第332回:運転にまつわる“ちょっと特別な体験”を提供
「アウディドライビングエクスペリエンス」体験記
2016.01.20
エディターから一言
拡大 |
アウディが、本国ドイツでは1983年から実施しているユーザー向けのドライビングセミナー「アウディドライビングエクスペリエンス」を体験取材。低ミュー路での急ハンドル&急ブレーキと、スポーツ走行の“基本のき”の講習を通して、記者が感じたものとは?
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
雪道の走り方からサーキット走行まで
スタートの合図と同時にウエット路面にアクセル全開で進入。白いパイロンを通り過ぎたらスロットルオフと同時に右にハンドルを切って車線変更し、即座に左にハンドルを切ってもとの車線に戻る。とっちらかりかけたクルマの姿勢をESPの手を借りつつ(どちらかというとESPが主役?)必死になだめ、ゴールを示す緑のパイロンをどうにか通過。「これでよかったのかな?」と思っていると、助手席に座るインストラクターの田部雅彦さんが「グッドです」と声をかけてくれた。
これは、2015年12月に催されたアウディドライビングエクスペリエンス体験取材会でのひとコマ、ダブルレーンチェンジの講習の様子だ。アウディドライビングエクスペリエンスとはその名の通り、クルマの運転にまつわる“普段できないような経験”を提供してくれる、アウディ主催のドライビングセミナー、およびアクティビティープログラムである。
その内容は、例えば北海道のテストコースで氷雪路でのクルマの挙動を学んだり、はたまた低ミュー路でのドライビングや電子制御の効果を体験したり、サーキットでのクルマの走らせ方を学んだり……と多岐にわたる。果てはフィンランドの結氷した湖畔地帯で“極限のウインタードライビング”を学んだり、ミドシップのスポーツカー「R8」でアルプス地方をロングツーリングしたりといった、旅行代理店も真っ青な海外プログラムまで用意。今回取材したのはもちろん、最後に紹介したR8による魅惑のヨーロッパツアー……ではなく、低ミュー路での運転を学ぶ「“アクティブセーフティー”コース」と、レースへの参戦も視野に入れた「アウディレースエクスペリエンス」のプログラムである。
最初はフルスロットルが踏めない人もいる
最初に参加したのは“アクティブセーフティー”コースの2つの講習。低ミュー路におけるフルブレーキを踏みながらのレーンチェンジと、ダブルレーンチェンジである。
実を言うと、事前の説明で「今日体験するのは、セミナーの中でも初歩的な内容のものですから」と言われていたこともあり、記者はその内容を「自動車教習所で受けた急ブレーキの講習みたいなものかな?」と考えていた。しかし、実際に体験すると、それはもう少し、いや結構踏み込んだ内容だった。どちらの講習でも四方八方からかかる強烈なGに体を持っていかれそうになるし、フルブレーキを踏めばABSの「ガガガガ!」という音と振動に、「こんなことして、クルマ壊れちゃうんじゃないの!?」と違う意味で冷や汗をかく。
クルマに慣れている人はともかく、そうでない参加者はビックリするのではないかと思って田部さんに尋ねてみたところ、「パイロンのずっと手前でアクセルから足を離してしまう方もいるし、そもそもはじめはフル加速ができない方も珍しくありません」とのことだった。さもありなん。
もちろん、そうした人でもインストラクターがきちんとクルマの動かし方を教えてくれるので心配は無用。冒頭で触れた、ダブルレーンチェンジで記者がクルマの挙動を乱してしまったことについても、「タイヤのグリップを無視してパキパキとハンドルを切ってしまったから」とアドバイスをいただいた。
「ハンドルだけに頼った操作では、フロントタイヤの向きが変わるだけでクルマは曲がりません。ハンドルはスムーズに、フロントタイヤのグリップが回復するのを感じながら操作しましょう」
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
座学と実技で、クルマの走らせ方を学ぶ
続いて体験したのは、アウディレースエクスペリエンスの「トレーニングセッション」に含まれる、ステアリングワークの講習である。ちなみにアウディレースエクスペリエンスには、スポーツ走行を基礎から学ぶトレーニングセッションとサーキット走行を楽しむ「サーキットトライアル」の2つのプログラムが用意されており、モータースポーツ未経験者はトレーニングセッションを受けてからでないとサーキットトライアルには参加できない仕組みとなっている。
ステアリングワークの講習では、荷重の変化にともなうタイヤのグリップ力の増減と、そのグリップ力をいかに加減速や旋回に振り分けるかを、座学と、実際にクルマを動かして学ぶ。
実技については、仮想のレコードラインを想定して並べられたパイロンにそって、最短距離をできるだけ速く走る練習が行われる。ありていに言えば、小さなオーバルコースをぐるぐる回るだけなのだが、これが結構奥が深い。……などと偉そうに書いているが、恥をしのいで白状すると、最初に行われた反時計回りの走行では運転席からパイロンの位置が見えにくく、レコードラインにクルマを寄せるのさえ難しかった。自分の“車幅感覚オンチ”ぶりに落胆しつつ、逆回り(つまり時計回り)で行われる2本目に挑戦。ようやく、多少はレコードラインにそってクルマを走らせられるようになり、どうすればハイスピードで、かつアンダーステアを抑えて走れるか四苦八苦しているうちにタイムアップとなった。
ここで学ぶステアリングのまわし方やアクセルとブレーキの操作、荷重移動、スローイン・ファーストアウトのやり方、そしてそれらを総合した「コーナーで曲がりやすいクルマの姿勢を作る方法」などは、基本的には速度域やクルマの駆動方式などによって変わるものではないという。「2速ホールド、60km/h以下でもモータースポーツの練習はできる」とのことだった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
クルマ初心者を疎外しない雰囲気がいい
そもそもアウディドライビングエクスペリエンスは、ドイツでアウトバーンにおける事故が社会問題化したのを受けて始められたものだ。ついついスピードを出しがちなドライバーに対し、パイロンを倒すことで自分の運転を過信していたこと、クルマは怖い、思ったとおりに動かないということを知ってもらうというのがひとつの目的だった。
ただ、日本のプログラムで重視される点はそれとは少々異なるという。先ほどの田部さんによると、「日本では自分の運転に対して自信過剰な人はほとんどいません。だから日本のプログラムは、『スピードは控えめに』ではなく、『危機が迫っても最後まで操作をあきらめないこと』の大切さを知ってもらう内容としています」とのこと。そして「やったことのないことは、いざという時に出てきません。いざという時に動けるよう、あらかじめこうした場所で(クルマの動きを)経験しておくこと、そこで『なるほど』と分かっておけば、いざという時にパニックにならずにすみます」と、アウディドライビングエクスペリエンスの意義について教えてくれた。
一方のアウディレースエクスペリエンスは、日本ではまだ多いとはいえない、アウディのクルマでサーキット走行を楽しむ人、モータースポーツに参加する人を増やすために、この2016年からスタートする。今回の体験の感想としては、ポルシェやフェラーリのディーラーなどが主催するものと比べて、もう少しハードルが低く、気軽に参加できるものに思われた。特に今回体験したトレーニングセッションについては、「これからサーキット走行を学びたい」という初心者の人や、「自分が運転するクルマというものについて、もうちょっと知りたい」という姿勢の人も受け入れてくれそうな雰囲気を持ち合わせている。
富士スピードウェイまでのドライブがおっくうでない程度にはクルマ好きな人なアナタ、ぜひもう半歩、クルマ趣味に足を突っ込んでみてはいかがだろう。
(文=webCG 堀田/写真=荒川正幸)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
-
第871回:今年もグリーンヘルは熱かった! ニュルブルクリンク24時間レース観戦記 2026.5.27 “世界一過酷な草レース”として知られ、今年も波乱が巻き起こったニュルブルクリンク24時間レース。F1王者のフェルスタッペンも参戦するとあって、大いに盛り上がったその様子を、世界を飛び回るモータースポーツカメラマンが臨場感満点でリポートする。
-
第870回:熱きホンダをとことん楽しむ これが「Honda All Type R World Meeting 2026」だ! 2026.5.15 「シビック タイプR」をはじめ、“タイプR”の車名を持つホンダの高性能車ばかりが集う、激アツのイベントが開催された。気になるその内容は? 会場となったモビリティリゾートもてぎの様子を詳しくリポートする。
-
第869回:思わぬサプライズもいっぱい! クルマ好きのための祭典「シン・モーターファンフェスタ2026」で“最旬ニューモデル”に触れる 2026.4.24 日本最大級の“クルマ好きのための祭典”「シン・モーターファンフェスタ2026」に、発売を間近に控えるさまざまな注目モデルが終結! 会場の様子や、そこで得られた最新情報をお伝えしよう。
-
第868回:ウエット路面での実力は? ブリヂストンの新スタンダードタイヤ「フィネッサ」を試す 2026.4.22 2026年1月に発表されたブリヂストンの「FINESSA(フィネッサ)」は、次世代の商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を搭載する最新のスタンダードタイヤだ。ドライ路面での試走報告に続き、今回は自慢のウエット性能をクローズドコースで確かめた。
-
第867回:ハイエースオーナー必見! スマホで操作できる可変ダンパー「KYBアクトライド」を試す 2026.4.22 KYBからスマートフォンのアプリで操作できる可変ダンパーシステム「ActRide(アクトライド)」が登場。まずは「トヨタ・ハイエース/レジアスエース」用からの展開となるこのシステムの仕上がりを、実際に試乗して確かめた。
-
NEW
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
NEW
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。 -
NEW
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.6.3カーデザイン曼荼羅トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。 -
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。





























