アウディA3スポーツバックe-tron(FF/6AT)
クルマとしてよくできている 2015.10.20 試乗記 アウディにとって初のプラグインハイブリッド車(PHEV)である「A3スポーツバックe-tron」が、いよいよ日本でデビューを果たした。自動車の“電化”で先行する日本勢に対し、アウェイの地で戦いを挑むドイツ生まれのPHEVの出来栄えを試す。電気だけで52.8kmを走れる
「アウディ初のプラグインハイブリッドモデル」であるところのA3スポーツバックe-tron(長い車名なので以下「A3e」と略します)は、総電力量8.7kWhのリチウムイオン二次電池に、ある程度かもっと電力がたまっている状態で走ると、これはかなり、またはほとんどただの電気自動車(EV)である。
わざわざEV走行モードにしなくても。国土交通省審査値的には、電気駆動のみでの航続距離は52.8km。リアルワールド上ではハナシ半分、いや仮に6割としても30km超。横浜みなとみらい近辺で開催されるプレス試乗会のひと枠で走る距離が、一般道メインのコースだとだいたいそれくらい……かな~。
なおご参考までに、ほかのプラグインハイブリッド車=PHEV(そのスジの人たちは“ピーヘブ”と呼んだりします)の走行用というか駆動用の二次電池の総電力容量を列挙すると……
・トヨタ・プリウスPHV:4.4kWh
・三菱アウトランダーPHEV:12kWh
・ホンダ・アコード プラグインハイブリッド:6.7kWh
……ザッとこんな具合。あと、純EVの「日産リーフ」がたしか、24kWhとか。
で、A3e。PHEV化に伴う重量増は250kgだそうで、試乗した個体の車両重量は1600kg(車検証記載値)。うちわけは、前軸重量が910kgで後軸重量が610kg。計算上、全体の57%弱がフロントアクスルに載っかっている。わかりやすくいうと、ハナが重めのFRぐらいの感じの前後配分。
リチウムイオン二次電池は、フツーの「A3」だったら燃料タンクがある場所にある。つまり後席の下。ではA3eの燃料タンクはどこにあるかというと、荷室の下。容量40リッター。「MQBはPHEVへの対応も当初より織り込み済み」うんぬんとは、そのへんのこと(例えば後突時のタンクの保護能力とか)もふくめてのこと……なんでしょう。どれどれと思いながらノゾいてみたところ、まず目に入ったのはダンパー。貼られたラベルにいわくSACHS。おー。「一般的なツインチューブダンパーのいっこいっこの部品の足りないところ、ダメなところをぜーんぶ直していくと……SACHSになるんですよ(笑)」とは、某サスペンションの達人談。
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走り味は「トランスミッションの付いたEV」
プレス試乗会ということで、バッテリーは満タンだぜ~。(1)電気運転(EV)のほかに、(2)ハイブリッドオート(充電使用)、(3)バッテリーレベル持続(充電継続)、(4)ハイブリッドチャージ(充電増加)がある動力……というかエネルギー源のマネジメントのモードのうちから、フツーに考えてこれが常用モードだろうということで(2)をチョイス!! で……「EVじゃん!!」。
周囲の流れにのってD=ドライブで街なかをフツーに走っているかぎり、エンジンさんはほとんどコンニチワしない。あるいは、ワザとイジワルな踏みかたをしないかぎり。でも「ただのEV」というのは正確ではなくて、A3eの場合、電気モーターの出す力も内燃機関駆動のときと同じくトランスミッションを経て駆動輪へ伝わる。1速でスタート。2速、3速、4速、5速、6速、まだEV。さすがに7速へは入らなかったけど、実はこのトランスミッション、そもそも前進用のギアは6速までしかない。DSG……ではなくてSトロニック。DCT。「6段で十分ですよ!!」……とはいわれなかったけど、仕方なくではなくあえての6段であるもよう。
パワートレインの構成要素は、上流というか進行方向右側から順に1.4 TFSIモーター→クラッチ1(とアウディが呼んでいるわけではありません)→電気モーター→クラッチ2(同)→6段自動変速トランスミッション。EV走行中はクラッチ1がディスエンゲージされていて、クラッチ2は発進の瞬間から“つなぎっぱ”、だと思われる。クラッチワーク不要。で当然といえば当然のことに、発進はお上手。その先の加速もお上手。というか気持ちe。
(1)か(2)(それとたしか[3]も)のモードでDレンジで走行中にアクセルペダルの踏み込みを戻すか離すかすると、クルマはコーストする。つまり、ギアをニュートラルにしたのと同じ状態になる(実際やってみたところ同じだった)。ブレーキペダルを踏んで初めて回生ブレーキがきく。ただし、コースト走行だと車速が上がってしまってコワいことになるような下り勾配の状況では、アクセルペダルから足を離しただけで回生が始まる。このテのクルマということで気になるブレーキのタッチは、簡単にいうと「問題なし」。
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徹底的に、電気で走る
エンジンブレーキ、いや回生ブレーキを積極的に使いたい場合は、ATのセレクターをDから左へパタンとやってM=マニュアル変速モードに入れるといい。でまたM→D。「Dから手前へチョンと引いてSレンジへ」という方法もあるけれど、それだとパワーマネジメントのモードが(2)から(3)へ勝手に切り替わってしまう(でもって、あらためてスイッチとダイヤルをイジって設定しなおさないかぎり二度と戻らない)。なお、(1)のモードで走っているときにD→Sをやったらどうなるかは、試してないのでわかりません。
速度域や負荷の関係から、首都高上では内燃機関が比較的かもっとフツーにコンニチワする。電気から内燃機関へのスイッチは、これはものすごくうまい。スムーズ。うっかりしていると気がつかない。それと、ちょっとでも気を抜くと(実際にはアクセルペダルの踏み込みを戻すか離すかすると)、すぐにサヨナラ=休止→コースティング。そこから再び踏み込むと、まずは電気モーターの駆動が入る。踏みようによってはすぐに内燃機関駆動モードになるけれど(ここのスイッチングがまたうまい)、その際も必ず、先に電気モーターから。エンジン始動の仕事をやって一瞬でサヨナラ、ということか。
電気モーターのみで出せる“Vmax”は130km/h、つまりアウトバーンの常用速度。そこまでは試していないけど、多少の勾配変化がある状況でも80km/hや90km/h(一般道でも首都高でもないところでも試したのですハッハッハ)だったらフツーにEV走行は可。繊細なアクセル操作でなんとかしてEV走行モードを呼び出さないといけないようなものではぜーんぜん、なかった。
メインの常用モードと思われる(2)のハイブリッドオート(充電使用)は、たしかに「使用」っぽい。ガソリン内燃機関における低負荷時の燃費(より正確には燃費率=g/psh)の悪さを、電動モーターでカバーできるのがガソリン系ハイブリッドのメリットのひとつであるから、内燃機関走行中は適宜充電もするけれど、ちょっと電気を使ったらすぐに「あー補給補給」……みたいなセコいことに全然、またはほとんど、なっていない。「使用といったら使用だリッヒ!!」とドイツ人はいうだろうか。とにかくテッテー的に電気を使う。「使ってもいいように、自宅でちゃんと充電しておくべきッヒ」。充電に要する時間は、200Vで最大3時間。100Vだと9時間。急速充電にはニッヒト対応(非対応)。
「運転しやすいハイブリッド車」という希少な存在
で、皆さん。お待たせいたしました。ようやくバッテリーの電力残量がそれらしく減ってまいりました。LEDが合計8個あるバーグラフの残量メーターでいうと、点灯状態なのは1個。パワーマネジメントのモードは(2)のまま。容赦なし。さあどうなるか?
簡単にいうと、実質(3)のモードになってるもよう。つまり、電力残量メーターのバーグラフのLEDが1個だけ点灯した状態をキープしようとする。発進は相変わらずby電気。ただし、内燃機関の介入というか1.4 TFSIモーターへのスイッチのタイミングが早くなる。2速で介入。あるいはたしか、1速でも? そこまでいっても、アッという間に電気駆動をやめてしまうガッカリ感や段ツキ感はなし。上手。それと、よーやるわ。
根負け(笑)して、(4)のモードへ。ハイブリッドチャージ(充電増加)。リチウムイオン二次電池のSOC(ステイト・オブ・チャージ=充電状態)のウィンドウつまり「減ったり増えたりするのはこの範囲内限定ですよ」の下限ギリに近づいたと思われるところまでいくと、アイドリング停止が停止。要はフツーにアイドリング(しながら充電)するようになる。ブレーキペダルから足を離すと、そこから内燃機関でクリープ開始。こっちも発進はフツーに上手。あと、このモードだと、アクセルペダルから足を離しただけで回生ブレーキ発動。
ほぼ常時充電、つまり発電機になった電気モーターを駆動しながらクルマを走らせる仕事もやっている1.4 TFSIモーターに対して、車重は相変わらず1.6トン(かもっと)。速さというか加速の感じはその額面なりだけど、フツーに運転する範囲で困ったりイライラしたりはまったくない。十分である。
それとA3e、パワーマネジメントのモードがどれであってもフツーに、つまりいまのフツーのアウディA3や「フォルクスワーゲン・ゴルフ」なんかと同じように運転しやすい。そのかぎりにおいては、ハイブリッドうんぬんプラグインうんぬんのことは一切気にする必要がない。または、ほとんど。その一方で、いわゆる(なのか?)ハイブリッド感は、これはすごくある。運転しやすくて快適でハイブリッド感もあるハイブリッド車は貴重、といってもいい。パワートレインのドライバビリティーに関していうと、電気羊いや電気CVTの悪夢みたいないうこときかなさと無縁のハイブリッドであるところがすごくイイ(電気じゃなくてもCVT物件は概して悪夢度が高いですが)。
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動力源がなんであるかを論ずる前に
プラグインだろうとハイブリッドだろうと、クルマはクルマ。人が乗って操るものとしての基本のところがまずは大事。ものすごく大事。ハイブリッドうんぬんプラグインうんぬんに関するアレやコレやもさることながら、A3eはそこがちゃんとしている。
ハイブリッドというとついアレ、運転しやすさよりもクルマの都合優先でゴチャゴチャ変わる(のが乗っててすごく煩わしい)パワーというかエネルギーというかのマネジメント状況がどうなってるのかに気をとられているとただでさえアヤしい直進性その他がさらに盛大にナニなことになって進路はフラつくわ速度は高低ブレまくるわオマケにブレーキもヘンだわでいよいよもってタイヘンなことになる某車のことがアタマに浮かぶけれど、A3eはそういうものでは全然ない。車体剛性その他モロモロ、クルマとしてマトモ。
あと、思わず書き忘れそうになる加点要素としてオトシン環境。一見静かなところへ雑然としたいろんな安っぽい音や振動が入れ代わり立ち代わり現れては消え現れては消え……というイヤな感じが、A3eにはない。「あ、そういえば……」という感じでフツーに静か。そういえばといえば、EPS=電動パワステの手応えも望外にフツーだった。速度によってカルさ重さがグイングイン勝手に変わるのがすごくイヤで、アウディのドライバーセレクトなんとかは大嫌いというかついてたらその時点で即NGとすら思っていたけれど、これなら別に。ほぼ、現行ゴルフなみ。
それと、乗り心地。基本は車体というか骨格で、それプラス、ダンパーのよさによるものと思われる部分の印象もよい。圧側の減衰がしっかり効いているなかで、動きはじめのアタリはキツくない。ストロークが少し深くなってピストンスピードも高くなって……のところで急にグゴッとカタくなる感じもない。作動の精度感が高い。あるいは応答性がいい。部分補修だらけの道でゴツゴツ感が少し気になることはあったけれど、これはオプションの飾り装備(18インチのタイヤ+ホイールと、パンクした車輪みたいな形状のステアリングホイールとがセットになった「S lineスポーツパッケージ」)をワザワザ選ぶことをしなかったら確実にマシであるはず。
(文=森 慶太/写真=荒川正幸)
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テスト車のデータ
アウディA3スポーツバックe-tron
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4330×1785×1465mm
ホイールベース:2635mm
車重:1600kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:150ps(110kW)/5000-6000rpm
エンジン最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-3500rpm
モーター最高出力:109ps(80kW)
モーター最大トルク:33.7kgm(330Nm)
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:23.3km/リッター(ハイブリッド燃料消費率/JC08モード)
価格:564万円/テスト車=639万円
オプション装備:ボディーカラー<ミサノレッドパールエフェクト>(7万円)/S lineスポーツパッケージ(18万円)/LEDヘッドライト(14万円)/ルーフレール<アルミニウム>(4万円)/充電ケーブルコネクターロング+充電ケーブル<100V/200V 7.5m>(1万円)/パノラマサンルーフ・ライティングパッケージ(14万円)/Bang & Olufsenサウンドシステム(11万円)/プライバシーガラス(6万円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1439km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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森 慶太
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