ホンダ・シビック タイプR(FF/6MT)
今度は妻も乗ってくれる、はず 2015.10.28 試乗記 FF量産車最速(!)を豪語する新型「ホンダ・シビック タイプR」に試乗。その絶対性能は? それにもまして気になる日常性能は? ホンダの北海道・鷹栖(たかす)プルービンググラウンドからの第一報。スパルタンは昔の言葉
それはもう覚悟はしましたよ。何しろ久しぶりの“タイプR”である。思い出すのは、「NSX」「インテグラ」、そして「シビック」と3車種続けて登場した90年代のタイプRの荒々しさだ。私が乗ったことがある古今東西の車(ラリーカーからF1まで含めても)の中でも最高レベルのスパルタンな乗り心地、どんな小さな路面の凸凹もひとつ残らず拾い、四六時中ガシガシビリビリと情け容赦なく、洗濯機に入れられているかのように絶え間なく上下に揺すられる超硬派な足まわりだった。“ゆるスポ”とか“かるスポ”なんて言葉から果てしなく遠く離れて、鋭く速く曲がるためなら何を犠牲にしてもいい、と言わんばかりのハンドリングマシンが当時のホンダの「タイプR」だったのである。
ところが、通算5世代目に当たる新型シビック タイプRは、スルリと走りだして、そんな思い込みを見事に裏切ってくれた。2年前、ホンダの栃木研究所テストコースでほんの少しだけタイプRのプロトタイプを味見した時は、新型2リッター直噴ターボエンジンのパワフルさを確認できただけ、高速オーバル2周という試乗では乗り心地を確認する暇などなかったが、旭川郊外に位置する鷹栖プルービンググラウンドには、ヨーロッパまで出かけなくともヨーロッパで通用する車を作るために、ニュルブルクリンク北コースやヨーロッパの田舎道をそっくりそのまま再現したホンダ自慢のコースがある。とりわけハンドリングコースはニュルブルクリンク北コースのトリッキーな路面やコーナーを模したもので、スムーズで単純な曲率のサーキットとはわけが違う。下り坂のブレーキングゾーンに意図的に波打つ路面が敷いてあったり、横Gと縦Gが同時に襲って接地性や安定感を失わせるようなアップダウンのあるブラインドコーナーやジャンピングスポットも設けられており、大容量の逞(たくま)しい足まわりでなければ、たちまち音を上げてしまうチャレンジングなコースだ。
そんなギャップを高速で突破すると、当然ガーンとショックはくるが、ガシャーンとかドシャーンとか、抑えきれない入力がボディーのどこかに伝わって振動する濁った音はしない。欧州向けシビックをベースとしながらも、接着接合を追加したボディーはもとより効果的に補強材を加えたサブフレームやサスペンションアームに至るまで、きっちり頑健に鍛え上げられていることは間違いないようだ。
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750台の限定販売、申し込みはWebで
おっと走りだす前に、重要なことをまずお知らせしておかなければならない。日本向けのシビック タイプRは750台の限定販売である。2015年10月29日から11月23日までホームページで申し込みを受け付け、12月7日に発売となる。希望者多数の場合は抽選になるという。6MTのみで価格は428万円と従来に比べて一気に上昇したが、抽選にならないはずがない。この中途半端な台数はモデルライフと関係があると思われる。新型シビック タイプRは、2009年に限定2010台で発売(翌年さらに1500台が追加)された先代の「タイプRユーロ」と同じく英国スウィンドン工場製だが、米国ではすでに新型が発表されていることから分かるように、シビックはそろそろ次期型に切り替わろうというタイミングなのだ。タイプRは現行シビックのファイナルエディションという位置づけだろう。
ちなみに、750台という限定台数は7分50秒にひっかけたといううわさである。7分50秒63はニュルブルクリンク北コースで新型タイプRが記録したラップタイム、ホンダはこれでFF量産車最速の看板をルノーから奪取したのだ。こうやってラップタイムを堂々と主張するところには、最近ほとんど感じられなかったホンダの汗臭さが漂っているような気がする。日本仕様は速度リミッターが備わるが(高速周回路でメーター188km/hまで)、実力は最高速270km/h、0-100km/h加速5.7秒というもの。言うまでもなく史上最速のシビックである。
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洗練度も併せ持つ
新開発のDOHC VTEC 2リッター直噴ターボエンジンは310ps(228kW)/6500rpm、40.8kgm(400Nm)/2500-4500rpmを発生する。スロットル制御や電動パワーステアリング、4輪独立制御のザックス製電子制御ダンパーなどがサーキット走行向けに切り替わる“+R”ボタンを押してフルスロットルを与えれば1速、2速では文字通り瞬時に爆発的にレッドゾーンの始まる7000rpmまで吹け上がるいっぽう、おとなしく走ろうとすれば実に行儀よく扱いやすい一面も併せ持つ。チタン調アルミの丸いノブを持つシフトレバーは軽く気持ちよく操作できるし、クラッチも扱いづらさはみじんもない。また大きなGがかかったコーナリング中もシフトは正確であり、あらゆる部分がかっちり正確に位置決めされていることをうかがわせる。電動ウェイストゲートを採用し、レスポンスにも配慮したターボユニットにはアイドリングストップ機能も備わり、JC08モードでの燃費は13.0km/リッターという。
サスペンションの形式そのものは前マクファーソンストラット、後トーションビーム式とベース車と変わらないものの、中身はもちろん別物だ。フロントはストラットキャリアとは別にハブキャリア(これも強化型)上部にナックルを設け、仮想キングピン軸の角度を抑えた構造でデュアルアクシス・ストラットと称している。リアもトーションビームそのものの形状が異なるタフなタイプに変更されている。また、入力用ピニオンとは別に電動モーターによるアシストピニオンを設けたデュアルピニオンEPSも正確でしっかりしたステアリングフィールに貢献しているはずだ。これらによってタイトコーナーでフルパワーをかけた場合でもトルクステアは事実上感じ取れず、専用開発したという「コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト6」(235/35R19)が路面を削り取るような強力なトラクション性能を見せるのみ、そのまま加速してジリジリと膨らみかけるとアジャイルハンドリングアシスト(AHA)が巧妙に介入し、ラインを引き戻してくれるのが分かる。特に中高速コーナーでのリニアなコントロール性が頼もしい。
毎日乗れるタイプR
ホンダにしては意外というか、かつてのタイプRとは対照的に、新型はたとえ+Rスイッチを入れて全開走行中でもきちんとサスペンションがストロークしている感覚があるのがうれしい。もっとも、接地性を重視した足まわりでなければ起伏の激しいニュルブルクリンクでタイムを出すことは難しい。頑強なボディーと大容量の逞しい足まわりは高速安定性に不可欠なのだ。おかげで新型タイプRは、一般道でも十分に良好といえる乗り心地を身につけている。もちろん一般的な車に比べれば明確に引き締まっているが、これなら食後には絶対乗りたくないと家族にそっぽを向かれることはないはずだ。
英国工場製ということもあって最近標準化されつつある緊急ブレーキなどの予防安全装備がほとんど備わらないのが難点かもしれないが、ホンダファンにとっては久々の本格派であり、しかもサーキットまでの道中も快適に過ごせるタイプRである。750台が本当に欲しい人に届くのを願うばかりである。
(文=高平高輝/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
ホンダ・シビック タイプR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4390×1880×1460mm
ホイールベース:2600mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:310ps(228kW)/6500rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)235/35ZR19 91Y/(後)235/35ZR19 91Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト6)
燃費:13.0km/リッター(JC08モード)
価格:428万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
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