トヨタ・クラウンアスリートS-T(FR/8AT)
“新しいクラウン”への挑戦 2015.11.06 試乗記 注目すべきは2リッター直4ターボエンジンの採用だけにあらず。マイナーチェンジを受けた「トヨタ・クラウン」の実力を試した。走りの進化やデザイン変更の先にあるもの
2012年12月に登場した14代目クラウンがマイナーチェンジ。スポーティー仕様の「クラウン アスリート」に加わった、直列4気筒直噴ターボエンジン搭載モデルに試乗した。
なお、このエンジンと組み合わされる駆動方式はFR(後輪駆動)のみ。この仕様がラインナップに加わったことで、アスリートの2.5リッターV6モデルからはFR車がなくなり、4WD車のみとなった。
外観の大きな変更点はふたつ。まず、ロー&ワイド感を強調するためにフロントグリルがバンパー下端まで広げられた。クラウン アスリートのグリル形状はビートたけしの「コマネチ!」のポーズに似ていることから、一部の自動車ファンの間では“コマネチ・グリル”と呼ばれている。今回の意匠変更によって、「コマネチ!」の動きがさらにダイナミックになった。
もうひとつはリアコンビランプのデザインで、注意深く見ないとわからないが、丸形のランプが大径化され、内部のデザインも変更されている。
2リッターの直4を積むクラウンに満足、納得できるのかと思いながら走りだすが、まず感じたのはボディーのしっかり感だった。一般道でも、イヤらしいつなぎ目が連続する首都高速でも、がっちりしている。
金属の板を組み合わせたというより、金属の塊から削り出したかのような剛性感は、ちょっとBMWっぽい。マイナーチェンジにあたっては、構造用接着剤の採用と90カ所以上におよぶスポット溶接の増し打ちでボディー剛性の強化が図られたというが、その効果は確実に表れている。
エンジンよりまずボディー剛性に目が行ったということは、すなわち2リッターの直4に不満を感じなかったということでもある。
一般に、「ダウンサイジングしたエンジン+ターボチャージャー」の組み合わせだと、発進時のタイヤのひと転がり、ふた転がりの力感が物足りないケースがある。けれどもクラウン アスリートの場合は、エンジンの極低回転域から有効なトルクが感じられるのだ。
ターボチャージャーによる過給は、指摘されなければ自然吸気エンジンだと勘違いするほど自然だ。アクセルペダルを踏み込めば、「コーン」という乾いた音の高まりとともに、気持ち良くパワーが盛り上がる。
素早く、かつスムーズにシフトする8段ATにも文句はない。ただし、樹脂製のシフトパドルの手触りはイマイチ。“コマネチ・グリル”を大型化する予算があるのなら、こちらに回してアルミ削りだしのシフトパドルにしてほしかった。
ワインディングロードに持ち込むと、「これがクラウン?」というフレーズが口を衝(つ)くほど敏しょうに走る。ステアリングホイールを操作すると、間髪入れずにスパッと正確に向きを変える。しなやかな乗り心地とシャープなハンドリングを両立しているあたり、サスペンションのセッティングがうまくいっているのはもちろん、先述したボディーの強化も大いに貢献しているとニラんだ。
走行制御モードで「スポーツ」を選ぶと、エンジンのレスポンスが一段と鋭くなり、ステアリングホイールの手応えもグッと男らしくなる。確かにこのクルマは“アスリート”だ。
面白いと思ったのが、オプションで12色ものカラーバリエーションが用意されていることで、写真の青系だけでも3種類もある。クラウンといえば白・黒・銀のイメージだけれど、空色のクラウンも新鮮だ。
走行性能といい、デザインといい、色といい、クラウンが新しい“クラウン像”にチャレンジしていることが感じられた。「昔の名前で出ています」ではないのだ。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)
【スペック】
全長×全幅×全高=4895×1800×1450mm/ホイールベース=2910mm/車重=1610kg/駆動方式=FR/エンジン=2リッター 直4 DOHC 16バルブ ターボ(235ps/5200-5800rpm、35.7kgm/1650-4400rpm)/トランスミッション=8AT/燃費=13.4km/リッター(JC08モード)/価格=450万円
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.20 「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
NEW
開幕まで1週間! ジャパンモビリティショー2025の歩き方
2025.10.22デイリーコラム「ジャパンモビリティショー2025」の開幕が間近に迫っている。広大な会場にたくさんの展示物が並んでいるため、「見逃しがあったら……」と、今から夜も眠れない日々をお過ごしの方もおられるに違いない。ずばりショーの見どころをお伝えしよう。 -
NEW
レクサスLM500h“エグゼクティブ”(4WD/6AT)【試乗記】
2025.10.22試乗記レクサスの高級ミニバン「LM」が2代目への代替わりから2年を待たずしてマイナーチェンジを敢行。メニューの数自体は控えめながら、その乗り味には着実な進化の跡が感じられる。4人乗り仕様“エグゼクティブ”の仕上がりを報告する。 -
NEW
第88回:「ホンダ・プレリュード」を再考する(前編) ―スペシャリティークーペのホントの価値ってなんだ?―
2025.10.22カーデザイン曼荼羅いよいよ販売が開始されたホンダのスペシャリティークーペ「プレリュード」。コンセプトモデルの頃から反転したようにも思える世間の評価の理由とは? クルマ好きはスペシャリティークーペになにを求めているのか? カーデザインの専門家と考えた。 -
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。