)
価格:599万円/テスト車=695万6000円
オプション装備:電動パノラマガラスルーフ(20万6000円)/メタリックペイント(8万3000円)/FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(15万円)/モダンウッドパネル(4万7000円)/プレミアムサウンドオーディオシステム/マルチメディア(12万円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:799km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:126.8km
使用燃料:9.3リッター
参考燃費:13.6km/リッター(満タン法)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
レクサスNX300h“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4630×1845×1645mm
ホイールベース:2660mm
車重:1810kg
駆動方式:FF
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:152ps(112kW)/5700rpm
エンジン最大トルク:21.0kgm(206Nm)/4400-4800rpm
モーター最高出力:143ps(105kW)
モーター最大トルク:27.5kgm(270Nm)
タイヤ:(前)235/55R18 100V/(後)235/55R18 100V(ブリヂストン・デューラーH/L)
燃費:19.8km/リッター(JC08モード)
価格:556万円/テスト車=645万7480円
オプション装備:プリクラッシュセーフティシステム+レーダークルーズコントロール(6万4800円)/クリアランスソナー&バックソナー+パノラミックビューモニター+ブラインドスポットモニター(15万1200円)/レーンディパーチャーアラート+オートマチックハイビーム+カラードヘッドアップディスプレイ(16万3080円)/おくだけ充電(2万3760円)/オーナメントパネル 縞杢(9万3960円)/後席6:4分割可倒式シート<電動リクライニング&電動格納機能>(5万4000円)/パワーバックドア(5万4000円)/アクセサリーコンセント<AC100V・100Wセンターコンソール後部>(8640円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(25万4880円)/寒冷地仕様(2万9160円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:5597km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:132.3km
使用燃料:11.5リッター
参考燃費:11.5km/リッター(満タン法)

小川 フミオ
-
第9回:最新のクリーンディーゼルを支える日本の技術 2015.8.25 ボルボが誇る最新のクリーンディーゼルエンジン搭載モデル。今回は、その走りに貢献する日本の技術に注目。「i-ART」と呼ばれる先進の燃料噴射システムを開発したデンソーと、スムーズで高効率な8段ATを提供するアイシン・エィ・ダブリュの開発者に話を聞いた。
-
第8回:専門家が語る「クリーンディーゼル」 2015.8.13 環境とエネルギー戦略の専門家である金谷年展氏が、ボルボの最新ディーゼルモデル「V40 D4 SE」に試乗。クリーンディーゼルをさらに普及させるための課題と、今日の日本において、ディーゼルを選ぶ意義について語ってもらった。
-
第7回:エコランでV40 D4の燃費を確かめる 2015.8.10 すぐれた燃費性能がうたわれる、ボルボのクリーンディーゼル搭載車。では、実際に満タン・無給油で、どれだけの距離を走れるのか? “ミスター・テスター”笹目二朗が、「V40 D4 SE」でテストした。
-
第6回:XC60 D4による金沢・能登ドライブを写真で紹介 2015.8.7 ディーゼル車とガソリン車、2台の「ボルボXC60」に乗って、東京から盛夏の金沢、能登へ。ロングドライブの様子を、写真とともにリポートする。
-
第5回:ガソリン車とどう違う? XC60 D4比較試乗 2015.8.6 クリーンディーゼル「D4」エンジンが搭載されるボルボ5車種の中でも、特にディーゼルエンジンとの相性がいいといわれる「XC60 D4」。その走りや燃費を確かめるべく、従来のガソリン車「XC60 T5」とともに、1500kmのロングドライブを実施した。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。