第414回:「ダイハツ・ミラジーノ」が第2の「日産フィガロ」になる?
2015.09.04 マッキナ あらモーダ!早くも2年半
2013年1月末にダイハツがヨーロッパでの新車販売を終了してから、早くも2年半がたった。2015年3月のジュネーブモーターショーでは、かつてダイハツブースがあったところで韓国のサンヨン(双竜)自動車が何事もなかったかのように展示を行っていた。気がつけば、わが街シエナにあったダイハツ販売店も、従来併売していたトヨタにその展示スペースを譲っていた。
ただし、ダイハツ・イタリア社による保証期間とアフターサービスの約束は守られているようだ。前述の旧ダイハツディーラーの駐車場には、新車販売を終了した今も、修理ブースのお客さま専用としてトヨタとともにダイハツのロゴが記されている。
意外に根強い人気
本連載第177回で記したように、イタリアにおいて末期のダイハツは、「テリオス」を中心に好評を博していた。郊外に住む人々にとって小回りが利き、かつ狩猟をはじめとするレジャーにもってこいだったのだ。
一方もうひとつ、今もイタリアで意外に見かけるダイハツ車といえば「トレビス」だ。トレビスとは2代目「ミラジーノ」の欧州仕様で、660ccの代わりにリッターエンジンを搭載している。
イタリアの中古車検索サイトを調べてみる。
2007年型の走行距離8万kmのAT仕様が、2000ユーロ(約27万円)で売りに出されている。他車の相場をみると、「ランチア・イプシロン」には及ばないが、「フィアット・パンダ」と同等、もしくはそれ以上である。売り主を見て驚いた。ミラノのBMWセンター「BMW MILANO」である。
一方最高額での出品は、ローマの個人が売りに出している走行距離2万5000kmの車両で、なんと1万2000ユーロ(約163万円)のプライスタグが付けられている。
メイド・イン・ジャパンの品質、街乗りに便利なよくできたAT、そしてあまり走っていないという希少性が、人気を後押ししているのだろう。
「カシオ」「トンボ」になっていたかも?
ついに先日は、イタリア屈指のファッションストリートとして知られるミラノのモンテナポレオーネ通りで、エルメスの前にたたずむトレビスを発見した。ナンバープレートの台座に記された地元ディーラー名からして、オーナーは、このかいわいで働くファッションピープル、もしくは常連客の可能性がある。かつて絶版となった「日産フィガロ」がロンドンで静かなブームとなったのを思い出す光景だった。
ちなみにイタリアで、「カシオ」はスイスの名門に並ぶ人気時計ブランドであり、また、高級百貨店や文房具店には「トンボ」製品が陳列されていることが少なくない。前者は「G-SHOCK」シリーズ、後者はデザインコンシャスな文具シリーズが評価されているのだ。おかげで、ブランドイメージは日本国内より明らかに高い。
もちろん、ダイハツの欧州市場での販売終了と、それに代わる新興国市場重視の決定は、長期的に見れば正しいのだろう。しかし、もしダイハツが欧州で販売を継続していたら、自動車界のカシオやトンボになっていたのではないか? そう想像して楽しんでいる今日このごろである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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