メルセデス・ベンツG550(4WD/7AT)
平和の象徴 2016.01.08 試乗記 デビューから36年を経た現在も高い人気を誇る、メルセデスのクロスカントリービークル「Gクラス」。4リッターV8ツインターボを搭載する最新モデル「G550」に試乗し、その魅力について考えた。 拡大 |
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自動車が自動車であったころの自動車
隙間はあるみたいだけれど、鉄板の厚いドアはドンッと閉まる。さながら金庫のごとし。1980年代までのメルセデスが持っていた、かような金庫感覚が21世紀のこんにちなお、現行生産車で体験できるとは! ある種の奇跡である。ちなみにドアを開けるときはドアノブのボタンを押しながら引っ張らないと、絶対にあきまへん。
運転席はトラックに乗るみたいによじ登る。健康な足腰がいる。1979年に発売されたGクラスは、もともとNATO制式採用の軍用車である。ガラスを含めた面という面はいまどき珍しい四角四面の平面で構成される。
いつの間にかインストゥルメントパネルだけが妙に新しいわけだけれど、かつてゲレンデヴァーゲンと呼ばれたこの4×4クロスカントリービークルは、頑丈なラダーフレームと前後リジッドのサスペンションを持っている。後付けのぜいたくな内装と強力なエンジン以外は、機能主義が貫かれている。それはもちろん、戦場を駆け巡るために開発されたクルマだからだ。
G550は昨年のマイナーチェンジで登場した最新Gクラスの中核モデルで、メルセデスAMGゆかりの4リッターV8直噴ツインターボを隠し持つ。「メルセデスAMG GT」「C63」の心臓部と共通のコンポーネンツからなるそのV8は、ひとりのマイスターが1基を組み上げるAMG製ではないものの、最高出力422ps/5250-5500rpm、最大トルク62.2kgm/2000-4750rpmを生み出す高性能ユニットである。そんなものが、可変ダンパーシステムを持つとはいえ、ラダーフレームに前後リジッドのトラック用というべきシャシーに組み合わされている。世の中間違っとるよ、と歌いたくなる。いわばこれはモーガンにアメリカンV8を載せたようなものではないか。そういえば「ACコブラ」のようなスポーツカーもあったわけで、そうか、ラダーフレームに大排気量V8の組み合わせは、カルトカーを生み出す方程式なのだ……。
G550は現代の基準でいうと、ヒドいクルマである。前後275/55R19のタイヤは、当たりはソフトだけれど、乗り心地はトラックそのもの。体重100kgの巨漢5名と荷物を満載すれば別だろうけれど、硬くて跳ねる。落ち着きがない。速度は控えめなほうがよい。まっすぐ走らないように感じるから。それと、空気抵抗がいかにもでかいので、高速になるほど風切り音がでかくなる。車重が2560kgもあるから、ブレーキはお早めに。
Gクラスはつまり、クラシックカーなのだ。かつてのオリジナル「MINI」や「シトロエン2CV」、「フォルクスワーゲン・ビートル」や「ランドローバー」がそうであったように、自動車が自動車であったころの自動車を21世紀のこんにち、味わうことができる。
なんと、日本でGクラスをお買い求めになる人はキャッシュでの支払いが多いという。G550で1470万円もするのに……。中古車になっても値段が下がらない。投資の対象になるらしい。
なぜGクラスはいま、かくもオシャレな存在としてあがめ奉られているのか? つまりこれは、軍用車としての機能をいったん解体しているところに大いなる意味があるのではあるまいか。足元を見てほしい。こんなにステキなホイールを履いていたら絶対にオフロードになんて行けないでしょう。本当はいちばんうまいところを捨てているのだから、これほどムダで、それゆえ贅沢(ぜいたく)なことはない。
コンクリートジャングルをサバイブするための究極の民生用軍用車。メルセデス・ベンツGクラスは、平和の象徴なのだ。ピース!
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)
【スペック】
全長×全幅×全高=4575×1860×1970mm/ホイールベース=2850mm/車重=2560kg/駆動方式=4WD/エンジン=4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ(421ps/5250-5500rpm、62.2kgm/2000-4750rpm)/トランスミッション=7AT/燃費=--km/リッター/価格=1470万円

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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