アウディA3スポーツバックe-tron(FF/6AT)
もう特別扱いはいらない 2015.12.11 試乗記 アウディブランド初となるプラグインハイブリッド車「A3スポーツバックe-tron」に試乗。実際に接してわかった、一般的なガソリンエンジン車との走りの違いや燃費性能、給電・充電のコツなどを報告する。CHAdeMOには非対応
試乗車を受け取ってメーターを見ると、バッテリーの充電状態を示すLEDバーグラフは8つのうち2つだけが点灯している状態だった。これは困る。A3スポーツバックe-tronはプラグインハイブリッド車なのに、電池残量が少なければ重めのハイブリッド車でしかない。ちゃんとテストするためには、早く充電しなければ。しかし、自宅ガレージなど持っていないから、夜間充電ができない。諦めて、翌日充電サービスを受けられる場所に行くことにした。
このところ充電インフラはかなり充実してきていて、高速道路のサービスエリアには急速充電器が備えられているのが常識だ。気の利いたショッピングモールなら、充電専用駐車エリアが設置されている。観光地もEVで来訪してもらうための施策を進めているところが多い。箱根では町をあげて取り組んでおり、「充電スポットマップ」なるものが配られていたりする。
それで甘く考えていたのだが、大事なことを見落としていた。e-tronが対応しているのは、100Vと200Vの普通充電だけなのだ。設置されている充電器の多くは日本発の規格であるCHAdeMO対応のものである。以前「BMW i3」に乗った時は、設置されているのが普通充電器だとガッカリしていた。CHAdeMOと普通充電の両方に対応しているので、圧倒的に速いCHAdeMOのほうがうれしいに決まっている。しかし、e-tronでは何の役にも立たない。
ネット上には充電スポットの情報がたくさんあるが、普通充電器の数は驚くほど少ない。それでも充電スポット密度の高い東京だけあって、自宅からほんの数キロ走ったところに普通充電器が設置されているという情報があった。200Vなら3時間ほどでフル充電になるので、車内で本でも読みながら待てばいい。
フル充電時はモーター走行優先
翌朝ネット上の充電スポットマップに示された場所に行ってみると、充電器がないどころかただの資材置き場だった。やはりネット情報をうのみにしてはいけないのである。気を取り直して区役所駐車場に行ってみると、充電器のそばに空きスペースがなくて利用できない。12もの充電器があるはずのビル駐車場は、すでに充電器提供をやめてしまっていた。次に行った場所も、あるはずの普通充電器はなくてCHAdeMOだけ。ようやく充電できたのは、5カ所目のコインパーキングである。
充電は無料で、駐車代だけを払うシステムである。e-tronの充電ポートはシングルフレームグリルの上部に設置されていて、フォーリングスを横にずらすと現れる。コネクターを接続すると、LEDパネルがグリーンに光って正常に充電が行われていることを知らせた。小雨が降っていたのでビビりながらの作業だったが、もちろんこのくらいで感電するようでは商品にならない。
充電状況はメーターパネル内のディスプレイで確認できる。完了するまでの時間とEV走行で到達できる距離が表示されるのだ。リチウムイオン電池は8.7kWhの容量で、モーター走行の航続距離は52.8kmとされる。でも、充電完了時に表示された数字は42kmだった。
LEDバーグラフは8つすべてが点灯している。これで本来の性能が引き出されることになったのだ。充電が足りない状態では常にエンジンがかかっていた。ダッシュボード上のボタンで走行モードを選ぶことができるようになっているが、充電不足の時はEVモードが選択できなくなっていた。フル充電だとモーター走行が優先される。他のモードを選んでも、一度エンジンを切ると再始動した時にはEVモードに戻っていた。
EVモードで走れるのは約30km
モーターのみでも、加速力はなかなか。少しアクセルペダルを多めに踏むと、タイヤを鳴らして急発進する。走行感覚はごくノーマルなものだ。BMW i3はあえてガソリン車とは違う操作性にしていて、アクセルオフで回生ブレーキが強く働くようになっていた。急激にスピードが落ちるので、ブレーキを使わずに走行することも可能なほどだったのだ。
e-tronのブレーキはナチュラルである。最初は少し利きが甘いようにも感じたが、すぐに慣れた。ガソリン車から乗り換えても、違和感を持つ人は少ないだろう。ハイブリッド車であることを意識せず、普通のクルマとして乗れる。乗り心地も決して悪くない。アウディらしい重厚さは共通している。電池を積んで重くなっている分、よりどっしりしているように感じられた。
モーターだけでも130km/hまでスピードが出るというが、そんな走り方をすればすぐに電池残量は減ってしまうだろう。普通に乗っていても、EVモードで走れるのは30kmほどだった。8.7kWhという容量ではそれが限界だ。通常は「ハイブリッドオート(充電使用)」というモードで、適度に充電しながら走るようになっている。充電を優先したければ、「バッテリーレベル持続(充電継続)」「ハイブリッドチャージ(充電増加)」というモードが用意されている。深夜に帰宅する時など、最後に静かなモーター走行をしたい場合などには有効だ。
「ハイブリッドチャージ(充電増加)」モードを試してみたら、短時間で電池の残量が増えていった。モーターが駆動力として使われず、エンジンの出力はかなりの部分が充電に割かれているようだ。当然ながら、燃費は悪化する。本末転倒の使い方だから、どうしてもという事情でなければ使う理由はない。
自宅ガレージでの充電が前提
ワインディングロードにも持ち込んでみた。やはり多少重さは感じるが、よくしつけられた走りを見せる。ハイブリッドだからという理由でデメリットをなおざりにはしていない。ステアリングを切れば遅れを見せずに狙い通りの方向に鼻先を向ける。コーナーの立ち上がりでは、モーターアシストの力強さがありがたい。
ハイブリッド車の大先輩である「トヨタ・プリウス」は、4代目になってシャシー性能が大幅に向上した。これまで少々のガマンを強いられた乗り心地とハンドリングは、劇的に改善されている。しかし、e-tronはそれを上回るほどのしっかりとした作りだ。ガソリン車と比較しても、ほとんど弱点がない。ハイブリッド車を環境車として特別扱いする段階はすでに終わったようだ。
e-tronの燃費はJC08モードで23.3km/リッターとされている。今回の試乗では、満タン法で14.9km/リッターだった。どう評価するか、微妙なところだ。まあまあの数字とも言えるが、564万円もするわりにはもの足りないような気もする。ただ、本来の使い方をしたとは言えないところもある。普段は往復30km圏内でEVとして使い、家に帰って夜間に充電する。ガソリンを使うのはたまの遠出だけというのが正しい乗り方だろう。そうすればカタログ燃費にもう少し近づくはずだ。
急速充電に対応していないということは、自宅ガレージでの充電を前提としているということを意味する。CHAdeMO対応の「三菱アウトランダーPHEV」とは異なる性格のクルマなのだ。月極め駐車場を借りているユーザーは想定していない。住環境によって価値が大きく変わるクルマである。
(文=鈴木真人/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
アウディA3スポーツバックe-tron
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4330×1785×1465mm
ホイールベース:2635mm
車重:1600kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:150ps(110kW)/5000-6000rpm
エンジン最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-3500rpm
モーター最高出力:109ps(80kW)
モーター最大トルク:33.7kgm(330Nm)
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:23.3km/リッター(ハイブリッド燃料消費率/JC08モード)
価格:564万円/テスト車=639万円
オプション装備:ボディーカラー<フロレットシルバーメタリック>(7万円)/S lineスポーツパッケージ(18万円)/LEDヘッドライト(14万円)/ルーフレール<アルミニウム>(4万円)/充電ケーブルコネクターロング+充電ケーブル<100V/200V 7.5m>(1万円)/パノラマサンルーフ・ライティングパッケージ(14万円)/Bang & Olufsenサウンドシステム(11万円)/プライバシーガラス(6万円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:928km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:633.7km
使用燃料:42.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.9km/リッター(満タン法)/13.2km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
NEW
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
NEW
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。

