第320回:次世代技術の体感イベント「2015 Honda Meeting」(前編)
テストコースで新型「NSX」の走りを試す
2015.10.30
エディターから一言
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ホンダが、開発中の次世代技術を報道関係者向けに公開するイベント「2015 Honda Meeting」を、本田技術研究所の栃木プルービンググラウンドで開催。2016年春に発売される新型「NSX」や、開発中の前輪駆動(FF)車用10段自動変速機(10段AT)、3気筒直噴ターボエンジンなどの実力を、テストコースでの試乗を通して確かめた。
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人間の感性を重視して開発した新型「NSX」
今回のイベントの目玉は、2016年春にまず米国で発売する予定の新型NSXに、国内の報道関係者を初めて試乗させたことだろう。新型NSXはバンク角75度の新開発V型6気筒ツインターボエンジンを縦置きにミッドシップし、9段DCTと組み合わせる2人乗りのスポーツカーだ。エンジン直後に1基、フロント左右輪を駆動するために2基の、合計3基のモーターを備えるハイブリッド車で、フロントの駆動力を左右独立して制御することで、自在なハンドリング性能を実現する「SPORT-HYBRID SH-AWD」を構成している。この構成は、ちょうど「レジェンド」に搭載するハイブリッドシステムの前後を入れ替えたようなもので、実際、搭載位置は前後が逆になっているものの、3基のモーターはレジェンドと共有している。
エンジンの出力は500hp、モーターの出力は後輪用が47hp、前輪用が36hp×2と発表されており、これを英馬力でkW換算すると、それぞれ373kW、35kW、27kWとなる。モーターの出力はレジェンド用と同一だ。モーターとエンジンを合わせたシステム出力はこれらの単純な合計にはならないが573hp(427kW)と発表されており、この値は、競合車種と目されている「日産GT-R」の404kW、「ポルシェ911ターボS」の412kWを上回る。
また、新型NSXはモーターの応答性の高さを生かした「ゼロ・ディレイ(遅れゼロ)」の運動性能が売り物の一つで、0-60mph(96.5km/h)加速は2.7秒と、これらの競合車種を上回るという。最高速度は190マイル/h(305.7km/h)と発表されている。こうしたスペック以上にNSXの開発で重視したのが「人間中心」というコンセプトだったと開発責任者のテッド・クラウス氏は強調した。先代NSXの特徴だった、「高性能を誰にでも扱いやすくする」というコンセプトを継承し、競合するスーパーカーを凌駕(りょうが)する性能を達成しつつ、それを特別な技量を持つドライバーでなくても発揮できることを目指したという。
新工法のアルミ鋳造部品を採用
車体設計は“スポーツカーの基本”に忠実なもので、重い部品をなるべく車体の中心付近に低く配置している。エンジンの潤滑はドライサンプ方式を採用し、オイルパンをなくすことでエンジンの搭載位置を61mm下げることができた。バンク角は、レジェンドなどに積んでいるV型6気筒エンジンの60度より広くし、エンジン全高を抑えたほか、カム駆動にはロッカーアームを採用してシリンダーヘッドもコンパクト化している。さらに燃料供給はポート噴射と筒内直接噴射の両方のシステムを備え、運転状況に応じて使い分ける。圧縮比は10:1である。
車体は、アルミニウム合金を中心として、複数の種類の素材を使った「マルチマテリアルボディー」を採用した。主要骨格はアルミ合金の押し出し材だが、フロントピラーなど、細くすることが重要な部品には、ホットプレスにより成形した高張力鋼板を採用している。ホットプレスは、加熱した鋼板を水冷金型で成形することで急冷し、一種の「焼き入れ」を施すことで高い強度を得る加工法で、3次元形状の部品を成形するのは世界初だという。
また、押し出し材同士を結合するジョイント部材のうち、フロント周りなど強度や衝突安全性が要求される部品にはアルミ合金の「アブレーション鋳造」という成形法を世界で初めて採用した。アブレーション鋳造は、砂型内で部品が凝固している途中で、砂型に水を噴射して崩壊させ、部品を急冷することで高い強度を得る手法だ。競合他車に対して、ねじり剛性を動剛性で200%、静剛性で100%向上させているという。
停止状態から発進はモーターにより静かに、そこからアクセルを踏み込んでいくと、V6エンジン+3モーターのすさまじい加速が始まる。一度アクセルを戻してから再度踏み込んだときの応答の速さは確かに従来のエンジン車では味わえないものだった。高速周回路での、ごく短時間の試乗だったので、左右の前輪を独立したモーターで駆動することによる自在なハンドリング性能は試すことができなかったが、少なくとも試乗中に不自然さを感じることはなかった。
ホンダ初の遊星歯車式AT
今回のイベントでのサプライズは、排気量3リッタークラス以上のFF車向けに開発中の10段ATを公開したことだろう。ホンダはこれまで、ATにはすべて平歯車を使った平行軸式を採用してきた。これは構造がシンプルで伝達効率が高いメリットがあるが、段数が増えるほど構造が複雑化し、大きさ、重さも増えるという難点がある。このため今回の10段ATでは、ついにホンダとしては初めて、他車の多段ATと同様に遊星歯車(プラネタリーギア)を採用した。コンピューターシミュレーションによって、約10兆通り(!)の中から、最適な構成を選び出したという。
現在、3リッタークラスのFF車には6段ATが搭載されているが、10段ATはこれに代わるものだ。FF用のATでは同じくZF社製の9ATがこれまでで最も変速段が多く、10段ATは世界初だ。ホンダのシミュレーションによれば変速段は10段で、変速比幅は10程度というのが最も効率が高いことから、10段ATの開発を決めたという。
今回開発したユニットは遊星歯車を4組使ったもので、従来の6段ATの変速比幅が6程度で、100km/h走行時のエンジン回転数が1920rpmだった。これに対して、今回の10段ATでは1500rpmと26%回転数を低くすることが可能になり、静粛性が向上するほか、燃費も6%改善するポテンシャルがあるという。また出力歯車の内側にも遊星歯車機構を内蔵したり、前後進切り替え機構を工夫したりするなどでコンパクト化を図り、変速機の長さを従来の6段AT並みに抑えた。つまり、従来6段ATが収まっていたスペースに、そのまま10段ATを搭載することができるわけだ。
今回のイベントでは、この10段ATを「アキュラXLR」に搭載した実験車両に試乗することができた。変速ショックを感じさせない滑らかな動作は、もはや最近のATでは当たり前なのでそれほど驚かないが、定常走行から急加速に入るときには、10速から6速、あるいは7速から4速といった3段飛ばし、4段飛ばしの変速を行い、それでもそれほどのショックを感じさせないのは印象的だった。10段ATだとどうしても変速動作がビジーに感じさせるのではという懸念があったが、それを払拭(ふっしょく)する応答のよさである。10段ATの実用化時期についてはまだ明らかにしていないが、数年以内には搭載が始まりそうだ。
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1.8リッターなみの出力を1リッターの排気量で
一方で、エンジンで注目されるのが1リッター3気筒の直噴ターボエンジンだ。ホンダの直噴ターボエンジンシリーズは、すでに2リッターターボが「シビック タイプR」に、1.5リッターターボが国内では「ステップワゴン」「ジェイド」に搭載されている。1リッターターボは、1.8リッターの自然吸気エンジンと同等以上の出力特性を備えており、今後1.5~1.8リッターの自然吸気エンジンをこれに置き換えていくとみられる。まず中国向けの車種、続いて欧州「シビック」などに搭載を計画しているというが、国内への投入時期・車種は明らかにしていない。
新型1リッターターボエンジンの最高出力は129ps(95kW)、最大トルク20.4kgm(200Nm)で、圧縮比は10.0。機構面では、カムシャフトの駆動にチェーンではなくベルトを採用したのが特徴だ。かつてカムシャフトはベルト駆動が主流だったが、10万km程度で交換が必要なことから、国内メーカーではチェーンへの置き換えが進んだ。しかし、最近ではベルトの耐久性が向上し、交換が不要になったことから、欧州では再びベルトに戻る動きが顕著になっている。ベルトはチェーンに比べると駆動音が静かで摩擦損失が小さいという特徴がある。
3気筒エンジンは回転変動が大きいが、ベルトはこれを吸収するメリットもあるという。小型車用の小排気量エンジンだが、ウエストゲートは電動で、吸気・排気バルブともに可変バルブタイミング機構を備えるほか、吸気側には「VTEC」(可変バルブタイミング・リフト機構)も備える。さらに排気側にナトリウム封入バルブも備えるなど、かなりぜいたくな設計といえる。このエンジンを欧州シビックに搭載した実験車両に試乗したが、ターボラグはほとんどなく、3気筒特有の振動も感じさせないうえに、1リッターという排気量を感じさせない高い動力性能を発揮していた。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=webCG、本田技研工業)

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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